71. 羅刹組の中にいた、もう一つの影
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【サクラ視点】
黒い爆発が、空に広がっていた。でも、音はしない。玄弥さんが張った結界のせいで、外の音がまったく入ってこない。無音の黒い爆発。それが、余計に怖かった。
「てめぇ……仲間に何してんだ!」
鬼塚さんが吠えた。玄弥さんへ殴りかかる。その一歩だけで地面が割れた。けれど、玄弥さんは動じない。彼は片手を軽く上げた。次の瞬間、鬼塚さんの足元に黒い魔法陣が浮かび、重力が何倍にも増したみたいに鬼塚さんの体が沈んだ。
「ぐっ…!」
それでも鬼塚さんは拳を振るう。玄弥さんは、その拳を指先で受け止めた。ありえない。あの鬼塚さんの拳が、止まった。
「ナンバーズ、ひれ伏せ!」
影臣さんが叫んだ。たぶん、羅刹組の中で使える命令か何かなのだと思う。でも、玄弥さんは笑った。
「あー、ごめん。それ効かないんだ」
そう言って、玄弥さんは自分の手の甲に指をかける。ぺり、と音がした。No.4の文字が、剥がれた。
「…シール?」
私は思わず呟いた。
「そう。便利だろう?」
玄弥さんは、剥がしたシールをひらひら振った。
「あなたは…偽物ですか?」
私が聞くと、玄弥さんは楽しそうに笑った。
「いやいや、本物だよ」
そして、ゆっくりと名乗る。
「本物の、神無月玄夜だ」
神無月玄夜。その名を聞いた瞬間、なぜか胸の奥がざわついた。
「ただ、羅刹組No.4って立場は、数ある中の副業みたいなものなんだわ」
玄夜さんは軽い口調で続ける。
「まあ、色々利用したくて入ってたんだよ」
影臣さんが玄夜さんを睨む。
「私を…利用したのか」
「うん。よく動いてくれたよ」
軽い。あまりにも軽い。影臣さんの怒りも、鬼塚さんの怒りも、この人には届いていない。動いたのは、玄夜さんだった。一瞬。気づいた時には、玄夜さんは影臣さんの目の前にいた。黒い指先が、影臣さんの胸に触れる。
「まだ羅刹組には頑張ってもらうから、生かしておくよ」
次の瞬間、影臣さんの体から力が抜けた。そのまま地面へ崩れ落ちる。そして玄夜さんは、こちらを見た。
「それと、そこの二人にも用はない」
「え?」
途端に、真里さんと美桜さんが倒れた。
「真里さん! 美桜さん!」
私は叫んだ。何をされたのか、まったく分からなかった。
真里さんも、美桜さんも倒れている。血は出ていない。呼吸もある。でも、目を開けない。
「なにをしたの?」
私の声は震えていた。怖い。でも、それ以上に腹が立った。さっきまで普通に話していた二人が、何もできないまま倒された。玄夜さんは、ただ笑った。
「ふふ」
それだけだった。説明する価値もない。そう言われた気がした。クロが、私の前に出る。黒い毛が逆立っていた。
【玄弥視点】
ああ、だるい。俺は、そんなことを思いながら戦場を眺めていた。天照院。羅刹組。どちらもよく集まってくれた。だから、まとめて処理する。ただ、それだけのことだった。ハンター駆除。言葉にすると大げさだが、俺にとっては作業に近い。そんな時、視界の端に乱入者が映った。女が一人。黒狼が一匹。あれは月華楼の女だな。玄夜は目を細めた。黒狼。どこかで感じたことのある気配だった。玄夜は、ステータスを確認する。女はSクラスに到達しそうだ。なかなかだ。だが、問題は黒狼だった。その表示を見た瞬間、玄夜は笑みを深めた。
サクラ。契約者として表示された名を見て、玄夜の目が細くなる。そして、その黒狼の奥にある状態を見た瞬間、玄夜は声を漏らした。
「…深層適性者」
まさか。こんなところにもいるとは思わなかった。しかも、ただの適性者ではない。深層の魔素が、すでに魂へ根づいている。ただの召喚獣ではない。深すぎる。人間側に置いておくには、あまりにも深すぎる。
「深淵は、君たちを選んだんだね」
玄夜は笑った。予定を変える必要がある。あれは殺す対象ではない。回収する対象だ。あのまま戦場にいれば、鬼塚や天羽に巻き込まれるかもしれない。それは困る。玄夜は、ハンター駆除の戦線から離れた。目標を変更する。サクラと黒狼。この二つを、深層へ連れていく。
【クロ視点】
こいつは、ヤバい。鬼塚もヤバいと思った。あれは暴力の塊だった。だが、玄夜は違う。深い。底の見えない穴を覗き込んでいるような圧だった。ステータスを見ようとしても、何も読めない。隠蔽されている。それも、かなり高位の隠蔽だ。今の影狼の器では、正面から勝てる気がしない。しかも、さっき放った魔法。深淵葬界。あれで向こうの戦場は壊滅状態だ。大丈夫か。いや、大丈夫なわけがない。さらに鬼塚と影臣も、ほとんど瞬殺された。まずい。かなり、まずい状況だ。
サクラが、震える声で言った。
「なにをするつもり?」
玄夜は、サクラを見た。その目が気に入らない。獲物を見る目ではない。仲間を見る目でもない。何か、見つけたものを確認する目だ。
「サクラ」
玄夜が、名前を呼ぶ。
「君は、人間の街にいるべきではない」
「…え?」
「君の魂は、深層に馴染みすぎている」
玄夜の視線が、次に俺へ向いた。
「そして黒狼。君もまた、人間の側に立つには深すぎる」
何を言っている。意味が分からない。だが、ただの狂人の言葉ではない。こいつは何かを知っている。サクラの状態。俺の中身。深層。それらを見た上で言っている。
「一緒に来い」
玄夜は言った。
「迷宮は敵ではない」
黒い魔力が、足元に広がる。
「人類こそが、迷宮を殺している」
「何を…」
サクラが後ずさる。俺はサクラの前に立った。連れていかせるわけがない。そう思った瞬間、地面が黒く裂けた。階段。黒い階段だった。俺の中で、古い記憶がざわつく。地球のダンジョン。下層へ続く、あの黒い階段。
「サクラ!」
俺は叫んだ。だが、足元の影が俺たちを引き込む。サクラの手を掴もうとした。いや、掴んだ。それでも止まらない。黒い階段が、俺とサクラを飲み込んでいく。最後に見えたのは、倒れた真里と美桜。そして、笑っている神無月玄夜だった。
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玄弥の件を少し修正しました!!
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