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31. 思い出した名前と、思い出せない顔

いつも応援ありがとうございます!

当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


最新話までじっくりお楽しみください!

 ハンターギルドでの面談を終え、俺たちはサクラの家へ戻った。仕事終わりにギルドへ行き、月華楼(げっかろう)の幹部と話し、大賢者や深層適性者の話までしたのだ。普通なら、かなり疲れているはずだ。実際、サクラは玄関に入った瞬間、「つかれたぁ」と声を漏らした。だが、その数分後にはテーブルの前に座り、買ってあったお菓子をポリポリ食べている。……案外、図太いな。俺は影の中でそう思った。


 だが、俺は笑えなかった。ギルドで美桜(みお)の昔話を聞いてから、ずっと胸の奥がざわついている。火龍。黒い階段。30階層。仲間を逃がすために、自分が囮になった男。黒い階段を降り、そのまま行方不明になった者。その話を聞いた時、俺は思った。それは、俺のことではないのか。そう考えると、美桜という名前にも覚えがある気がした。たしかに、そんなパーティーメンバーがいたような気がする。だが、顔までははっきりと思い出せない。


 若葉(わかば)についても同じだった。あの名前を聞いた時、俺の中で何かが揺れた。たぶん、妹だ。そんな妹が、俺にはいた気がする。だが、その顔が思い出せない。声も、仕草も、笑い方も、ぼんやりと霧の向こうにある。本当に、思い出せないものだな。俺は千年以上生きた。悪魔として、戦い、喰らい、学び、生き延びた。その間に、人間だった頃の記憶は少しずつ薄れていった。忘れたくて忘れたわけではない。それでも、忘れてしまった。それが、妙に悲しかった。


「サクラ…」

 俺は影の中から声をかけた。サクラはお菓子を食べる手を止め、首を傾げる。

「どうしたの、クロ? なんだか悲しそうね」

 クロじゃないんだがな。そう思ったが、口には出さなかった。契約者だからなのか、サクラには俺の感情が少し伝わるらしい。それは厄介でもあり、今は少しだけありがたくもあった。

「今日会った二人、どうだった?」

 俺は遠回りに尋ねた。


「あの二人、どうだった?」

「そうね…」

 サクラはお菓子を一つ口に入れた。

「キレイだったわ!」

 そこか。

「いや、他には?」

「良い人そうではあるけど、美桜さんはちょっとグイグイくる感じが苦手かも。別に嫌ってわけじゃないんだけどね」

 そこでまた、お菓子をポリポリ食べる。

「でも、キレイだったわ!」

 …案外、図太いんだな。そう思った瞬間、サクラがこちらを見た。

「あ〜、変なこと考えてるでしょ!」

 ばれた。契約というのは、なかなか面倒だ。


「サクラ」

 俺は改めて呼んだ。

「今日会った二人、美桜と若葉だが…」

 サクラの表情が少し真面目になる。

「たぶんだが、いや、そうだと思うんだが…美桜は俺の元パーティーメンバーだ」

「え?」

「そして、若葉は妹だ」

「えーっ!?」

 サクラは思わず立ち上がりかけた。

「でも若葉さん、美桜さんのことをお姉ちゃんって言ってなかった? あっちが姉妹でしょ?」

「うろ覚えだが、若葉は小さい頃から美桜をお姉ちゃんと呼んでいた気がする」

「どういう関係?」

「美桜と俺は、幼馴染だった…と思う」


 サクラはしばらく黙っていた。たぶん、頭の中で必死に整理しているのだろう。美桜が探している、10年前に黒い階段へ降りた仲間。火龍に追われ、仲間を逃がし、自分だけ行方不明になった人物。そして、俺が人間だった頃に死んだのも10年前。火龍から逃げ、黒い階段を降り、その先で何かに殺された。サクラは、ゆっくりと俺を見た。

「そっか…じゃあ、探しているのは、クロ?」

 その言葉に、俺はすぐには答えられなかった。クロではない。だが、今の俺はクロの体にいる。そして、おそらく美桜が探しているのは、人間だった頃の俺だ。


「たぶん、そうだ」

 俺はようやく答えた。

「だが、まだはっきりとは思い出せない。名前も、顔も、全部が曖昧だ」

「でも、可能性は高いんだよね?」

「ああ」

 サクラはしばらく考えた後、小さく頷いた。

「じゃあ、すぐに言うかどうかは別として、ちゃんと考えよう。美桜さんにとっても、若葉さんにとっても、大事なことだと思うから」

 その言葉に、俺は少しだけ黙った。美桜。若葉。俺が忘れてしまった者たち。だが、向こうはきっと、10年も忘れずに探していた。俺はもう人間ではない。俺は、悪魔だ。それでも、向き合わなければならないのかもしれない。千年を越えて、ようやく俺の過去が追いついてきた。

本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださった方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

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実はX(Twitter)にて、サクラや大悪魔の【AI生成イラスト】や、作品の世界観をイメージした【オリジナルAI音楽】、執筆の裏話などを投稿しています!

ぜひ、お気軽に覗いてみてくださいね!

【https://x.com/WaiWair99】

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