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44. 【番外編】人の形になっても、俺は人間に戻れない

いつも応援ありがとうございます!

当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


最新話までじっくりお楽しみください!

【クロ視点】

 俺は、人型に変身できた。正確には、黒狼の肉体をそのまま人間に変えたわけではない。影を骨格のように組み上げ、そこに俺本来の形を重ねたものだ。だが、見た目はほとんど人に近い。角と翼がなければ、だが。サクラの家に戻った俺は、鏡の前に立っていた。そこに映っているのは、黒狼ではない。背の高い男。暗い色の肌。頭から伸びる黒い角。背中に広がる6枚の翼。人間ではない。これは、悪魔だった頃の俺の姿なのだろう。


 俺は、自分のステータスを確認した。そして、内心で少し驚く。表示されたのは、影狼クロに引っ張られた弱い数値ではなかった。大悪魔としての、俺本来のステータス。レベル95。魔力も、筋力も、耐久も、黒狼の時とは比べものにならない。本来なら、これだけあれば大抵の敵はどうにでもなる。だが、喜べる状況ではなかった。使えば、サクラが死ぬ。魂糸共鳴(こんしきょうめい)。俺とサクラを繋いでいる魂の糸は、俺の力の余波をサクラへ流してしまう。黒狼の状態ですら、少し力を強めればサクラに負担がかかる。なら、この姿で本来の力を使えばどうなるか。考えるまでもない。サクラの体は、耐えられない。力は戻った。だが、使えない。まったく、嫌になるほどよくできた制限だ。


 問題は、容姿だ。鏡に映るこれは、おそらく悪魔だった頃の俺の姿だ。人間だった頃の姿ではない。たぶん、違う。そもそも、俺は人間として死に、悪魔として転生した。悪魔界で0歳から始まり、悪魔として成長した。なら、この姿は悪魔としての肉体が成長した結果だ。皐月(さつき)という男の顔ではない。そう思うと、胸の奥が少しだけ重くなった。人の形を取れた。だが、それは俺が人間だった証明にはならない。美桜(みお)が探している男の姿を、俺は思い出せない。若葉が兄と呼んでいた男の顔を、俺は思い出せない。鏡の中にいるのは、ただの大悪魔だった。


 鏡の前で考え込んでいると、サクラが後ろから声をかけてきた。

「ね〜クロ。その角とか羽って隠せないの?」

「角と翼を、隠すだと?」

「そのままだと服が着られませんし、外にも出られません」

 サクラの言い分は、極めて現実的だった。角と翼。悪魔にとっては、力の象徴であり、存在の証のようなものだ。それを隠せと言われるのは、誇りをしまえと言われるようなもの……なのかもしれない。そう思いかけて、俺はすぐに考え直した。いや、俺はそこまで悪魔としてのプライドを持っていない。悪魔界で生き残るために、泥でも血でも啜ってきた。逃げたこともある。隠れたこともある。どんな姿になっても、生き残る方を選んできた。今さら、角と翼を隠すくらいで騒ぐことでもない。

「一応、やってみるか」


 俺は背中に広がる6枚の翼へ意識を向けた。翼は、俺の体の一部だ。指を曲げるのと同じように動かせる。その輪郭を、少しずつ影へほどいていく。黒い羽が崩れ、煙のように揺れ、背中の内側へ沈んでいく。続けて、角にも意識を向けた。羊の角のように曲がった黒い角が、粒子になって崩れる。それはこめかみの奥へ吸い込まれるように消えていった。代わりに、額と背中の奥に薄い黒紋が残る。完全に消えたわけではない。封じた、と言った方が近い。少し窮屈だ。だが、動けないほどではない。

「これでいいか?」

 サクラが俺を上から下まで確認する。

「はい。服、着られそうです」

「大悪魔を着替えの心配で封じる女は、お前くらいだ」

「契約者ですから」

 サクラは当然のように言った。


 サクラが渡してきた服は、白いシャツとジーパンだった。現代日本の服は、相変わらずよく分からない。悪魔界の装束とも、ヴァルメリアの旅装とも違う。だが、着てみると動きやすかった。途中、ボタンの位置やベルトの扱いに少し手間取ったが、サクラがあれこれ言いながら手伝ってくれた。着替え終わり、鏡の前に立つ。角も翼もない。そこにいるのは、背の高い黒髪の男だった。ただし、目の奥には悪魔の色が残っている。

「似合ってる!」

 サクラがぱっと笑った。

「かっこいいわ!」

 その言葉に、俺は少しだけ返答に困った。褒められること自体は珍しくない。恐れられたり、崇められたりしたこともある。だが、サクラのそれは少し違う。純粋に、服が似合っていると言っているだけなのだ。……妙に調子が狂う。


「ね〜クロ?」

「なんだ?」

 サクラの声が、少しだけ変わった。さっきまでの楽しそうな響きが薄くなっている。

「その容姿は、皐月さんと同じなの?」

 空気が止まった。俺は鏡の中の自分を見る。角も翼も隠した。白いシャツとジーパンを着た。だが、その顔が皐月という人間と同じなのか、俺には分からない。思い出せない。人間だった頃の顔を。美桜の隣にいた自分を。若葉に兄と呼ばれていた自分を。

「……わからない」

 俺は、そう答えるしかなかった。

「覚えてないんだ」

 サクラは少しだけ目を伏せた。

「…そっか」


 俺は、何か言うべきだと思った。だが、言葉が出てこない。すると、サクラが少し考えるように俺を見た。

「じゃあ、この姿は今のクロなんだね」

「今の、私?」

「うん。皐月さんと同じかは分からない。悪魔だった頃の姿なのかもしれない。でも、今ここにいるクロの姿でしょう?」

 サクラはそう言って、少し笑った。

「だったら、私は覚えておくよ」

 その言葉は、妙に胸に残った。皐月だったかもしれない俺。大悪魔として生きた俺。黒狼の体にいる俺。そのどれでもなく、今ここにいる俺。サクラは、それを見ていた。

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださった方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

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実はX(Twitter)にて、サクラや大悪魔の【AI生成イラスト】や、作品の世界観をイメージした【オリジナルAI音楽】、執筆の裏話などを投稿しています!

ぜひ、お気軽に覗いてみてくださいね!

【https://x.com/WaiWair99】

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