表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
93/118

93. 提案の終わりは、処刑宣告だった

いつも応援ありがとうございます!

当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


最新話までじっくりお楽しみください!

「さて」

 深淵王は、場違いなほど穏やかな声で言った。

「今回ご招待させていただいたのは、あなた達にご提案があったからです」

「提案?」

 鬼塚鉄心(おにづかてっしん)が眉を吊り上げる。

「なんだ、それは」

「はい」

 深淵王は微笑んだ。

「ダンジョン攻略をやめていただきたい」

 その一言で、空気が変わった。天羽義道(あもうよしみち)の目が細くなる。九条椿姫(くじょうつばき)の扇が、静かに閉じられる。鬼塚の拳が、わずかに鳴った。

「あなた達は、ただダンジョンの恩恵だけを受けてもらえればそれでいいのです」

「なぜ攻略を止める?」

 天羽が低く問う。

「ダンジョンは地球を蝕んでいる。違うか?」

「違います」

 深淵王は、迷わず答えた。

「ダンジョンは地球を浄化しているのです」


「浄化?」

 天羽が繰り返す。

「そうです。これを見てください」

 深淵王が片手を上げた。闇の中に、光景が広がる。それは映像だった。焼け落ちた森。黒く濁った川。灰色の土。人間が掘り返し、削り、壊した大地。そこには動物の死骸があり、枯れた木々があり、空気さえ腐っているように見えた。映像の中で、荒れ果てた大地の中央に亀裂が走る。そこから、黒い結晶が芽吹くように現れた。迷宮核だった。迷宮核は、周囲の濁りを吸い込んでいく。黒く淀んだ川は、少しずつ澄んでいく。灰色の土には緑が戻り、枯れた木の根元から小さな芽が出た。死んだようだった土地に、命が戻っていく。

「分かっていただけたかな?」

 深淵王は静かに言った。天羽は答えなかった。九条は、ほんのわずかに目を伏せる。

「私は、どちらでも構いませんわ」

 その声は冷静だった。

「ダンジョンの恩恵が受けられるのであれば。迷宮核の買収金がなくなるのは、少々残念ですが」

「九条!」

 天羽が鋭く声を上げる。

「信じるのか?」

「信じるとは言っておりませんわ。ですが、提示された情報は無視しません」

 鬼塚は、ふんと鼻を鳴らした。

「俺はよぉ」

 その拳が握られる。

「ダンジョン攻略よりも、お前が許せねぇ」


 鬼塚が地面を蹴った。巨体とは思えない速度で間合いを詰める。その拳が、深淵王の顔面へ向かう。だが、届かなかった。床が盛り上がった。岩の壁が、一瞬で鬼塚の拳の前に現れる。轟音。壁は砕けた。しかし拳は、深淵王へ届いていない。

「なんだこりゃ?」

 鬼塚が舌打ちする。

「ダンジョンが邪魔をしやがる」

「私はダンジョンを守る者」

 深淵王は、笑みを崩さない。

「ダンジョンが私の味方をするのは当然でしょう」

「てめぇ…」

「だから、ダンジョンを繋げることだってできるんだ」

 深淵王は、ふと天井を指差した。

「こんなこともできるぞ」

 全員の視線が、一瞬だけ上へ向く。天井がぐにゃりと揺れていた。だが、深淵王は軽く笑った。

「ごめん、嘘。下だよ」

 次の瞬間、足元が開いた。天照院(あまてらすいん)月華楼(げっかろう)羅刹組(らせつぐみ)。それぞれのパーティーメンバーたちの足元に、黒い穴が口を開ける。悲鳴。叫び声。伸ばされた手。だが、床は彼らを飲み込んだ。残されたのは三人だけ。天羽義道。九条椿姫。鬼塚鉄心。三大クランの長だけだった。


「どこに落とした」

 天羽の声が低く響く。

「雑魚にはご退場してもらいました」

 深淵王は淡々と答える。

「下の階層にいますよ。生きているかどうかは、彼ら次第ですが」

「ちっ、くそが!」

 鬼塚が吼えた。

「羅刹剛拳・鬼神砕(きじんくだ)き!」

 鬼塚の拳に、凄まじい圧が集まる。その一撃が放たれた。だが、拳は深淵王を捉えなかった。轟音とともに、まったく別の壁が砕ける。

「どこを殴ってるんです?」

 深淵王が首を傾げる。

「てめぇ!」

「鬼塚、地面だ」

 天羽が短く言った。

「地面が勝手に動いて、お前の向きを変えた」

「くそが!」

 次の瞬間、天井と床から岩の槍が降り注いだ。

「下がれ!」

 天羽が前に出る。盾が展開され、岩槍を受け止めた。

「天羽! サンキュー!」

「礼は後だ」

 天羽は深淵王を睨む。

「こうなったら、やるしかない。九条、サポートしてくれ」

「しょうがないですわね」

 九条は扇を開いた。

「仲間を助けなければなりませんもの」

 天羽が盾。鬼塚が近接格闘。九条が後方支援。三大クランの長が、初めて同じ敵へ向かった。


 鬼塚が殴る。九条が風の刃を飛ばす。天羽が迫る石槍を受け止める。だが、深淵王はその場からほとんど動かなかった。鬼塚の拳が、深淵王の胸元を捉える。当たった。誰もがそう思った。しかし、次の瞬間、衝撃は深淵王の背後へ抜けた。壁が爆ぜる。深淵王は、少し服を揺らしただけだった。

「殴ってる感触がねえ」

 鬼塚が吐き捨てる。

「こいつ、別の場所に逃がしてやがる」

 九条の風が、深淵王の首筋を狙う。だが風の軌道が、途中でわずかに曲がった。刃は肩をかすめるだけで終わる。

「空間が歪みましたわね」

 九条が目を細める。天羽は六翼天蓋(ろくよくてんがい)の内側で眉を寄せた。

「こいつのは、普通の魔法じゃないな」

「どういうことだ、天羽」

 鬼塚が聞く。

「場だ」

 天羽は深淵王ではなく、周囲の床と壁を見る。

「ダンジョンそのものを支配している」

 攻撃がずれる。衝撃が抜ける。足場が動く。岩槍が、壁からも床からも天井からも生える。それは深淵王が魔法を撃っているというより、ダンジョンそのものが深淵王の手足になっているようだった。

「九条、何か見えないか」

 天羽が問う。

「見えるものだけを信じるなら、何も見えませんわ」

 九条は扇を閉じた。彼女の指先から、銀糸のような魔力が戦場へ広がる。見るためではない。触れるための糸。鬼塚の拳が、もう一度深淵王へ迫る。深淵王の足元がわずかに沈む。その動きに合わせて、九条の糸が揺れた。次の瞬間、九条の指がぴくりと震える。

「…ありましたわ」

「何がだ」

「背中です」

 九条は低く告げた。

「あの男の背より、一本。髪の毛よりもなお細い黒い糸が、闇の中へ伸びています」

 その先にあるのは、ダンジョン。

「見えたのではありません」

 九条は静かに言った。

「触れましたの。あの男、ダンジョンと繋がっております」


「なら、その糸を切ればいいんだな」

 鬼塚が笑う。口の端に血が滲んでいた。

「単純ですわね」

「単純で悪いか」

「悪くはありませんわ。こういう時は、むしろ助かります」

 九条は銀糸をさらに広げる。深淵王の背から伸びる黒い接続。その位置を探る。天羽は六翼天蓋を展開し、二人を守る。鬼塚は、次の一撃にすべてを乗せる姿勢を取った。深淵王の余裕の笑みが、ほんのわずかに薄れる。

「さすが、クラン長ですね」

 その声は、褒めているようで、どこか冷たかった。

「仕組みに気づくのが早い」

「だったら、そこが弱点ってことだな」

 鬼塚が拳を構える。深淵王は、ゆっくりと両手の指を合わせた。

「仕方ありません」

 その瞬間、ダンジョン全体の気配が変わった。まるで、部屋そのものが息を吸ったようだった。


深淵爆散(しんえんばくさん)

 深淵王が呟いた。次の瞬間、部屋全体が牙を剥いた。床から。壁から。天井から。全方位から、石槍が飛び出す。それは攻撃というより、空間そのものの破裂だった。

「六翼天蓋――」

 天羽が防御を展開しようとする。だが、間に合わない。石槍の発生が速すぎる。天羽は瞬時に判断を切り替えた。完全防御ではない。最速防御。頭部。心臓。喉。急所だけを守る薄い盾が展開される。直後、石槍が天羽の身体を貫いた。肩。脇腹。太腿。腕。

「ぐはっ……!」

 天羽が血を吐く。

「天羽!」

「天羽さん!」

 鬼塚と九条の声が重なる。だが、深淵王はすでに次へ動いていた。いや、動いたようには見えなかった。ただ、そこにいた。鬼塚の目の前に。

「な――」

 次の瞬間、深淵王の拳が鬼塚の腹を突き抜けていた。血が落ちる。鬼塚の巨体が、わずかに揺れる。

「……てめぇ」

「頑丈ですね」

 深淵王は静かに言った。九条は扇を下ろした。その顔から、余裕の笑みが消えている。

「まいりましたわ」

 その声は、敗北を認めるためではなかった。生き残るための判断だった。

「降参よ」

 深淵王は、九条を見た。そして、微笑んだ。

「いや」

 その声は、あまりにも穏やかだった。

「もう、殺すのは決定している」

 その言葉で、三大クラン長の背後にあった逃げ道は、完全に消えた。

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださった方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

面白い、続きが気になる!と思ってくださったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると、第5章執筆の凄まじいエネルギーになります!


実はX(Twitter)にて、サクラや大悪魔の【AI生成イラスト】や、作品の世界観をイメージした【オリジナルAI音楽】、執筆の裏話などを投稿しています!

ぜひ、お気軽に覗いてみてくださいね!

【https://x.com/WaiWair99】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ