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59. 皐月の影を追っていたら、月華楼の楼主に呼び出された

いつも応援ありがとうございます!

当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


最新話までじっくりお楽しみください!

美桜(みお)視点】

 皐月(さつき)の影を見つけたと思ったら、すぐに消える。まるで、本当に影を追いかけているみたいだった。公園の監視カメラ。黒狼のような姿。地面…おそらく影へ消えた瞬間。分からないことは増えた。けれど、今まで影すら見えなかったのだ。それを思えば、大進歩だった。明日も周辺の監視カメラを探そう。記録が消える前に、少しでも手がかりを集めないと。そう考えていた時、スマホが鳴った。画面に表示された名前を見て、私は固まる。九条椿姫(くじょうつばき)。しまった。そう思いながら、私は電話に出た。


「もしもし」

『美桜さん、今すぐ来なさい』

 それだけだった。理由は言わない。説明もしない。けれど、月華楼(げっかろう)の楼主にそう言われて、断れる者はいない。

「…はい」

 最初は、九条さんの自宅へ向かう予定だった。けれど、途中で連絡が入り、場所が近くのバーへ変更になる。私はその時点で、だいたい察していた。胡蝶蘭(こちょうらん)の活動のことだ。最近、私は明らかにパーティーの活動を止めている。理由は皐月。でも、それをそのまま言えるわけではない。月華楼の幹部として、Aクラスパーティーのリーダーとして、私が今していることは褒められたものではなかった。


 カラン、カラン。バーの扉を開けると、控えめなベルの音が鳴った。店内は暗すぎず、明るすぎない。カウンターの奥では、バーテンダーが静かにグラスを磨いている。そして、そのカウンター席に九条さんはいた。

「美桜さん、こちらよ」

 彼女は振り返り、優雅に手招きする。私は逃げたい気持ちを押し殺して、隣の席に座った。九条椿姫。月華楼の楼主。微笑んでいるのに、なぜか背筋が伸びる。この人の前で、ごまかしは通じない。


「美桜さん」

 九条さんは、グラスに視線を落としたまま言った。

「どうしたの? 最近、胡蝶蘭の活動をしていないじゃないの」

 胡蝶蘭。私がリーダーを務めるパーティーだ。女性5人で構成された、月華楼所属のAクラスパーティー。月華楼の中でも、決して軽い立場ではない。それを止めている。言い訳できない事実だった。

「すみません。プライベートで、少し諸事情があって…」

「今まで、そんなことなかったわよね」

 九条さんの声は静かだった。だからこそ怖い。

「男関係?」

「っ」

 反応してしまった。しまった。九条さんは、ゆっくりこちらを見る。

「はぁ。まさか、あなたがね」


「揉めているの?」

「いえいえ。揉めるも何も、相手はいません」

 これは嘘ではない。相手はいない。少なくとも、今の私の前には。

「嘘おっしゃい」

 九条さんは即答した。まったく通じていなかった。その時、カウンターの向こうからグラスが差し出される。

「サイドカーです」

 琥珀色のカクテルだった。

「私が注文しておいたわ」

「ありがとうございます」

 グラスを受け取り、少しだけ口をつける。強い。でも、香りは良い。まるで九条さんみたいなカクテルだと思った。優雅で、きつい。


「それで、今後はどうなるの?」

 九条さんが聞いた。

「あと少し…少しだけお時間をください」

「少し?」

「一応、ひと段落つくかもしれないんです」

 自信はない。けれど、手がかりはある。皐月に近づいている感覚もある。ここで止まるわけにはいかない。

「パーティーメンバーは?」

「了承は得ています」

 九条さんは、しばらく黙っていた。その沈黙が、説教よりも重い。

「そう」

 彼女はグラスを静かに置いた。

「美桜さん。あなたを信頼しているから、今すぐ戻れとは言わないわ」

「ありがとうございます」

「でも、長くは待てないわよ」

「…はい」


 その時だった。カラン、カラン。バーの扉が開き、三人の男が入ってきた。空気が変わる。服装も態度も、この店の落ち着いた雰囲気には合っていない。ガラが悪い。男たちは店内を見回した。誰かを探しているようだった。そして、一人がにやりと笑う。

「あー、いたいた。見つけたよ〜」

 見つけられた方の男も、知り合いなのか軽く手を上げた。次の瞬間。殴り合いが始まった。本当に、何の前触れもなく。グラスが割れ、客が悲鳴を上げる。私は反射的に立ち上がりかけた。だが、九条さんが静かに言った。

羅刹組(らせつぐみ)のナンバーズね」


「ナンバーズですか?」

「ええ。羅刹組の上位者たち。たぶん昇格戦か、その前後の揉め事でしょうね」

 九条さんは、心底面倒そうに息を吐いた。殴り合いは続いている。バーテンダーが止めようとしているが、男たちは聞く気がない。

「止めますか?」

 私が聞くと、九条さんは首を振った。

「無駄よ。羅刹組の内部事情に、月華楼がこの場で手を出す理由はないわ」

 たしかにそうだ。ここで余計に関われば、月華楼と羅刹組の揉め事になる。九条さんはグラスの代金を置き、席を立った。

「本当うるさい。出ましょ」

「はい」

 私たちは、騒ぎが大きくなる前に店を出た。


 店の外に出ると、夜風が少し冷たかった。扉の向こうからは、まだ怒号と鈍い音が聞こえてくる。九条さんは、振り返りもせずに言った。

「最近の羅刹組は危ないわ」

「以前から危ない印象はありますけど…」

「荒いだけなら、まだ分かりやすいの。でも最近は違う」

 九条さんの声が、少し低くなる。

「ナンバーズの動きが活発になっている。天照院の件も、まだ完全には片づいていない。美桜さんも気をつけて」

「はい…」

 私は頷いた。皐月を追うことばかり考えていた。けれど、世界はそれだけで動いているわけじゃない。羅刹組。ナンバーズ。天照院(あまてらすいん)事件。その言葉が、夜の空気の中で重く残った。

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださった方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

いよいよ始まった第4章、ここからさらに物語は加速し、熱い展開へと突入していきます!


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