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63. 小さな揉め事が、三大クラン抗争の火種になった

いつも応援ありがとうございます!

当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


最新話までじっくりお楽しみください!

 始まりは、小さなきっかけだった。ある中規模ダンジョンの下層で、羅刹組(らせつぐみ)に参加しているパーティーと、クラン無所属のパーティーが揉めた。原因は、戦利品の取り分か。それとも、狩場の優先権か。どちらにせよ、よくあるいざこざだった。ダンジョン内では、力を持つ者ほど声が大きくなる。そして、羅刹組の者たちは特に引くことを嫌う。無所属のパーティーもまた、簡単には下がらなかった。両者の空気は一触即発。そこへ、天照院(あまてらすいん)の中堅ハンターが仲裁に入った。本来なら、それで終わるはずだった。


 天照院の中堅ハンターは、冷静に間へ入った。無所属のパーティーを下がらせ、羅刹組側にも矛を収めるよう促す。天照院は、三大クランの中でも正統派と呼ばれる。ダンジョン攻略を第一とし、秩序を重んじるクランだ。彼らにとって、ダンジョン内での無用な争いは避けるべきものだった。だが、その仲裁を、羅刹組の者たちは侮辱と受け取った。

「天照院が偉そうに指図するな」

 次の瞬間、羅刹組のメンバーが天照院のハンターへ攻撃を仕掛けた。それが、最初の火種だった。天照院は応戦した。そして、羅刹組のパーティーを制圧した。


 制圧された羅刹組の情報は、すぐに組の中へ広がった。そこで怒ったのが、下位ナンバーズだった。羅刹組におけるナンバーズは、上位21人の幹部を指す。No.0からNo.20まで。そのうち、No.5からNo.20までは入れ替え制である。勝てば上がる。負ければ落ちる。そういう世界にいる者たちは、面子を何より重く見る。普段であれば、上位ナンバーズが動く。暴走しそうな者を押さえ、必要なら天照院と手打ちにする。だが、この時は運が悪かった。上位ナンバーズ、No.0からNo.5は大規模ダンジョン攻略中。天照院総長のパーティーもまた、同じく大規模ダンジョン攻略中で連絡が取りづらい状況にあった。歯止めが利かなかった。下位ナンバーズは報復のため、制圧に関わった天照院ハンターの所属事務所を急襲した。その結果、天照院のパーティーメンバー数名が病院送りとなった。もはや、ただの揉め事では済まなかった。


 天照院も黙ってはいなかった。事務所が襲撃され、仲間が病院送りにされた。それを聞いた中堅パーティー、上位パーティーが動き出す。本来なら、総長である天羽義道(あもうよしみち)の判断を待つべきだった。だが、総長はダンジョン内。連絡は遅れ、現場の怒りは先に燃え上がった。さらに、謹慎中だった征士郎(せいしろう)も動いた。彼には、羅刹組への個人的な恨みがある。洗脳道具。真里への襲撃。天照院を内側から壊そうとした謀略。その背後に羅刹組の影があると知ってから、征士郎の中の火は消えていなかった。征士郎は臨時パーティーを組み、羅刹組の上位ナンバーズを急襲した。そして、No.7、No.8、No.9が倒された。その時点で、ついにニュース速報が流れた。

『天照院と羅刹組、都内複数箇所で衝突』

 小さな火種は、抗争という名の炎へ変わっていた。


 幸運だったのは、月華楼(げっかろう)の楼主、九条椿姫(くじょうつばき)が動いたことだ。天照院と羅刹組。三大クランのうち二つが本格的にぶつかれば、日本のハンター社会そのものが揺らぐ。ハンターギルドも緊急対応に入ったが、現場の怒りを抑えるには時間がかかった。その隙間に、九条が入った。月華楼の楼主として。そして、三大クランの均衡を守る者として。九条は双方に停戦を飲ませた。その場にいた者たちは、ひとまず胸を撫で下ろした。これで一度、火は消える。そう思われた。


 しかし、その停戦は長く続かなかった。羅刹組のダンジョン攻略組が、地上へ戻ってきたのである。上位ナンバーズ。そして、首領・鬼塚鉄心(おにづかてっしん)。彼らは地上で起きた騒動を聞き、停戦が成立したことも知らされた。だが、羅刹組にとって、それは終わりの合図ではなかった。むしろ、火に油を注ぐ知らせだった。

「面白ぇじゃねぇか」

 誰かがそう言った。そして羅刹組は、停戦を放棄した。彼らは天照院本部を包囲する。それは、天照院への挑発であると同時に、停戦をまとめた月華楼の面目を潰す行為でもあった。九条椿姫が、黙っているはずがない。月華楼は天照院側として参戦した。ここに、三大クランのうち三つすべてが、抗争の場に立つことになった。


 天照院本部を挟み、羅刹組と天照院・月華楼の連合は睨み合った。その中で、何度か鬼塚鉄心と九条椿姫がぶつかった。羅刹組首領、鬼塚鉄心。圧倒的な膂力と耐久、そして武闘派クランの頂点に立つ暴力そのもののような男。その腰には、赤黒い鎖が巻かれていた。九条椿姫の視線が、一瞬だけその鎖へ落ちる。

「相変わらず、物騒なものをお持ちですのね」

「飾りだ」

 鬼塚は鼻で笑った。

「まあ。そういうことにしておきましょう」

 九条はそれ以上、触れなかった。けれど周囲の月華楼の者たちは、その赤黒い鎖から目を離せずにいた。対する九条椿姫は、月華楼の楼主。優雅で、冷静で、美しい。だが、その内側にある力は決して柔らかくない。鬼塚が剛なら、九条は流。鬼塚が砕く力なら、九条は絡め取り、凍らせ、封じる力だった。得手不得手はある。だが、この組み合わせでは、九条がやや優位に立った。それでも鬼塚は倒れない。笑いながら立ち上がる。まるで戦いそのものを楽しんでいるように。


 三度目の衝突が終わった頃。ようやく、天照院総長、天羽義道が地上へ戻った。大規模ダンジョン攻略からの帰還である。天羽は短い報告を受け、状況を把握した。そして、九条の前へ向かう。

「九条さん。助力、感謝します」

「貸しにしておくわ」

 九条は優雅に笑った。天羽は静かに頷く。

「ここからは、天照院と羅刹組の問題です」

 その言葉を受け、月華楼は一歩下がった。鬼塚鉄心が笑う。

「やっと来たか、天羽」

 天羽義道は前へ出た。正統派クランの総長として。妹を傷つけられた兄として。天照院の名を背負う者として。羅刹組首領、鬼塚鉄心と向かい合う。次の瞬間、二人の魔力がぶつかった。抗争は、頂点同士の戦いへ移ろうとしていた。

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださった方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

いよいよ始まった第4章、ここからさらに物語は加速し、熱い展開へと突入していきます!


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