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67. ダンジョンより危険な場所、それはサクラの部屋でした

いつも応援ありがとうございます!

当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


最新話までじっくりお楽しみください!

 最近、俺は一人でダンジョンに入っている。いや、一人ではないか。一匹だ。人型ではなく、召喚獣として。影狼の姿で、近場のダンジョンへ潜る。理由は単純だ。気づいたことがある。俺がモンスターを倒して得た経験値は、きちんとサクラに入る。つまり、俺が戦えばサクラのレベルも上がる。サクラ本人を危険な場所へ連れていかなくても、ある程度の底上げができるというわけだ。もちろん、無茶はしない。俺の転移は、一度行ったことのある場所に限られる。それに、距離が遠すぎればサクラへの負担も大きくなる。だから、サクラと一度行った近場のダンジョンを使っている。地味だが、悪くない。むしろ最近、少し楽しくなってきた。


 今日も、近くのダンジョンの浅い層でモンスターを狩っていた。浅い層とはいえ、一般人からすれば十分危険だ。だが、今の俺にとっては軽い運動に近い。もちろん、派手な魔法は使わない。他のハンターに見つかるのも面倒だ。黒い影が走り、モンスターの首筋を噛む。音を立てずに倒し、すぐに影へ沈む。それを繰り返す。経験値がサクラへ流れていく感覚が、わずかにある。便利な体だ。いや、便利な契約と言うべきか。サクラは戦闘向きではない。だからこそ、俺ができるところは俺がやればいい。そう考えると、ただの雑魚狩りも悪くなかった。


 狩りを終えた俺は、サクラの部屋へ戻ることにした。ただし、部屋の真ん中へ出るのは危険だ。最近のサクラの部屋は、やたらと来客が多い。そこで俺は、念のためタンスの中へ転移することにしている。我ながら、悪魔としてどうなのかと思う。だが、背に腹はかえられない。転移した瞬間、鼻が反応した。ピザの匂いだ。今日はピザか。尻尾が揺れた。おい、勝手に揺れるな。そう思いながらタンスの扉を開けようとした時、部屋の中から話し声が聞こえた。俺は、ぴたりと動きを止める。来客だ。声は…真里(まり)か。


 真里。その名前を意識した瞬間、また尻尾が揺れた。この体は本当に分かりやすい。いや、体のせいだけではないのかもしれない。真里の奥には、マリーの気配がある。俺が反応しているのは真里なのか。それとも、マリーの名残なのか。自分でもよく分からない。ただ一つ分かるのは、ここで出ていくと面倒だということだ。クロバ様。あの雑な偽名が、また俺を刺す。俺はタンスの中から、そっとサクラの影へ移動した。そのまま様子をうかがう。どうやら真里は、ここにしばらく泊まるらしい。しかもピザを食べている。匂いだけが影の中まで届く。拷問か。


 翌日。また来客があった。今度は美桜(みお)だった。俺は影の中で固まる。真里だけでも十分厄介なのに、美桜まで来た。しかも、真里の護衛としてしばらく滞在するらしい。つまり、サクラの部屋には今、真里と美桜がいる。片方は俺をクロバ様だと思い、もう片方は俺を皐月ではないかと疑っている。なんだこの部屋。もはやダンジョンより危険ではないか。サクラも気の毒だ。いや、原因の半分以上は俺だが。


 そして、始まった。恋バナである。

「私、好きな人がいますの!」

 影の中で、俺は頭を抱えた。勘弁してくれ。その相手は、俺が咄嗟についた雑な偽名の男だ。つまり俺だ。真里は嬉しそうにクロバ様の話をする。美桜はそれを聞いて、明らかに目の色を変えた。写真はないのか。次はいつ来るのか。連絡先は。質問が増えるたび、サクラの声が苦しくなっていく。さすがに可哀想だった。俺のせいで、サクラが追い詰められている。このまま続けば、嘘が崩れる。俺は腹をくくった。出るしかない。もちろん、クロバではなく、影狼のクロとしてだ。


 俺はサクラの影から顔を出した。すぐに真里が反応する。

「まあ、クロちゃん!」

 よし、食いついた。真里はソファから立ち上がり、俺の前に膝をつく。

「先日は助けてくださって、ありがとうございました」

 そう言って、丁寧に頭を下げた。召喚獣相手にも礼を欠かさない。そういうところは、真里らしい。いや、マリーもそうだった気がする。俺は少し気まずくなり、尻尾を軽く振った。話題は変わった。サクラも少し安心したように見える。だが、問題はもう一人だ。美桜が、俺を見ていた。すっごく見ている。怖い。


 その時、テレビから速報音が鳴った。部屋の空気が変わる。

『速報です。天照院(あまてらすいん)総長・天羽義道(あもうよしみち)氏と、羅刹組(らせつぐみ)首領・鬼塚鉄心(おにづかてっしん)氏が対峙している模様です』

 真里が息を呑んだ。美桜もテレビへ視線を向ける。サクラも固まった。俺は少しだけ助かったと思った。美桜の視線が外れたからだ。画面には、遠くから撮影された映像が映っていた。向かい合う二人の男。片方は天照院総長、天羽義道。もう片方は羅刹組首領、鬼塚鉄心。さすがに戦闘そのものを生中継するわけではないらしい。だが、睨み合うだけで画面越しに圧が伝わってきた。


 真里は兄を心配していた。ただし、負けるとは思っていないようだった。美桜は難しい顔で画面を見ている。サクラも不安そうだ。俺も映像を見た。天羽義道。鬼塚鉄心。どちらも、今の俺が影狼の器で正面から相手をしたい相手ではない。だが、まあ。俺たちには関係のないことだ。天照院と羅刹組の問題。三大クラン同士の抗争。俺とサクラが首を突っ込む話ではない。そう考えながら、俺はサクラが用意してくれた黒蜜きな粉雪見もちへ鼻先を近づけた。黒蜜。きな粉。もちもちのアイス。これは平和の味だ。外では、三大クランの頂点が睨み合っている。だが俺は、サクラの部屋で甘味を食べる。悪くない。ただ、こういう時に限って、面倒事は向こうから来る。それを、この時の俺はまだ知らなかった。

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださった方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

いよいよ始まった第4章、ここからさらに物語は加速し、熱い展開へと突入していきます!


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