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74. 生きて帰れた。でも、終わってはいない

いつも応援ありがとうございます!

当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


最新話までじっくりお楽しみください!

 深淵王は逃げた。黒い階段の向こうへ消えた奴の気配を、俺はしばらく追っていた。追えた。追えば、まだ届いたかもしれない。だが、俺は動けなかった。サクラが血を吐いたからだ。原因はすぐに分かった。魂糸共鳴の封印が、解けかけていた。深淵王が封じたのは、あくまで一時的なもの。俺が大悪魔の姿で力を出し続ければ、その余波は再びサクラへ流れ込む。もし、あのまま悪魔のままだったら。サクラは死んでいたかもしれない。

「…くそ」

 俺はすぐに姿を戻し、サクラへヒールをかけた。逃げた深淵王よりも、今はサクラだ。


 それから、1時間ほどが過ぎた。サクラの呼吸は少しずつ落ち着き、顔色も戻ってきた。やがて、まぶたが震える。

「……クロ?」

「サクラ、大丈夫か?」

「うん…あいつは?」

「逃げられたよ」

 サクラは少しだけ目を伏せた。

「そっか…」

「すまない」

 俺は言った。本音を言えば、ここで仕留めておきたかった。深淵王は厄介だ。力もある。知識もある。そして、迷いがない。あいつを逃がしたことは、後々必ず響く。だが、サクラは首を横に振った。

「ううん。私が止めたんだから。ごめんね……」

「謝るな。お前が生きているなら、それでいい」

 そう言うと、サクラは少しだけ笑った。


 サクラが動けるようになってから、俺たちは周囲を調べた。ここはどこだ。本当に深層なのか。それとも、黒い階段でどこかのダンジョンへ繋げられただけなのか。ひとまず、下の階へ向かってみる。そこで出てきたのは、コボルトだった。雑魚だ。少なくとも、深層に出るような相手ではない。

「深い階層じゃないな」

「じゃあ、さっきの場所は?」

「セーフエリアに近い特殊階層だろう。深淵王が一時的に繋げたのかもしれない」

 下へ潜る理由はない。俺たちは、上を目指すことにした。5層ほど上がったところで、ようやく地上へ出られた。


 地上に出た瞬間、サクラのスマホが鳴った。ダンジョン内では電波が届かない。つまり、外に出たことで一気に通知が戻ってきたのだろう。サクラは画面を見た。

美桜(みお)さんからだ」

 通話ボタンを押す。

「はい、もしもし」

『サクラちゃん、大丈夫!?』

 美桜の声は、かなり焦っていた。

「はい、何とか大丈夫です…ダンジョンに連れ込まれて、やっと地上に出てこれたところです」

『どこのダンジョン?』

「えーっと、ここは旭ヶ丘(あさひがおか)です」

『近いね。迎えに行くから、そこで待ってて』

「はい、ありがとうございます」

 通話が切れる。サクラは小さく息を吐いた。俺も、ようやく少しだけ気を抜いた。


 美桜は本当にすぐ来た。車から降りるなり、サクラへ駆け寄ってくる。

「サクラちゃん、無事でよかった」

「ご心配おかけしました」

真里(まり)ちゃんは天照院(あまてらすいん)に戻ってる。お兄さんのところね。意識も戻ってるから、そこは安心して」

 サクラの肩から、少し力が抜けた。俺たちが黒い階段に飲み込まれてから、すでに6時間ほど経っていたらしい。地上へ出るまでに3時間ほどかかったから、思ったより長く閉じ込められていたことになる。美桜はサクラの顔色を確認し、眉をひそめた。

「サクラちゃん、何があったの?」

 サクラは答える前に、逆に聞いた。

「その前に、向こうはどうなりました?」

 向こう。天照院と羅刹組(らせつぐみ)の戦場のことだ。


 美桜の表情が重くなった。

「天照院の総長、真里ちゃんのお兄さんね。あの人が防御魔法を張ったの」

 天羽義道(あもうよしみち)。天照院総長。彼の防御は最強だと、美桜は言った。

「本来なら、数百人死んでたと思う」

 サクラが息を呑む。

「でも、死者は少なからず出たわ」

 美桜は静かに続けた。

「分かっているだけで、死者9人。重傷者43人。軽傷者は百名以上」

「……そうですか」

 サクラの声が沈む。俺も黙っていた。深淵王を逃がした。その事実が、重くのしかかる。美桜は続けた。

「それでも、奇跡に近いよ。あの防御魔法がなかったら、被害は桁違いだった」


「それで、サクラちゃんたちには何があったの?」

 美桜が聞いた。ここからは、事前にサクラと打ち合わせた内容だ。本当のことをすべて話すわけにはいかない。俺が大悪魔の姿になったこと。深淵王と戦ったこと。深淵王の腕を吹き飛ばしたこと。それらを説明するには、俺の正体に触れなければならない。だから、隠す。サクラは、ゆっくり話し始めた。

「深淵王という人がいました」

「深淵王…そんな奴がいたのね」

「はい。深層適性者の私を狙ったみたいです」

「それで?」

「深淵王は、ダンジョンが星を救っている映像を見せて、考えるようにと言って消えました」

 美桜は目を細める。

「それだけ?」

 鋭い。俺は影の中で、少しだけ息を殺した。


「でも、大賢者がそれは違うって」

「大賢者が現れたの?」

 美桜の声が少し強くなる。

「はい」

 サクラは頷いた。

「ダンジョンは、ヴァルメリアから送られたものだって。そして、ヴァルメリアの実際の映像を見せられました」

「ヴァルメリア…」

 美桜はその名を繰り返す。以前、迷宮核を通じて聞いた異世界の名だ。

「その映像では、ダンジョンが増えた結果、星の命が魔素に変えられていったように見えました。だから、深淵王の言うことは違うって」

「なるほどな…」

 美桜は腕を組んで考え込む。受け入れた。ようにも見える。だが、美桜の目は完全には納得していなかった。やはり鋭い。俺は影の中で、静かにしていた。


 それから、俺たちは帰ることになった。サクラの顔色はまだ悪い。美桜も、それ以上は無理に聞かなかった。

「今日はもう帰ろう。サクラちゃん、休んだ方がいい」

「はい……ありがとうございます」

 車へ向かうサクラの背中を、俺は影の中から見上げる。深淵王は逃げた。被害も出た。美桜には、すべてを話せなかった。そして何より、サクラは血を吐いた。俺が本気を出せば、敵は倒せるかもしれない。だが、そのたびにサクラが壊れる。その事実だけは、絶対に忘れてはいけない。車のドアが閉まる。俺はサクラの影の中で、深く息を吐いた。今回は、生きて帰れた。だが、終わったわけではない。

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださった方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

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実はX(Twitter)にて、サクラや大悪魔の【AI生成イラスト】や、作品の世界観をイメージした【オリジナルAI音楽】、執筆の裏話などを投稿しています!

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【https://x.com/WaiWair99】

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