49. マリーじゃない。でも、同じ恐怖だった
いつも応援ありがとうございます!
当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。
最新話までじっくりお楽しみください!
【サクラ視点】
スイーツを食べ終えて、私は予定通りダンジョンへ向かおうとしていた。その時だった。足元の影が、びくりと震えた。
「マリー…?」
クロの声が聞こえた。でも、すぐにその声は低くなる。
「いや、違う。真里だ」
「クロ?」
いつものクロじゃなかった。影の中から流れてくる感情が、急に冷たく、鋭くなる。怒り。焦り。そして、胸を引き裂くような恐怖。それは私のものじゃない。クロのものでもない。たぶん、真里さんのものだ。
「クロ、真里さんが危ないんですか?」
「ああ」
私は迷わなかった。
「行きましょう」
どうして、クロに分かるのだろう。真里さんは、やっぱりマリーさんと同じなの?マリーさんが転生してきたの?聞きたいことは、たくさんあった。でも、今はそれどころじゃない。
「場所は分かるんですか?」
「真里の影に、俺の影が少し残っているようだ」
「え、それってどういうことですか?」
「知らん」
「知らんって」
「だが今は役に立つ。あっちだ!」
クロが示した方角へ、私は走り出した。ダンジョンへ行くための荷物は持っている。武器もある。でも、心の準備なんてできていなかった。それでも、足は止まらなかった。
しばらく走って辿り着いた場所を見て、私は息を呑んだ。天照院。日本でも有数の大クラン。真里さんが所属している、あの天照院の敷地だった。
「ここ…入っていい場所じゃないですよね?」
「真里はこの中だ」
「ですよね…」
どうやって侵入しよう。そんなことを考えていたけれど、様子がおかしかった。門番らしい人がいない。それどころか、クランの人たちが慌ただしく出入りしている。何かが起きている。その混乱に紛れるように、私は門の中へ入った。心臓がうるさい。もし見つかったら、言い訳なんてできない。でも、真里さんが危ないなら、立ち止まっている暇はなかった。
クロの指示に従い、私は建物の奥へ進んだ。地下へ続く通路。その先には、封鎖ダンジョンの入口があった。天照院が管理している施設なのだろう。普通のハンターなら、絶対に入れない場所だ。入口の前には、見張りらしい人が2人倒れていた。
「えっ…」
私は思わず足を止める。近づいて確認すると、息はある。気絶しているだけみたいだった。でも、これではっきりした。ここで、何かが起きている。私は息を殺し、地下へ降りた。階段の先にあったのは、広い地下訓練場だった。私が出た場所は、観客席のような高い位置。そこから、訓練場の中央が見えた。
訓練場の中央に、真里さんがいた。でも、私が知っている真里さんではなかった。いつも背筋を伸ばして、堂々としていて、オーッホッホッと笑う真里さん。その真里さんが、拘束されていた。手足を縛られ、体を固定され、逃げられないようにされている。その前に、男が立っていた。さっき電話で真里さんが「お師匠様」と呼んでいた人だろうか。男が真里さんに近づく。真里さんの目には、はっきりと恐怖があった。その瞬間、私は考えるより先に叫んでいた。
「待って!!」
声が訓練場に響いた。男がゆっくりこちらを見る。やってしまった。でも、黙って見ているなんてできなかった。
「誰だ?」
男の声は、恐ろしいほど落ち着いていた。
「私です!」
言ってから思った。私です、では何も分からない。でも、もう遅い。男は私を見て、薄く笑った。
「なるほど。随分と勇敢なお嬢さんだ。いや、無謀と言うべきかな」
その目は、私のレベルも、実力も、一瞬で見抜いているようだった。
「今、いいところなんだ。どこかへ行けば、見逃してあげよう」
「そんなこと、できるわけないでしょ!」
私は叫んだ。でも、声が震えていた。怖い。私とあの男では、たぶんレベルが違いすぎる。その時、影の中からクロさんの声がした。
「すまない、サクラ」
え。そう思った瞬間、頭の奥に激痛が走った。
「っ…!」
クロさんが魔法を使った。その負荷が、魂糸を通して私に流れ込んできた。
黒い魔力が、訓練場を走った。私には何が起きたのか、ほとんど分からなかった。ただ、男が一瞬で横へ跳んだ。さっきまで男が立っていた床が、黒く裂ける。当たっていれば、ただでは済まなかったはずだ。でも、避けられた。男は目を細める。
「なかなかの使い手だな。どこの者だ?」
「あんたには関係ないでしょ」
私は強がって言った。本当は、頭が割れそうに痛い。立っているだけで精一杯だった。男はゆっくりと笑う。
「私は征士郎。天照院の次期総長となる者だ」
次期総長。その言葉に、真里さんの目が大きく揺れた。
「不法侵入だ。見せしめに殺してあげよう」
男、征士郎は、真里さんを見る。
「真里、よく見ておきなさい」
次の瞬間、征士郎の姿が消えた。いや、消えたように見えただけだ。速すぎて、目で追えなかった。気づいた時には、目の前にいた。
「え!」
両手を片手で掴まれる。そのまま、体が宙に浮いた。痛い。手首が砕けそうだった。私は必死に足を動かして蹴った。でも、効かない。まったく効いていない。レベル差。その言葉が、頭に浮かんだ。どれだけ気持ちがあっても、届かない差がある。真里さんが、声にならない悲鳴を上げているのが見えた。ごめんなさい。助けに来たはずなのに。私は、何もできない。
その時、足元の影が跳ねた。黒い塊が飛び出す。クロだった。クロは征士郎に向かって、真っ直ぐ体当たりした。
「ぐっ―!」
征士郎の体が吹き飛ぶ。私の手が離れ、私は床に落ちた。
「いっ…」
痛い。でも、生きている。目の前に、黒狼のクロが立っていた。私と真里さんを守るように。征士郎はゆっくりと起き上がった。その顔から、初めて余裕が少し消えていた。
「何者だ」
征士郎の目が光る。
「鑑定」
次の瞬間、征士郎の表情が変わった。
「なんというステータスだ。ただの召喚獣ではないな」
クロは低く唸った。けれど、征士郎はすぐに笑みを取り戻す。
「しかし、たかが召喚獣だ。まだ私には及ばない」
征士郎が構えた。クロも、低く姿勢を落とす。私は頭を押さえながら、必死に息を整えた。クロが力を使えば、私に負担が来る。さっきの魔法だけで、頭が割れそうだった。でも、クロが戦わなければ、私も真里さんも助からない。真里さんは、まだ拘束されたままだ。私が動かないと。でも、足が震える。怖い。それでも、逃げるわけにはいかない。征士郎が床を蹴った。クロさんも同時に飛び出す。黒い影と、鋭い剣気が、地下訓練場の中央でぶつかった。戦いが、始まった。
本編をお読みいただきありがとうございました!
一気読みしてくださった方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!
面白い、続きが気になる!と思ってくださったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると、3章執筆の凄まじいエネルギーになります!
実はX(Twitter)にて、サクラや大悪魔の【AI生成イラスト】や、作品の世界観をイメージした【オリジナルAI音楽】、執筆の裏話などを投稿しています!
ぜひ、お気軽に覗いてみてくださいね!
【https://x.com/WaiWair99】




