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54. 【番外編】彼は皐月で、皐月ではなかった

いつも応援ありがとうございます!

当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


最新話までじっくりお楽しみください!

美桜(みお)視点】

 公園に設置されていた監視カメラの映像を、ハンターギルド経由で確認させてもらった。本来なら、簡単に見せてもらえるものではない。しかも、今回の件はダンジョン内で起きた事件ではない。ただの公園。ただの街中。それでも、私は無理を通した。魔法関連の調査。行方不明ハンターの可能性。深層転移に関わる重要案件。使える言葉は全部使った。自分でも強引だと思う。でも、皐月(さつき)が関わっているかもしれないなら、今さら遠慮なんてしていられなかった。


 映像が再生された。公園の入口。休日の昼間。何人かの親子連れが通り過ぎる。そして、その中に一人の男が映った。私は息を止めた。背の高い男。黒い髪。白いシャツに、ジーパン。その顔が、カメラに映る。

「……嘘」

 声がこぼれた。皐月だった。飯塚(いいづか)の見間違いじゃない。夢でもない。映像の中に、皐月がいた。皐月は公園へ入り、ベンチに座った。何かを考えるように、しばらく空を見上げている。その横顔を見た瞬間、胸の奥が苦しくなった。10年以上探していた人が、そこにいた。


 でも、見れば見るほど、違和感もあった。顔は皐月。立ち方も、ふとした仕草も、私の知っている皐月に似ている。それなのに、表情が違った。懐かしい場所に戻ってきた人の顔ではない。まるで、自分がなぜここにいるのか分からない人。懐かしいはずのものを、懐かしいと分かりきれない人。そんな顔だった。10年以上経っているはずなのに、年齢の重なり方もどこか不自然だった。それでも、皐月にしか見えなかった。だからこそ、怖かった。


 皐月はベンチから立ち上がり、公園を出た。そこへ、飯塚の車が通りかかる。映像には音がない。けれど、車が急に止まり、飯塚が慌てて降りてくるのが分かった。飯塚は皐月に駆け寄り、両肩を掴む。皐月は動かない。ただ、戸惑っているように見えた。飯塚が何かを言い、車へ戻る。たぶん、私に連絡するためにスマホを取りに行った瞬間だ。その時。皐月の姿が、黒く揺れた。

「…え?」

 画面の中で、皐月の輪郭が崩れる。人の形が、黒い何かに変わっていく。獣。そう見えた。でも、ちょうど壁塀に遮られて、全体像は見えない。黒い影のようなものが動いた。そして、消えた。本当に、消えた。


 私は映像を巻き戻した。もう一度。さらにもう一度。拡大する。明度を上げる。コントラストを調整する。ハンターギルドで使う映像解析ソフトにもかける。それでも、はっきりとは分からなかった。分かるのは、皐月の姿が黒く崩れたこと。そして、その直後に大型犬のような黒い影が映っていること。

「どういうこと…?」

 皐月が一瞬で大型犬に?そんなこと、普通はありえない。でも、ダンジョンが現れた世界で、普通という言葉ほど頼りにならないものはない。皐月は、何になったの。どこへ消えたの。


 そこで、私は別の可能性に気づいた。公園のカメラでは壁塀に隠れていた。なら、別角度のカメラならどうだろう。公園の外。道路側。近くの街頭防犯カメラ。店舗の外部カメラ。私は周辺の監視カメラを調べた。かなり無茶をしている自覚はある。でも、ここまで来て止まれるはずがない。ようやく、一つの映像に辿り着いた。距離は遠い。顔の判別は無理。けれど、角度が違う。さっき見えなかった場所が、少しだけ映っている。私は再生ボタンを押した。


 遠くに、皐月らしき人影が映っていた。次の瞬間、その体が黒く崩れる。人の形ではなくなる。四つ足。黒い体。狼のような輪郭。

「…黒狼?」

 声が、勝手に出た。黒い狼は、地面へ沈んでいった。いいえ。地面ではない。影だ。影に潜った。そんなことができる存在を、私は一つしか知らない。召喚獣。そして、黒狼。頭の中に、サクラちゃんの顔が浮かんだ。それから、サクラちゃんの足元にいた黒狼。クロ。


 黒狼。サクラちゃんの召喚獣。クロ。映像の中で、皐月は黒狼になって影へ消えた。もし、あれがクロなら。もし、サクラちゃんの影にいる黒狼が、皐月なら。胸が苦しくなった。サクラちゃんは、何か知っているの?迷宮核の前で、皐月の話をした時。ファミレスで、私と若葉に話を聞いた時。サクラちゃんは、何かを言いかけていたような気がする。でも、言えなかったのかもしれない。それが悪意だったとは思いたくない。まず、話を聞かなきゃ。私はスマホを手に取った。画面に表示された名前を見る。サクラちゃん。指が少し震えた。それでも、私は通話ボタンを押した…

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