表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
39/118

39. ダンジョンの夜、若葉は黒狼を撫でた

いつも応援ありがとうございます!

当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


最新話までじっくりお楽しみください!


※一部間違いを修正しました

 ダンジョンに入ってから、すでに8時間が経っていた。途中で何度か休憩を取りながら進み、俺たちはようやく10層まで来ていた。このダンジョンは15層まで。残りは5層だ。初心者向けダンジョンというだけあって、ここまで出てきたモンスターは弱い。スライム、ゴブリン、そして今はオークが中心になってきた。サクラにはまだ少しきつい相手だろう。だが、美桜(みお)若葉(わかば)がいれば問題ない。美桜は当然として、若葉も一応は現役ハンターというだけあって動きがいい。受付の時の柔らかい雰囲気からは想像しづらいが、魔物への対応はかなり慣れていた。サクラは疲れていた。それでも、弱音を吐かずについてきている。まったく、妙なところで根性がある。


 今日はここで夜営することになった。10層の端にある広めの空間。魔物の通り道からも外れており、夜営にはちょうどいい場所らしい。美桜と若葉は手際よくテントを張り、簡易結界の道具を設置していく。サクラも手伝おうとしていたが、ほとんど指示されたものを渡す係になっていた。その姿は少しだけ不器用で、少しだけ可愛い。食事の準備も早かった。マジックポーチというものは便利だ。中の時間経過を遅らせるものもあるらしく、温かい食べ物まで取り出せる。ダンジョン攻略において、温かい食事はかなり重要だ。体力だけでなく、精神も回復する。そして俺の前には、いつものドッグフードが置かれた。だから犬じゃない。いや、今の体は黒狼だが、それとこれとは別だ。


 食事が終わると、美桜が夜番について話し始めた。

「今日はここで夜営するよ。夜番は私と若葉でやるから、サクラちゃんは寝てて」

「えっ! そんなの申し訳ないです!」

 サクラが慌てて首を振る。

「いやいや、こっちは無理に付き合ってもらってるんだよ。サクラちゃんは招待客みたいなものなんだから、無理はさせられない」

 美桜は軽い口調で言った。若葉も柔らかく微笑む。

「そうですよ、サクラさん。ここは私とお姉ちゃんに任せてください」

「え〜…じゃあ、うちのクロも一緒に夜番お願いします!」

 そこで俺に振るのか。若葉が少し心配そうに俺を見る。

「クロちゃん、疲れませんか?」

「クロ、大丈夫?」

 サクラに聞かれたので、俺は頷いた。大丈夫だよな。たぶん。

「移動中、影の中で寝てれば大丈夫だよ!」

 サクラは明るく言った。なるほど。それなら確かに大丈夫かもしれん。だが、その時の俺は知らなかった。夜番そのものより、もっと面倒なものが待っていることを。


 サクラが眠り、美桜も休みに入った。最初の夜番は若葉と俺だった。ダンジョンの夜は妙に静かだ。遠くで魔物の鳴き声のようなものが聞こえるが、こちらへ近づいてくる気配はない。俺は周囲の影を探りながら、見張りを続けていた。その時、背後に気配を感じた。敵か。そう思って振り返るより早く、柔らかい腕が俺の体に回った。

「可愛い〜。モフモフだ〜」

 若葉だった。敵ではなかった。敵ではなかったが、ある意味、敵より厄介だった。


 若葉は、いつもの受付で見せる落ち着いた雰囲気とはまるで違っていた。

「すごい…毛並みがふわふわです。クロちゃん、本当に綺麗ですね」

 頭を撫でられる。首のあたりを撫でられる。耳の後ろまで触られる。やめろ。そこは少しくすぐったい。俺は見張りはどうした、という意味を込めて小さく唸った。

「グルル……」

 すると若葉の目が輝いた。

「うわ〜、威嚇まで可愛いです!」

 逆効果だった。そこから先は、もはや見張りではなかった。若葉は周囲への警戒をしながらも、片手ではずっと俺を撫でている。しかも妙に手つきがうまい。犬や猫の喜ぶ場所を知り尽くしている手つきだ。俺は犬ではない。猫でもない。大悪魔だ。だが、その大悪魔は今、元受付嬢にモフモフされていた。


 夜番の交代時間になり、美桜が起きてきた。美桜は若葉を見て、それから俺を見た。

「若葉、どうした? なんだかスッキリしてるな」

 その通りだ。若葉は妙に満足そうな顔をしていた。そして俺は、なぜか戦闘後のように疲れていた。

「それに、クロはなぜかクタクタだな。何があった?」

「べ、別に何もありませんよ!」

 若葉は分かりやすく目をそらした。いや、あった。ものすごくあった。俺は美桜に向かって、若葉にモフモフされ続けたことを訴えた。だが、口から出るのは低い鳴き声だけだ。

「……?」

 美桜は首を傾げた。くそ、伝わらん。


 交代してしばらくすると、若葉の寝息が聞こえてきた。ようやく静かになった。俺は周囲の影を探りながら、今度こそまともに見張りをしようとした。その時、また背後から嫌な気配がした。まさか。振り返るより早く、美桜の腕が俺の体を抱きしめた。今度はお前か。俺はぎょっとして、思わず体を動かした。だが、美桜は離れなかった。

「しばらく、こうさせてくれ……」

 その声を聞いて、俺は動きを止めた。若葉の時とは違う。美桜の声には、ふざけた響きがなかった。仕方ない。俺は小さく息を吐き、大人しくすることにした。


「私は、もう10年以上も人を探している」

 美桜は俺を抱きしめたまま、ぽつりと話し始めた。

「分かるんだ。生きてるって。あいつは、そう簡単に死ぬやつじゃないって」

 俺は何も言えなかった。言葉を返せば、念話になる。念話を使えば、正体に近づく。だから黙るしかない。

「こんなこと、誰にも言えないんだけどね」

 美桜は小さく笑った。その笑いは、寂しそうだった。

「あいつ、最後の日に言ったんだ」

 美桜の腕に、少しだけ力が入る。

「帰ってきたら、プロポーズさせてくれって」

 おい。これはまずい。たぶん、本人の前だぞ。いや、本人と言っていいのかは分からない。今の俺は黒狼の体に入った大悪魔で、記憶も曖昧で、あの頃の俺と同じとは言い切れない。だが、それでも。美桜が探している相手は、おそらく俺だ。

「だから、絶対に見つける。絶対に諦めない」

 美桜の声は震えていた。

 本当に、どこに行ってるんだよ……」

 逃げ出したい。だが、逃げられない。これ、もうカミングアウトできなくないか?


 その時だった。

「ギギッ!」

 近くの岩陰から、ゴブリンが顔を出した。おお。空気の読めないゴブリン参上。いつもなら面倒な相手だが、今だけは助かったと思った。これでこの妙な空気から逃れられる。そう思ったのだが。美桜は動かなかった。……美桜?美桜さん?なぜ反応しない。俺が少し不安になった瞬間、空気が重くなった。美桜から、尋常ではない威圧感が漏れ出した。


 美桜はゆっくりと顔を上げた。

「私のセンチな気分を害する奴は誰だ?」

 低い声だった。やばい。怒っている。俺は思わず体を固くした。そうだ。こいつ、キレるとやばい奴だった気がする。記憶は曖昧だが、体のどこかが覚えている。マジで怖い。ちびりそうだ。ゴブリンは、完全に出てくるタイミングを間違えた。次の瞬間、美桜の魔法が走った。ゴブリンは悲鳴を上げる暇もなく吹き飛ぶ。

「……怖っ」

 俺は思わずそう思った。その後も、なぜかたびたびゴブリンが現れた。そのたびに美桜が無言で処理していく。結果として、あの重すぎる話に戻ることはなかった。助かった。ゴブリンには少しだけ感謝している。


 そうして、夜は過ぎていった。サクラはぐっすり眠っている。若葉は満足そうに眠っている。美桜は何事もなかったような顔をしている。そして俺だけが、なぜかひどく疲れていた。朝になり、サクラが目を覚ます。

「クロ、大丈夫?」

 俺は頷いた。大丈夫だ。たぶん。ただ一つ分かったことがある。ダンジョンの夜で一番危険なのは、モンスターとは限らない。若葉のモフモフと、美桜の本音。今回の夜番で俺が相手にしたものは、どちらもなかなかの強敵だった。

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださった方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

面白い、続きが気になる!と思ってくださったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると、3章執筆の凄まじいエネルギーになります!


実はX(Twitter)にて、サクラや大悪魔の【AI生成イラスト】や、作品の世界観をイメージした【オリジナルAI音楽】、執筆の裏話などを投稿しています!

ぜひ、お気軽に覗いてみてくださいね!

【https://x.com/WaiWair99】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ