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4. 契約者の願いは、王国の滅亡だった

とりあえず、10話まで毎日3話投稿します!

2日目、1話目の投稿、次は本日12時です

 命と体。悪魔にとって、それはかなり魅力的な対価だった。特に体はありがたい。悪魔は基本的に、人間界では不完全な存在だ。受肉しなければ、本来の力を十分に出せない。霊体のまま現れれば、力は半分以下まで落ちることもある。だからこそ、人間の体は器として価値がある。


 だが、問題もある。目の前の女は、すでに死にかけていた。命を差し出すと言われても、その命があと数分で尽きるものなら価値は落ちる。体も同じだ。器として使うには便利だが、あちこち壊れている。悪くはない。だが、最高とは言えない。

「それは魅力的な提案だが、お前の命はそう長くはなさそうだな。魅力が半減といったところだな。後はお前の願い次第だな。お前の命に釣り合うものか、私がやりたいこと次第だな。」


 俺はてっきり、誰か一人を殺してほしい程度の願いだと思っていた。自分を傷つけた男。家族を奪った貴族。そういう、分かりやすい復讐だと。だが、女の口から出た願いは、それよりずっと大きかった。

「私の全てを奪った国を滅ぼしてほしいの。全てを」


「承知した」

 そう告げた瞬間、契約は成立した。次の瞬間、俺は女の体の中にいた。いや、正確には“入り込んだ”というより、“混ざった”に近い。体の痛み。呼吸の苦しさ。血の熱さ。そして、マリーという女の記憶が、濁流のように流れ込んできた。


 彼女の記憶から、この世界のことも少し分かった。この星の名はヴァルメリア。そして、この星を創ったとされる神の名もヴァルメリア。普通なら「神話の話ね」で終わるところだが、この世界では違う。その神は、本当にいる。しかも、ただ祈られるだけの飾りではない。ほぼ全知全能に近い、反則みたいな存在だった。


 マリーはルクセリア王国の貴族だった。王族は、自分たちを神の血を引く一族だと称していた。もちろん、俺からすれば「はいはい、よくある権威づけね」と言いたくなる話だ。だが、その言葉はこの国では絶対だった。王に逆らうことは、神に逆らうこと。そう教え込まれた国で、マリーは全てを奪われた。


 燃える屋敷。引きずられる母。笑う兵士。玉座の上から見下ろす王族。そして、何度も何度も踏みにじられたマリーの祈り。俺はマリーの記憶を見たのではない。マリーの絶望を、俺のものとして味わった。記憶だけなら、まだよかった。だが、流れ込んできたのは映像だけではなかった。痛み。恐怖。屈辱。信じていたものに踏みにじられた絶望。そして、それでも最後まで消えなかった怒り。それらが、俺の中に入り込んできた。その瞬間、俺は理解した。これは契約だ。だが、仕事では済まない。


 結論から言えば、ルクセリア王国を滅ぼすのは簡単だった。王城の結界も、神の血を名乗る王族も、精鋭と呼ばれた騎士団も、俺にとっては大した障害ではなかった。千年だ。千年、悪魔の世界で生き延びた。その時間は、俺が思っていた以上に俺を化け物にしていた。俺って「強いんだな…」と再認識した。


 契約は果たした。マリーの願いも叶えた。だが、俺はそのまま悪魔の世界に戻る気にはなれなかった。せっかく手に入れた肉体だ。それに、千年ぶりの“生きた世界”は、悪魔の世界よりずっと騒がしかった。だから俺は、旅に出ることにした。


 ただ、問題もあった。女の体に、元男の悪魔が受肉したわけだ。言わなくても分かるだろう。とにかく、あらゆる感覚が違う。歩幅は思ったより狭い。重心も違う。髪は邪魔だし、服は面倒だし、何より胸が重い。こんなに肩が凝るものなのかと、妙なところで感心してしまった。そして、ヴァルメリアを楽しもう!そこで俺に何が待っているのか…

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