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57. 良いことをした日は、ラーメンがうまい

いつも応援ありがとうございます!

当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


最新話までじっくりお楽しみください!

 食事を終えた私は、藤堂さんと一緒にバスに乗った。さっき見た羅刹組(らせつぐみ)の人たちの光景が、まだ頭に残っている。店の前にずらりと並んだ男たち。一人の男性に向かって、一斉に頭を下げる姿。まるで映画のワンシーンみたいだった。

藤堂(とうどう)さん、さっきのナンバーズって何ですか?」

 私が聞くと、藤堂さんはいつもの柔らかい笑顔で答えた。

「羅刹組の幹部だね。上位21人。No.0からNo.20までいる」

「21人もいるんですか?」

「うん。ただ、No.5からNo.20までは入れ替え制なんだ」

「入れ替え制?」

「戦って、勝てば上に上がれるってわけさ」

 本当に実力主義なんだ。私は思わず窓の外を見た。関わりたくない世界だなと思った。


「さっきの料理屋さんのは、勝って昇進した人のお祝いだったんだろうね」

「ふ〜ん」

 私は素直に感心した。でも、感心しただけだ。

「まあ、私たちには関係のない世界ですね」

「え? サクラさんもハンターとして活動してるんだろ?」

「う〜ん、まあそうですけど。それでも私には関係ありません」

 私は普通の会社員だ。週末に少しダンジョンへ行くくらいの。羅刹組の幹部争いなんて、絶対に関係ない。藤堂さんは、なぜか楽しそうに笑った。

「ふふ、そうだね」

 その笑い方が、少しだけ引っかかった。でも、その時の私は深く考えなかった。


 私の降りるバス停に着いた。

「藤堂さん、今日は課長の書類、ありがとうございました」

「たいしたことじゃないと。それよりもごちそうさま。気をつけて帰ってね」

 藤堂さんはまだ先まで乗るらしい。私はバスを降り、軽く頭を下げた。バスが走り去る。その後ろ姿を見送って、家の方へ歩き出した。その時だった。バスが走っていった方向から、一台の車がふらつきながらこちらへ向かってきた。

「え?」

 車は車道を外れ、歩道に乗り上げる。次の瞬間、大きな音を立てて街路樹にぶつかった。ガラスが割れる音。周囲の悲鳴。私は、一瞬だけ動けなかった。


「救急車! 誰か救急車を!」

 そう叫ぶ声で、私は我に返った。スマホを取り出し、119番へ電話する。場所を伝え、状況を伝える。その間にも、周囲の人たちが車へ集まっていた。

「ドアが開かない!」

「中に人がいるぞ!」

 運転席には、女性がいた。意識はあるようだけれど、動けない。みんながドアを引っ張っているが、歪んでいて開かないようだった。私は電話を切ると、前へ出た。

「すみません、どいてください!」

 ハンターとしてレベルが上がると、筋力や耐久も少しずつ上がる。私は強いハンターではない。

 でも、一般の人よりは力がある。ドアの隙間に手をかけ、思い切り引いた。金属が嫌な音を立てる。

「開いて…!」

 もう一度力を込めると、歪んだドアが無理やり開いた。


 私は女性の体を支えながら、慎重に車の外へ引っ張り出した。

「聞こえますか? 大丈夫ですか?」

「……はい…」

 返事があった。よかった。意識はある。私は周囲の人に手伝ってもらい、女性を道脇の安全な場所へ移動させた。出血もある。顔色も悪い。私はカバンの中から、低ランクのポーションを取り出した。ダンジョン用に持っていたものだ。

「少し飲めますか?」

 女性が小さく頷く。少しずつ飲ませると、完全に治るわけではないけれど、顔色が少し戻った。しばらくして、救急車が到着した。私は救急隊の人に状況を説明し、女性を引き渡した。これで終わり。……ではなかった。次は警察の事情聴取である。早く帰りたいのに。トホホ。


 警察の事情聴取が終わった頃には、すっかり疲れていた。でも、不思議と気分は悪くなかった。良いことをした後は、やっぱり気持ちがいい。それに、かなりお腹も空いた。さっきは藤堂さんの前だったから…分かるでしょ?で、このまま帰るのも何だか寂しい。そうだ。ラーメンを食べよう。ラーメンといえば、三蘭。私は帰り道にある三蘭へ入った。ここは席が小部屋っぽく仕切られているから、足元のクロにも少しだけ分けやすい。注文したラーメンが届くと、湯気と一緒に良い匂いが広がった。最高。私は足元に小さく声をかけた。

「クロさん、少し食べる?」

 影から、黒い鼻先が出てきた。


 私は小皿に麺を少し取り、スープを少しだけ入れて足元へ置いた。クロが顔だけ出して、器用に食べる。そして、ぴたりと止まった。

「…クロ?」

『千年ぶりだ…』

 え。

『ラーメン…千年ぶりだ……』

 クロの目元に、うっすら涙が浮かんでいた。そんなに?いや、千年ぶりならそうかもしれない。私は思わず笑ってしまった。

「よかったですね」

『ああ。これは良い文明だ』

 クロは、ものすごく真剣にそう言った。今日は事故もあったし、事情聴取もあった。でも、人助けもできた。クロにも良いことをしてあげられた。なんだかんだで、良い日なのかもしれない。


 後日。私は会社で、なぜか上役に呼び出された。何かしたっけ。また何かミスした?そう思って少し緊張しながら向かうと、なぜか社長までいた。

「サクラさん、先日の件、聞きましたよ」

「先日の件…?」

「交通事故の救助です」

 そこで初めて知った。私が助けた女性は、うちの会社の大手取引先のご令嬢だったらしい。その取引先から、会社へ丁寧なお礼が入ったとのことだった。

「会社としても、あなたの行動を誇りに思います」

 そんなことを言われ、金一封までいただいた。え。いいんですか。人助けをして、ラーメンを食べて、さらにお金までいただけるなんて。今日は後日だけど、やっぱり良い日だ。よし。クロに何か買ってあげよう。ラーメン千年ぶり記念に。

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださった方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

いよいよ始まった第4章、ここからさらに物語は加速し、熱い展開へと突入していきます!


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