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64. 天照院総長の妹を、うちで匿うことになりました

いつも応援ありがとうございます!

当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


最新話までじっくりお楽しみください!

【サクラ視点】

 呼び鈴が鳴った。テレビでは、天照院(あまてらすいん)羅刹組(らせつぐみ)の抗争についての速報が流れ続けている。こんな時に誰だろう。そう思いながらドアを開けると、そこにいたのは真里(まり)さんだった。

「クロバ様はいらっしゃいますか?」

「……」

 私は一瞬、何も言えなかった。そこからですか。この状況で、まずクロバ様ですか。真里さんは、はっとしたように頬を赤くする。

「あ! 違いました! いえ、違わないのですが、違いますの!」

 どっち。

「少し、お話をさせていただけませんか?」

 その声が、いつもより少しだけ硬かった。私は小さく頷いて、真里さんを部屋へ上げた。


 真里さんには、ソファに座ってもらった。私は台所でコーヒーを淹れる。本当は紅茶の方が良いのかな、と思ったけれど、うちにあるのは普通のティーバッグくらいだ。とりあえず、コーヒーでいく。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

 真里さんはカップを両手で受け取った。

「紅茶の方が良かった?」

「はい…いえいえ! コーヒーで十分ですわ」

 今、はいって言った。完全に言った。でも、そこを突っ込む空気でもない。私は向かいの席に座り、真里さんを見る。

「えーっと、話って?」


 真里さんは、カップを置いて姿勢を正した。

「サクラさんに、図々しいお願いがございます」

「お願い?」

「私を、この家で匿っていただけませんか?」

「え?」

 思わず変な声が出た。匿う。それは、なかなか日常では使わない言葉だ。真里さんは、少しだけ目を伏せる。

「実は、テレビでも報道されていると思いますが、我が兄のクランである天照院と羅刹組が抗争に発展しました」

「そうだったわね。大丈夫なの?」

「正直、大丈夫ではありませんの」

 真里さんの声が小さくなった。

「兄がダンジョンから出てきて、現在、羅刹組の首領と対峙している最中だとか」

「え! そんな危機迫ってるの!?」

 テレビの中の出来事だと思っていた抗争が、急にこの部屋の中まで入ってきた気がした。


「お兄様は負けませんわ」

 真里さんは、そこだけははっきりと言った。けれど、その指先はカップの縁をぎゅっと握っている。

「ですが、前のように私が捕まり、お兄様の足枷になってしまったら…」

 その言葉で、私は理解した。真里さんは、兄の負けを心配しているわけではない。自分が兄の弱点になることを恐れているのだ。先日の事件。拘束され、利用されかけた記憶。あれは、まだ真里さんの中に残っている。

「天照院の関係施設は、逆に目立ちますの。お兄様に近い場所も、警戒されていると思います」

「それで、私の家?」

「はい。サクラさんにはご迷惑をおかけしますが…」

 真里さんは申し訳なさそうに頭を下げた。たぶん、クロバに会いたい気持ちもある。でも、それだけじゃない。この人は、本気で怖がっている。


「一応、信頼しているギルドの職員さんに連絡してもいいかしら?」

「ええ、かまいませんわ」

 私はスマホを取り、若葉(わかば)さんに連絡した。数コールで、若葉さんが出る。

『サクラさん、どうされましたか?』

「若葉さん、今うちに真里さんが来ていて…」

『真里さんが?』

 声が少し硬くなった。私は事情を説明した。天照院と羅刹組の抗争。真里さんが兄の足枷になることを恐れていること。しばらくここで匿ってほしいと言っていること。若葉さんは少し考え込んだ後、静かに言った。

『サクラさんの住所は、少なくとも表の天照院関係者には出ていません。避難先としては、悪くないと思います』

「本当ですか?」

『はい。ただし、誰にも言わないでください。鍵は必ず閉めて、できるだけ外に出ないでください』

「分かりました」

 こうして、真里さんをうちで匿うことが決まった。


 ずっと緊張していても仕方ない。そう思った私は、できるだけ明るい声を出した。

「とりあえず、ご飯にしよう」

「ご飯、ですか?」

「うん。ピザ頼む?」

「ピザ…宅配のピザですか?」

 真里さんの目が、少しだけ輝いた。まさか。

「食べたことないの?」

「お恥ずかしながら、ありませんの」

 お嬢様だった。ここに、本物のお嬢様がいた。私はチラシを広げて、真里さんに見せる。

「好きなの選んでいいわよ」

「まあ…こんなに種類がありますのね」

 真里さんは、初めて見る宝物の地図みたいにチラシを眺めた。そして、選び始めた。いや、選びすぎた。

「本当に食べられるんですか…?」

「お恥ずかしながら、私、少々大食いでして…」

 頬を赤くして言われても。いや、可愛いけど。でも量がすごい。


 私はピザホットに電話した。真里さんが選んだものを読み上げていく。ピザ。サイドメニュー。さらにデザート。注文を終えると、店員さんが明るい声で言った。

『合計で9800円になります!』

 9800円。ほぼ一万円。ピザで一万円。まあ、割り勘ならいいか。そう思った時だった。

「あの…サクラさん」

 真里さんが、もじもじしながらこちらを見る。

「私、お金を持ってきていませんの…」

「……」

 衝撃だった。お金がないのに、あれだけ注文する度胸。さすが天羽真里(あもうまり)。お嬢様のスケールは、財布の有無を超えている。とはいえ、避難してきたのだから仕方ない。私は深く息を吐いた。

「…今回は私が出すわ」

「ありがとうございます!」


 ピザが届くと、真里さんはまるで儀式を見るような顔をしていた。箱を開けた瞬間、チーズの匂いが部屋に広がる。

「まあ…」

 真里さんの目が輝いた。一口食べる。そして、さらに輝いた。

「美味しいですわ!」

 そこから先は、早かった。上品に食べている。食べ方は綺麗だ。でも、量がおかしい。ピザが消えていく。サイドメニューも消えていく。デザートまで消えていく。私は二度目の衝撃を受けた。本当に食べるんだ。あれだけあったのに。真里さんは、満足そうに口元を拭いた。

「宅配ピザ、素晴らしい文化ですわね」

 その言葉に、私は思わず笑ってしまった。テレビではまだ、天照院と羅刹組の速報が流れている。外の世界は危険なまま。それでも、この部屋の中だけは、少しだけ緊張がほどけていた。

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださった方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

いよいよ始まった第4章、ここからさらに物語は加速し、熱い展開へと突入していきます!


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