表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
43/118

43. 影から、角と翼の男が現れた

いつも応援ありがとうございます!

当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


最新話までじっくりお楽しみください!

【サクラ視点】

 本当なら、この三連休は浅いダンジョンを攻略する予定だった。美桜(みお)さん、若葉(わかば)さんと一緒に3日かけて進むはずだったのに、思ったより順調に進んで、2日で終わってしまった。そして今日は日曜日。ぽっかり予定が空いた。休もうかな。洗濯しようかな。それとも、ただひたすら寝ようかな。そんなことを考えていた時、影の中からクロさんの声がした。

「サクラ。少し、ダンジョンへ行きたい」

 珍しいお願いだった。いつもの偉そうな感じではなく、どこか言いにくそうな声だった。


「すまない、サクラ。色々と試しておきたいことがあってな」

「いいよいいよ。クロのお願いはいつもウェルカム! だよ。だいたいは!」

「だいたいはって…」

「で、やりたいことって?」

「少しな」

 歯切れが悪い。いつものクロさんなら、もう少し偉そうに説明してくるのに。でも、昨日のことがある。皐月さんのこと。美桜さんのこと。そして、クロさん自身のこと。だから私は、それ以上深く聞かなかった。私たちは、家から少し遠い初級ダンジョンへ向かった。4層まで降り、人が来なさそうな広い場所を探す。正直、少し疲れている。でも、クロさんが何かを確かめたいなら、付き合いたかった。


 クロさんは、私から少し離れた場所で影を広げた。黒い影が足元から伸び、黒狼の体を包んでいく。最初は、ただ毛が逆立ったように見えた。次に、影が背中から膨らみ、体の輪郭が少しずつ大きくなる。

「体を大きくしているんですか?」

「正確には、影で形を補っている」

「形?」

「人の形だ」

 その言葉に、私は少しだけ息を止めた。人の形。それはきっと、クロさんにとってただの実験ではない。皐月さんだったかもしれない自分。大悪魔としての自分。そして今、私の影にいる黒狼のクロ。その全部を確かめるための実験なのかもしれなかった。


 それから、1時間ほど経った。クロさんはずっと影を動かしていた。膨らませたり、縮めたり、腕のような形を作ったり、また崩したり。見ているだけの私は、だんだん眠くなってきた。ここは4層。出てくる魔物はスライムが中心で、たまに弱いゴブリンが出るくらい。それに、低ランクモンスターに効く魔物避けのお香も焚いている。一応、安全。たぶん、安全。クロさんもいるし。そう思ったら、まぶたが重くなってきた。

「少しだけ……」

 そう思ったところで、私は眠りに落ちた。


「サクラ……サクラ」

 声が聞こえた。私はゆっくり目を開けた。目の前に、男の人がいた。

「……へ?」

 寝ぼけた頭では、最初、それ以上のことが考えられなかった。背が高い。体つきがいい。顔も整っている。でも、何かがおかしい。頭に、角がある。耳は少し尖っている。背中には、黒い翼がある。1枚じゃない。2枚でもない。左右に3枚ずつ。合わせて6枚。人じゃない。そう気づいた瞬間、体が固まった。モンスター?叫びそうになった私の口を、大きな手が押さえた。

「しー」

 その直後、念通話が飛んできた。

「私だ、サクラ。目の前にいるのは私だ。黒狼のクロだ」

 私は、目をぱちくりさせた。

「…クロ?」

「そうだ。落ち着いたか?」

「う、うん……たぶん」


 口から手が離れて、私は改めて目の前のクロさんを見た。身長は、180cm後半くらいだろうか。私よりずっと大きい。肌は、影で作ったせいなのか、全体的に少し暗い色をしていた。髪も、瞳も、夜を固めたみたいに黒い。でも、その黒い瞳の奥には、赤とも金ともつかない不思議な光があった。頭からは、太い角が伸びている。羊の角みたいに巻いているのに、可愛い感じは少しもない。黒く、硬く、何重にもねじれたその角は、見ているだけで胸がざわつくほど禍々しかった。耳は少し尖っていて、背中からは大きな黒い翼が生えている。左右に3枚ずつ。合わせて6枚。その翼は羽というより、影そのものを形にしたみたいだった。少し動くたびに、周囲の光が吸い込まれていくように見える。怖い。でも、綺麗だった。人間じゃない。でも、目が離せなかった。そして、ものすごくかっこよかった。かっこよかったのだけど――。


 ものすごくかっこよかったのだけど。裸だった。いや、体つきはすごい。肩幅もあるし、腕も胸も、しっかり鍛えられているみたいに見える。普通なら、見惚れてもおかしくない。でも、今のクロさんは、大事なところを片手で隠して立っていた。せっかく角も翼もあって、ものすごく強そうなのに。そのポーズだけが、ものすごくかっこよくない。

「…なんで裸なの?」

 私は、寝起きの頭で一番大事なことを聞いた。


「すまない。自分の姿を再現するところまでは、なんとかなった」

 クロさんは、少し気まずそうに言った。

「だが、服まで影で作ろうとしたら、急にお前への負担が増えた。眠っていたお前が苦しそうにしたから、やめた」

「私が?」

「ああ。だから、とりあえずこの姿だけ見てもらおうと思った」

 それを聞くと、怒れなかった。裸なのは困る。ものすごく困る。でも、私に負担をかけないようにしてくれたのなら、責められない。

「じゃあ、とりあえず私のコート……」

 私は自分の上着を見た。そして、クロさんの背中の6枚の翼を見た。

「……羽があって無理か」

「そうだな」

「う〜ん、どうしよう」

「とりあえず、黒狼に戻る」

 そう言って、クロさんの姿が影に崩れた。次の瞬間、いつもの黒狼がそこにいた。ちょっと残念。いや、かなり残念。かっこよかったな。


「そうだ」

 私は手を叩いた。

「帰りに服を買って帰ろう!」

「それは助かる」

 クロさんの返事は、いつもより少し早かった。よほど裸が困ったらしい。ダンジョンを出た私たちは、帰りにユニシロへ向かうことにした。日本で一番有名と言ってもいい、安くて丈夫なカジュアル服のチェーン店。私もかなりお世話になっている。とはいえ、問題はある。クロさんは、身長が高い。しかも角がある。翼もある。普通の服でどうにかなるのかは分からない。でも、まずは買ってみるしかない。大きめのパーカー。ゆったりしたパンツ。下着。サンダル。

「……なんか、急に同居人の服を買いに来たみたい」

 私は小さく笑った。影の中から、クロさんがぼそりと言う。

「同居人ではない。契約者と契約獣だ」

「はいはい」

 でも、少しだけ楽しかった。昨日までの重たい気持ちが、ほんの少しだけ軽くなった気がした。

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださった方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

面白い、続きが気になる!と思ってくださったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると、3章執筆の凄まじいエネルギーになります!


実はX(Twitter)にて、サクラや大悪魔の【AI生成イラスト】や、作品の世界観をイメージした【オリジナルAI音楽】、執筆の裏話などを投稿しています!

ぜひ、お気軽に覗いてみてくださいね!

【https://x.com/WaiWair99】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ