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52. 【番外編】これは私の記憶ではない。けれど、私の恐怖だった

いつも応援ありがとうございます!

当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


最新話までじっくりお楽しみください!

真里(まり)視点】

 助かった。そのはずなのに、体の震えはなかなか止まりませんでしたわ。お兄様が来てくださった。サクラさんとクロさんが助けてくださった。私はもう、あの地下訓練場にはいない。拘束も解かれている。口を塞いでいたものも、目隠しも、もうありません。それなのに、手首に残った痛みが、まだ私をあの場所へ引き戻そうとするのです。怖かった。お師匠様。天花隊(てんかたい)のみなさん。信じていた方々の前で、私は何もできませんでした。天照院(あまてらすいん)の真里として。剣士として。総長の妹として。どれだけ胸を張っていても、あの場の私は、ただ怯えることしかできない弱い女でした。


 けれど、あの時。お師匠様が近づいてきて、もう駄目だと思った時。声が聞こえました。

「待って!!」

 サクラさんの声でした。嬉しかった。助けが来たことが嬉しかった。まだ終わっていないと思えたことが嬉しかった。けれど、それだけではありません。どこか、懐かしかったのです。今日で会うのは、まだ二度目のサクラさん、そして、黒狼。あの声と、あの影に、胸の奥が強く反応しました。まるで、ずっと昔にも、誰かが私のために来てくれたことがあるような。そんな、不思議な感覚でしたわ。


 それよりも怖かったのは、あの時に見えた景色です。あれは何だったのでしょう。見たことのない広場。大勢の人々。私へ向けられる冷たい目。石や物が投げつけられていました。そして、隣には誰かがいました。吊るされていた。大切な誰かだった気がします。でも、顔は思い出せません。最初は、ただ怖かった。でも、今になって思い返すと、怖さよりも怒りが湧いてくるのです。

 どうして。

 どうして、私がそんな目に遭わなければならないの。

 どうして、あの人たちは笑っているの。

 どうして、誰も助けてくれないの。

 そんな怒りが、胸の奥から込み上げてきます。けれど、おかしいのです。あれは私の記憶ではないはずですわ。私はそんな場所を知りません。そんな目に遭ったこともありません。なのに、あの怒りだけは、まるで私自身のもののように感じるのです。


 そして、もう一つ。あの景色の中で、何度も浮かんだ言葉があります。アシェル。これは何なのでしょう。呪文でしょうか。地名でしょうか。それとも、誰かの名前なのでしょうか。全く分かりません。それなのに、恐怖の底で私が求めたのは、その言葉でした。お兄様でもなく。お師匠様でもなく。アシェル。助けて。そう、叫んでいた気がします。声には出せなかったはずなのに。心の奥だけが、その名前を知っていたのです。


 戦いは、私には断片的にしか見えませんでした。サクラさんの召喚獣である黒狼が、お師匠様と戦っていました。けれど、終始押されていたように見えましたわ。お師匠様の動きは速く、私の目でも追い切れないほどでした。それでも、黒狼は退きませんでした。そして、黒狼が魔法を使った瞬間。お師匠様の右腕が吹き飛びました。やった。そう思った直後、サクラさんが崩れ落ちました。口から血を吐いて、膝をついて、苦しそうにしていました。お師匠様の攻撃かと思いました。でも、違ったのかもしれません。黒狼は追撃しようとして、できなかった。その理由がサクラさんにあるように見えたのです。そして、お師匠様はサクラさんを捕まえました。私は叫びました。でも、声は届きませんでした。


 もう駄目だ。そう思った次の瞬間。とてつもない威圧が、地下訓練場を満たしました。殺気。いえ、違います。それは、ただの殺気ではありませんでした。そこにいるだけで、魂の奥を押さえつけられるような圧。逆らうという選択肢そのものを奪われるような、絶対的な存在感。お兄様の威圧とも違います。ううん。たぶん、それ以上。私は離れていました。だから直撃はしなかったのだと思います。それでも、体が震えました。情けない話ですが、少しだけ粗相しちゃいましたわ。言っておきますがじんわりですわ。けれど、不思議なのです。怖い。怖いはずなのに。どこか懐かしい。その威圧に、私は知らないはずの誰かを感じました。アシェル。また、その名前が胸の奥に浮かびました。


 その後、お兄様が来てくださいました。お兄様の姿を見た瞬間、胸の奥がほどけた気がしました。でも、すぐに別の恐怖が襲ってきます。お兄様は、サクラさんたちを敵だと誤解していました。剣を振りかぶるお兄様。動けないサクラさん。駄目。違う。そう叫びたくても、口は塞がれたまま。その時、黒狼が私の口元へ来て、塞がれていたものを剥がしてくれました。

「お兄様、違いますの!」

 私は、必死に叫びました。

「この方たちは、私を助けてくださいましたの!」

 それで、ようやくお兄様の剣が止まりました。拘束が外され、お兄様の腕に支えられた時、私はもう立っていられませんでした。怖かった。本当に、怖かった。でも、助かったのです。サクラさんとクロさんが来てくださったから。


 お師匠様も、天花隊のみなさんも、どうやら洗脳されていたようです。それを聞いて、少しだけ安心しました。本心で裏切ったわけではなかった。私を本当に憎んでいたわけではなかった。そう思いたいです。けれど。だからといって、怖かったことが消えるわけではありません。あの目。あの声。近づいてくる足音。思い出すだけで、体が強張ります。許したい気持ちはあります。でも、今すぐ平気な顔で会うことは、きっとできません。しばらくは、男の方が近づくだけでも怖いかもしれませんわ。情けないです。けれど、それが今の私なのだと思います。


 そして、最後にもう一つ。黒狼のクロ。サクラさんの召喚獣。今日で会うのは、まだ二度目のはずです。それなのに、どうしてでしょう。そんな浅い関係には思えないのです。もっと深いところで、繋がっているような気がする。もちろん、そんなはずはありませんわ。私に召喚士のスキルはありません。クロはサクラさんの召喚獣です。私が特別な繋がりを感じる理由など、どこにもないはずです。それなのに。アシェル。黒狼を見た時も、あの威圧を感じた時も、胸の奥にその名前が浮かびました。本当に、不思議なことだらけですわ。誰に相談すればいいのでしょう。お兄様には心配をかけたくありません。サクラさんには、まだ上手く言葉にできません…

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださった方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

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実はX(Twitter)にて、サクラや大悪魔の【AI生成イラスト】や、作品の世界観をイメージした【オリジナルAI音楽】、執筆の裏話などを投稿しています!

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