75. 【番外編】総長は守り、首領は背負った
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【番外編】
【天羽視点】
誰が放ったか分からない黒い魔力が、戦場の空を塗り潰した。それは炎ではない。雷でもない。ただ、触れたものを深層へ沈めるような黒い雨だった。天照院も、羅刹組も関係ない。敵も味方も区別せず、戦場そのものを飲み込もうとしている。俺は、血の滲む口元を拭うこともせず、剣を地面へ突き立てた。鬼塚との戦いで、体はすでに限界に近い。だが、ここで倒れるわけにはいかない。天照院総長として。いや、それ以前に、この場にいる者を死なせないために。俺は魔力を絞り出した。
「六翼天蓋」
瞬間、背後に光が生まれた。一枚目の翼が、空を裂いて開く。二枚目。三枚目。そして反対側へ、さらに三枚。合計六枚の巨大な光翼が、戦場の上空に広がった。翼は、ただ浮かんでいるのではない。幾重にも重なり、折り畳まれ、天蓋となって頭上を覆っていく。天照院だけではない。羅刹組の者たちも、範囲に入れた。敵だから見捨てる。そんな選択をすれば、俺は天照院の総長ではいられない。今この場で守るべきは、勝敗ではない。命だ。
次の瞬間、魔法が落ちた。黒い雨が、光翼を叩く。一枚目の翼が砕けた。二枚目が黒く染まり、羽根が焼け落ちる。三枚目に、無数の亀裂が走った。体の奥が軋む。鬼塚との戦いで負った傷が開き、喉の奥に血の味が広がる。それでも、膝はつかない。
「守れ」
低く、短く、命じた。残る光翼がさらに広がる。砕けた翼の欠片さえ光となり、落ちる魔法を受け止めた。黒い雨は止まらない。だが、六枚目の翼も消えない。俺は、歯を食いしばった。
黒い魔法が弾けた。爆風が地面を抉り、瓦礫が飛ぶ。結界の端にいた者たちが吹き飛ばされる。悲鳴が上がった。血の匂いが広がった。死者は出た。重傷者も、数え切れないほど出た。それでも、戦場は壊滅しなかった。六枚目の翼が、最後まで空に残っていたからだ。
「総長!」
誰かの声が聞こえる。俺は剣を支えに、かろうじて立っていた。守りきった。いや、守りきれなかった。その両方が、胸に重く残った。
【鬼塚視点】
おいおい。俺の頭では、さすがについていけねぇぜ。天羽との喧嘩は楽しかった。あいつは強ぇ。久しぶりに、骨のある相手だった。それがどうだ。番外の黒瀬影臣が暴走しやがった。と思ったら、今度はNo.4の玄弥が裏切った。いや、あいつは玄弥ですらなかったらしい。神無月玄夜。深淵王。何だそりゃ。分かったことは一つだ。俺たちは、あいつの手の上で踊らされていた。俺の組を使って、俺の喧嘩を汚しやがった。それだけは、どうしても許せねぇ。
そこへ、天羽が近づいてきた。さっきまで殺し合いに近い喧嘩をしていた相手だ。だが、俺は構えなかった。天羽も構えていない。ただ、総長の顔をしていた。
「鬼塚鉄心。今回の責任は、羅刹組にある」
「ああ」
俺は認めた。
「俺の組がやった」
言い訳はしない。影臣は番外だろうが、羅刹組の人間だ。玄夜が潜り込んでいたのも、俺たちの穴だ。だが、それでも言っておくことはある。
「だが、俺の喧嘩じゃねぇ」
俺は天羽を見る。
「俺の組を使って、俺の喧嘩を汚した奴がいる」
天羽は、わずかに目を細めた。
「分かっている。だからこそ、責任を取ってもらう」
「番外の黒瀬影臣の身柄を出すこと」
天羽は淡々と言った。
「そして、あの広域殲滅魔法を放った者の身柄」
「あいつは逃げた」
「分かっている。なら、羅刹組が持つ全情報を出せ」
天羽の声は冷たい。だが、怒りに任せているわけではない。
「もちろん、お前にも出頭してもらう。さらに、今回の顛末に関する全資料を、天照院とギルドに提出しろ」
「ああ」
俺は頷いた。
「逃げねぇ」
逃げる気などなかった。俺の組がやったことだ。俺の組が利用されたことだ。なら、俺が前に出るしかねぇ。それが首領ってもんだ。
その後、被害状況が少しずつまとまっていった。
天照院。死者4名。重傷者21名。
羅刹組。死者5名。重傷者22名。
軽傷者は、両陣営合わせて百名を超える。天羽の防御がなければ、もっと死んでいた。それは間違いない。だが、死者9名という事実は消えない。俺は、羅刹組の者たちの顔を見た。さっきまで笑っていた奴。怒鳴っていた奴。喧嘩を楽しみにしていた奴。そのうちの何人かは、もう立ち上がらない。俺の組だ。俺が背負うしかない。
その日の夜。ハンターギルドの極秘資料に、新たな危険指定が追加された。
名前:神無月玄夜
潜伏時身分:羅刹組ナンバーズNo.4
確認能力:洗脳系道具の流通。転移。広域殲滅魔法の使用
推定危険度:S級災害指定
天照院と羅刹組の抗争は、終息へ向かう。だが、本当の脅威は消えていない。むしろ、ようやく名前を持っただけだった。
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