6. 千年ぶりに聞いた、日本語
とりあえず、10話まで毎日3話投稿します!
2日目、3話目の投稿です。次は明日の6時です!
意識を失っていた俺は目を覚ました。いや、目を覚ましたという表現が正しいのかは分からない。俺にはもう、目も、手も、足もなかった。そこにあるのは、悪魔本来の精神生命体としての俺だけだった。マリーの体もなく、ここがどこかも分からない。ヴァルメリアなのか悪魔界なのか、別の場所なのか判断できない…。
そして、目の前には女がいた。血だらけだった。その姿を見た瞬間、嫌でもマリーを思い出した。だが、違う。服が違う。空気が違う。何より、彼女の目に浮かんでいるのは、復讐に燃える覚悟ではなく、ただ純粋な恐怖だった。
「私を召喚したのか?」
まずは確認した。悪魔にとって召喚とは契約の始まりだ。願いがあり、対価があり、契約がある。そのはずだった。だが、女は俺の言葉を聞いて、怯えた顔のまま固まった。
言葉が通じていない。俺は眉をひそめた。いや、精神生命体に眉があるのかは知らんが、とにかくそんな気分だった。召喚者と悪魔の間には、契約のための最低限の意思疎通が成立するものだと思っていた。だが、目の前の女は、俺の言葉をまったく理解していないようだった。
改めて周囲を見る。石の床。折れた杖。そして、階段からここまでに至る血の跡。どう見ても平和な場所ではない。女の傷も浅くはなかった。放っておけば、そう長くは持たないだろう。
「何を喋っているの? 私が、変なのを呼んじゃったの?」
女が小さくつぶやいた。その瞬間、俺の意識が止まった。知っている。その響きを、俺は知っている。だが、あまりにも長い間使っていなかったせいで、すぐには名前が出てこなかった。ヴァルメリア語ではない。悪魔の言葉でもない。もっと古い。もっと懐かしい。俺が人間だった頃の言葉。日本語だ!!俺は悪魔になってから、初めて“故郷の言葉”を聞いた。それは、千年分の時間が少しだけ巻き戻った気と、俺が人間だった証のような言葉だった。
俺は記憶の底から、日本語を引っ張り出した。何百年も使っていない言葉だ。喉も口もない精神生命体のくせに、なぜか舌がもつれるような感覚があった。
「お、お前……喋って…いる……日本語、か?」
自分でもひどい日本語だと思った。だが、女の目が大きく見開かれた。
女は驚いて、俺を見て話かけてくる。
「そうよ!日本語よ!アナタ言葉分かるの?」
言葉が通じた。それだけで、状況は大きく変わった。だが、安心するにはまだ早い。ここがどこなのか。俺が地球に戻ったのか。それとも、この女がヴァルメリアに迷い込んだのか。確かめる必要があった。俺は続けて日本語を喋ってみた…
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