68. 天照院総長と羅刹組首領、ついに激突する
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【天羽視点】
天照院と羅刹組の幹部が、向かい合っていた。天照院本部前。そこは本来、ハンター同士が争う場所ではない。だが今は、三大クランの一角である天照院と、羅刹組の戦場になっていた。天照院側には、上位パーティーの面々。中堅ハンターたち。そして、謹慎中でありながら現場に立つ征士郎の姿もある。羅刹組側には、ナンバーズ。No.0からNo.20まで、全員ではないにせよ、主だった者たちが並んでいる。その中央で、俺は一人の男と向かい合った。羅刹組首領、鬼塚鉄心。ただ立っているだけで、周囲の空気を荒くする男だった。
「征士郎の件では世話になった」
俺は静かに言った。
「まさか洗脳とはな」
鬼塚の眉が動いた。
「洗脳? なんのことだ。意味が分からんぞ」
「しらばっくれるな。征士郎さんはナンバーズの紋章を見た」
俺の言葉に、羅刹組側の空気がわずかに揺れる。しかし鬼塚は、面倒そうに鼻を鳴らした。
「悪いが、うちのナンバーズに洗脳を使える奴はいねぇよ」
嘘をついている。そう決めつけるのは簡単だった。だが、鬼塚の反応には妙な引っかかりがあった。本当に知らない。少なくとも、この場ではそう見える。俺は征士郎さんへ視線を向けた。征士郎さんは、苦い顔で首を横に振る。つまり、ここで追及しても答えは出ない。
「鬼塚さん。ナンバーズは全員いるんですか?」
「あん?」
鬼塚は不機嫌そうに振り返った。そして、自分の後ろに並ぶ者たちを確認する。
「ああ、いるぜ」
その声に迷いはない。
「まだイチャモンつける気か?」
「…いいえ」
俺は刀の柄に手をかける。何かがおかしい。征士郎さんが見たナンバーズの紋章。鬼塚の知らない洗脳道具。この場に揃っているナンバーズ。どこかで、何かが噛み合っていない。だが、今ここで真相を追う時間はない。鬼塚が笑った。
「とりあえず始めようぜ」
「仕方ありません」
俺は刀を抜いた。
戦いは、鬼塚の踏み込みから始まった。速い。巨体に似合わない加速で、こちらの間合いを一瞬で潰してくる。俺は刀を振るう。だが、鬼塚はさらに前へ出た。剣の間合いの内側。そこに入られると、やりづらい。拳。肘。膝。体当たり。鬼塚の攻撃は、武術というより暴力の塊だった。正直に言えば、相性は悪い。面白いことに、俺は月華楼の楼主、九条さんには相性が良い。その九条さんは鬼塚に相性が良い。そして鬼塚は、俺に相性が良い。まるで三すくみだ。だが、相性が悪いから負けるなど、天照院総長として言えるはずがない。
戦いが始まって、すでに1時間が経っていた。周囲の地面は割れ、建物の壁には斬撃の跡と拳圧の傷が刻まれている。俺は防御を主体に戦った。正面から押し切るには、鬼塚はあまりに厄介だ。だから、受ける。逸らす。間合いをずらす。隙を見て、小さな斬撃を入れる。鬼塚はガンガン攻めてくる。だが、致命的な一撃はまだ受けていない。こちらも鬼塚を削っている。今のところ、五分。いや、相性を考えれば、こちらがよく耐えていると言うべきか。鬼塚は笑っていた。羅刹組と天照院の抗争。面子。報復。そんなものは、あの男にとって二の次なのだろう。強い相手と戦える。ただそれだけで、心底楽しんでいる。
だが、鬼塚も無傷ではない。皮膚は裂け、呼吸もわずかに荒い。こちらも限界が近い。長引かせれば、相性の悪さが響いてくる。決めるなら、ここだ。俺は刀を構え直した。刀身に魔力を流す。白金の光が刃に宿る。鬼塚が踏み込みの反動で、ほんのわずかに姿勢を崩した。隙。俺はそれを逃さなかった。
「天照一刀・神威断ち!」
白金の斬撃が、一直線に鬼塚へ走る。その瞬間、鬼塚が笑った。
「引っかかったな!」
「羅刹剛拳・鬼神砕きぃ!」
赤黒い拳圧が、白金の斬撃と衝突した。音が消えた。次の瞬間、光と闘気が爆ぜる。俺の斬撃は、鬼塚の拳に食い込んだ。皮膚を裂き、肉を割り、骨にまで届きかける。それでも鬼塚は止まらない。笑っていた。拳圧が斬撃の中心を砕く。刀を押し返される。その衝撃が、腕から肩、胸へ抜けた。地面が円形に陥没する。周囲の瓦礫が吹き飛び、天照院と羅刹組の者たちが身を伏せた。俺は片膝をつき、刀を地面へ突き立てる。口元から一筋、血が落ちた。鬼塚は裂けた拳を見下ろし、獰猛に笑う。
「いいなァ、天羽。やっぱ、お前は最高だ」
奴は右拳を潰された。俺は立ち上がれない。どちらも無傷ではない。
「総長!」
天照院の者たちが駆け寄ってくる。羅刹組側も同じだった。ナンバーズたちが鬼塚の周囲へ集まる。鬼塚はまだ笑っている。満足そうな顔だった。ここで手打ちにできる。俺はそう判断した。互いの頂点がぶつかり、互いに傷を負った。面子は立つ。これ以上続ければ、ただの消耗戦になる。これで終わらせるべきだ。そう思った、その時だった。
だが、終わらなかった。羅刹組の輪から、一人の男が外れていく。最初は誰も気に留めなかった。戦いの余韻。傷ついた首領。駆け寄る仲間たち。その混乱の中で、男は静かに一歩、また一歩と位置を変えた。俺は、その動きに違和感を覚えた。
「待て」
声を出そうとした瞬間、男が胸元へ手を入れる。取り出したのは、一枚のお札だった。
「あれは…!」
俺の背筋に、冷たいものが走った。
「止めろ!」
俺は叫んだ。だが、男の指はすでに、お札へ魔力を流していた。
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