53. 【番外編】妹を救うため、総長は天花隊をねじ伏せた
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【天羽(天照院総長)視点】
天照院本部に、爆音が響いた。一つではない。同時に4箇所。窓が震え、床が揺れ、廊下の向こうから怒号と悲鳴が飛び交う。
「報告を」
俺は立ち上がりながら命じた。モンスターの侵入ではない。気配が違う。爆発そのものは派手だが、攻撃が続いている様子はない。単発的な陽動か。あるいは、内部の混乱そのものが目的か。どちらにせよ、天照院本部を狙った明確な敵対行為だ。本部はしっちゃかめっちゃかになっていた。
対応しているその混乱の中、総長室の扉が開いた。入ってきたのは4人。天花隊のメンバーだった。真里のパーティー。そして、俺が妹を守るためにも信頼していた者たち。
「どうした?」
そう問いかけた瞬間、違和感に気づいた。目が違う。いつもの彼らではない。
「妹を返してほしければ、大人しく拘束されろ」
一人が端末をこちらへ向けた。画面に映っていたのは、拘束された真里だった。一瞬、頭の中が真っ白になる。だが、総長としての俺は、そこで止まれない。
真里。俺の妹。俺が守るべき家族。画面の中の真里は、拘束されていた。どこか怯えているようにも見える。腹の底から怒りが湧いた。だが、同時に妙だった。天花隊の様子がおかしい。俺は小さく息を吐き、鑑定を使った。そして、そこに表示された文字を見た。洗脳。やはりか。その瞬間、俺は判断を迫られた。妹の命。天照院の命運。俺がここで大人しく拘束されれば、天照院は終わる。真里を助けることもできない。なら、取るべきは一つだ。
「すまんな」
俺は、天花隊を力でねじ伏せた。
殺す必要はない。洗脳されているなら、必要なのは制圧と解除だ。俺は拘束魔道具で天花隊を抑え、洗脳解除アイテムを使った。しばらくして、彼らの目に色が戻る。
「総長…俺たちは……」
顔色が変わった。自分たちが何をしたのか、記憶が断片的に戻ってきたのだろう。
「話せ。真里はどこだ」
「封鎖ダンジョンの地下訓練場です」
「征士郎様が…そこに…」
征士郎さん。その名を聞いた瞬間、胸の奥に嫌な重さが落ちた。天照院の古参幹部。俺が信頼していた人物。だが、今は考えている暇はない。俺はすぐに地下訓練場へ向かった。
地下訓練場に踏み込んだ瞬間、俺の視界に真里が入った。拘束されている。そして、そのすぐ近くに女と黒狼がいた。征士郎さんの姿は、すぐには見えなかった。そんなことはどうでもいい。真里はまだ無事だ。なら、今すぐ助ける。怒りが限界を超えた。
「誰の妹に手を出しているのか、分かっているのか?」
俺は威圧を放った。女が怯えたように固まる。だが、次の瞬間、真里の声が響いた。
「お兄様、違いますの!」
真里の言葉で、俺はようやく状況を理解した。女と黒狼は、真里を襲っていたのではない。助けようとしていたのだ。
「失礼した」
俺はすぐに剣を収めた。
「妹を助けてくれた者に、剣を向けた。申し訳ない」
その後、征士郎さんの元へ向かう。彼は拘束され、倒れていた。鑑定。そこには、やはり“洗脳”の文字があった。俺は洗脳解除アイテムを使い、征士郎さんの意識を戻した。
「話してください。何があったのですか」
征士郎さんの話は、こうだった。数日前、封鎖ダンジョンで天花隊の訓練を見ていた。そこへ、一人の男が現れた。天照院の関係者ではない。侵入経路も分からない。征士郎さんと天花隊はすぐに対応したが、相手は強かった。まとめて制圧され、洗脳道具を使われた。
「男の手の甲に、No.が見えました」
征士郎さんは苦しそうに言った。No.その一点で、ほぼ絞れる。羅刹組。あいつらは、己の序列を刻む。ナンバーズと呼ばれる上位者たちは、特にその数字にこだわる。
「数字は?」
「見えませんでした。ですが、あの実力は…一桁台。おそらく上位です」
そうだろうな。征士郎さんと天花隊をまとめて制圧できるなら、羅刹組の幹部級と見ていい。俺は静かに息を吐いた。
「今度、挨拶に行かないといけませんね」
羅刹組へ。天照院総長として。
【征士郎視点】
正直に言えば、あの洗脳は私を別人にしたわけではない。私の中に元からあった歪みを、広げただけだ。真里への支配欲。総長への嫉妬。自分こそが天照院を導くべきだという傲慢。そんなものはないと、ずっと思っていた。いや、思いたかった。だが、あったのだ。洗脳は、それを暴いた。私は一人の女性を傷つけた。弟子を傷つけた。守るべきクランを傷つけた。言い逃れなどできない。
私は、この命をもって償うべきだと思った。だが、総長はそれを許さないだろう。死ぬことは簡単だ。本当に難しいのは、生きて責任を取り続けることだ。ならば、私は生きて償う。そして、羅刹組のあの男。奴だけは、必ず見つけ出す。私の罪が消えるわけではない。だが、これ以上、同じ道具で誰かが壊されることだけは止めなければならない。死んでも、なんとしてでも、あいつを止める。
【藤堂視点】
新聞には、派手な見出しが並んでいた。
『天照院内部抗争、未遂で収束』
『幹部の謀反を阻止』
『総長襲撃事件、関係者の生存を確認』
藤堂悠真は、読み終わった新聞を机に置いた。
「ふふ。思った通りにはいかなかったなぁ」
誰も死ななかった。総長も。真里も。征士郎も。それどころか、天照院は内部の異物を洗い出し、羅刹組へ疑いの目を向け始めている。予定とは、少し違った。
天照院は厄介だ。三大クランの中で、最も真面目にダンジョン攻略を進める。資源より、名誉より、深層へ進むことを優先する。そういう組織は、放っておくと迷宮核へ近づく。それは困る。だから、少し止まってもらうつもりだった。内側から折れれば、しばらくは攻略どころではなくなる。けれど、邪魔が入った。新聞を読む限り、その邪魔の正体までは分からない。ただ、誰も死ななかった時点で、普通ではない。
「さて。誰が邪魔をしたのかな」
「藤堂さん、会議始まりますよ」
サクラの声がした。
藤堂は、いつもの柔らかな笑顔で振り返る。
「ありがとう、サクラさん」
サクラは何も知らない顔で、会議室の方へ歩いていく。藤堂はその背中を見送った。深層適性者の種を根づかせた少女。そして、その影に潜む何か。
「本当に、面白いなぁ」
声には出さず、藤堂は笑った。新聞は、机の上に置かれたままだった。
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