66. 真里さん、その恋バナは美桜さんの前では危険です
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【サクラ視点】
2日連続で、呼び鈴が鳴った。最近、私の家の来客頻度がおかしい。昔は宅配くらいしか来なかったのに、今は三大クラン関係者が普通に来る。どうしてこうなった。そう思いながらドアを開けると、そこにいたのは美桜さんだった。
「サクラちゃん、昨日、若葉からメッセージ送ったって聞いたんだけど、返信がなかったらしくてな」
「え、すみません。気づかなくて」
昨日は真里さんとお喋りしていて、スマホを全然見ていなかった。というか、ピザとおにぎりとからあげの印象が強すぎた。美桜さんは少し苦笑してから、真面目な顔になった。
「ハンターギルドとして、天照院総長の妹を無防備にしておくわけにはいかないらしい」
「真里さんのことですか?」
「そう。危険が予想されるから、一応護衛をつけることになったんだ」
「へ〜、そうなんですね〜」
私は頷きかけて、途中で止まった。
「…って、護衛ですか?」
「そう。その護衛依頼を、私が受けることになった」
美桜さんは、当たり前のように言った。
「しばらく一緒に過ごすことになるんだが、サクラちゃんは大丈夫か?」
「まあ、大丈夫ですが…」
大丈夫じゃない。とは言えない。ちょっと勘弁してよ、とも言えない。どうしてクロに関わる人が、私の家に集まってくるのだろう。
美桜さんを部屋に上げると、真里さんがすぐに立ち上がった。
「まあ、美桜様。護衛を引き受けてくださったのですね」
「様はいらないよ。美桜でいいって」
「では、美桜さんとお呼びしますわ」
「うん、それでいいよ」
早い。打ち解けるのが早い。真里さんは昨日から私の家にいるのに、もう美桜さんとも普通に話している。なんなら、私より仲良さそうに見える。いや、別にいいけど。いいんだけど、ちょっと複雑だ。美桜さんも、真里さんの雰囲気を気に入ったのか、自然に笑っている。その空気だけを見ると、ただの女子会だった。ただし、話題は天照院の護衛。ぜんぜん普通ではない。
そんな中、真里さんが突然、とんでもないことを言い出した。
「私、好きな人がいますの!」
私は飲んでいたお茶を吹きそうになった。美桜さんは、少しだけ目を細める。
「む、それは聞いていい話か?」
「ええ、構いませんわ」
構う。私が構う。ものすごく構う。でも、真里さんは止まらない。
「その人は、サクラさんのお兄様のクロバ様ですの」
部屋の空気が、一瞬で変わった。終わった。そう思った。
「なに? サクラちゃんにお兄さんがいたのか?」
美桜さんの反応が早かった。早すぎる。
「はい。先日お邪魔した時にお会いしましたの」
真里さんも、嬉しそうに話を続ける。
「とても素敵な方で、クロバ様とおっしゃいますの」
「へえ。どんなお兄さんなんだ? 写真とか見てみたいな」
「そうでした。サクラさん、お写真はありませんの?」
二人の視線が、同時に私へ向いた。まずい。ものすごくまずい。
「すみません。兄弟の写真は、あまり撮ってないかな〜」
下手。自分でも分かるくらい、下手な嘘だった。美桜さんと真里さんは、分かりやすく落ち込んだ。
「まあ、それは仕方ありませんわ。では、次はいつ来られますの?」
「こないだは出張でこっちに来ていただけなので、もう来ないんじゃないかな…あはは」
ごまかせるか。いや、ごまかしたい。
「では、連絡先を教えてほしいのですが…」
ぐいぐい来る。真里さん、すごくぐいぐい来る。
真里さんの勢いも怖い。でも、それ以上に美桜さんの目が怖かった。普通に恋バナを楽しんでいる目ではない。何かを探している目だ。皐月さん。黒狼。影。美桜さんは、もうかなり近いところまで来ている。そこに突然、私の“お兄ちゃん”という存在が出てきた。怪しまない方がおかしい。私は心の中で叫んだ。クロ。何とかして。これ以上、この話を続けられたら詰む。
その時、足元の影が揺れた。黒い耳が出て、続いて黒狼の顔が出る。クロだった。助かった。たぶん、クロもこれ以上この話を続けてほしくなかったのだと思う。真里さんの表情が、ぱっと明るくなった。
「まあ、クロちゃん!」
真里さんはソファから立ち上がり、クロの前に膝をついた。
「先日は助けてくださって、ありがとうございました」
そう言って、深く頭を下げる。召喚獣に対しても、ちゃんと礼を言う。その姿を見て、私は少しだけ真里さんへの好感度が上がった。クロは、少し気まずそうに尻尾を揺らした。よし。話題が逸れた。これで何とかなる。
真里さんは、クロをとても大事そうに撫でた。
「本当に賢くて、勇敢な子ですわね」
クロは、いつもより少しだけおとなしくしている。たぶん、真里さんのマリーっぽさに戸惑っているのだろう。でも、話題は逸れた。クロバ様の写真も、連絡先も、次に来る日も、とりあえず流れた。よかった。そう思った時だった。横から、視線を感じた。美桜さんだ。美桜さんは、真里さんに撫でられているクロをじっと見ていた。その目は、優しいだけではなかった。何かを確かめるような、怖い目。もしかして。美桜さんは、クロを皐月さんだと思っているのかしら。背中に、冷たいものが走った。
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