30. 美桜さん、その勧誘は私には荷が重すぎます
1日2話投稿、本日2話目です。
次回は明日の6時投稿予定。
この中で鍵を握るのは、サクラだろう。それは、俺にも分かった。大賢者と接触した。深層適性者という資格を持っている。黒い階段を通り、最下層まで落とされた。そして、迷宮核の前でヴァルメリアの名を聞いた。美桜が探している者の手がかりも、俺自身の死の謎も、どうやらサクラを中心に繋がり始めている。ただ、当の本人はと言えば、自分がそんな重要人物になっていることをまるで受け止めきれていない。まあ、無理もない。少し前まで、こいつはただの週末ハンターだったのだから。
美桜は少し考えた後、口を開いた。
「だって、深層適性者しか大賢者と話せないのではないかしら?」
その言葉に、若葉が顔を上げる。
「私だって、他のハンターだって、ダンジョンは攻略しているわ。迷宮核を見た者もいる。けれど、大賢者の“だ”の文字すら出てこなかった」
美桜は真っ直ぐサクラを見る。
「なら、その資格を持つ者だけが、大賢者に認識されるんじゃないかしら」
「確かに…それはそうですね」
若葉が静かに頷いた。俺も、その推測は悪くないと思った。大賢者は、誰にでも話しかけているわけではない。少なくとも、サクラには理由があって接触した。
「だから、サクラさん」
美桜の声が、少し真剣なものに変わった。
「うちのパーティーに入って、一緒にダンジョン攻略を手伝ってくれないかしら?」
サクラが固まった。目を丸くして、口を少し開けたまま動かない。まあ、そうなるだろう。月華楼所属、胡蝶蘭のリーダー。そんな相手から、いきなりパーティーに入れと言われたのだ。週末に浅層へ潜っていた程度のサクラには、明らかに荷が重い。
「えー、そんなの無理ですよ〜!」
サクラは慌てて両手を振った。
「だって私、まだレベル低いですし、ハンターとしても全然ひよっ子ですし、平日は仕事してますし…」
言い訳ではない。事実だ。サクラは強いハンターではない。戦闘経験も浅い。ましてや、月華楼の有名パーティーと肩を並べて高ランクダンジョンを攻略できるような実力はない。
「私、本格的にハンターやってるわけでもないので…」
サクラの声は、だんだん小さくなった。その反応は正しい。むしろ、ここで即答で乗る方が危ない。
だが、美桜は引かなかった。
「もちろん、あなたを前線に立たせるつもりはないわ」
「で、でも……」
「戦力として欲しいわけじゃない。大賢者と接触する可能性がある人として、同行してほしいの」
その言葉は、柔らかい。だが、目はまったく折れていなかった。俺には分かる。美桜は、ここで引く気がない。10年探してきた手がかりだ。それが目の前にいる。逃がすわけがない。若葉が少し困ったように口を挟む。
「姉さん、サクラさんにはお仕事もあるわ。無理に引き込むのはよくない」
「分かっているわ。だから条件を変える」
「うちのパーティーに正式加入しなくてもいいわ」
美桜はそう言った。
「浅い、簡単なダンジョンを攻略する時に、同行してもらうのはどう?」
「同行、ですか?」
「ええ。前線に出る必要はない。戦闘は私たちが担当する。あなたは安全な位置で待機して、大賢者や黒い階段、深層適性者に関係する反応がないか確認してくれればいい」
それなら、先ほどよりは現実的だった。少なくとも、サクラをいきなり高ランクダンジョンへ放り込む話ではない。俺としても、条件次第では悪くない。黒い階段の謎は、俺自身の死にも関わる。
「う〜ん…都合が、合えば……」
サクラはかなり弱々しくそう言った。断りきれていない。というより、押し切られた。
「本当!?」
美桜の顔がぱっと明るくなる。
「ありがとうございます、サクラさん」
「あ、でも! 平日は仕事がありますし、危ないところは無理ですし、ちゃんと事前に相談してもらって、それから…」
「もちろん。日程も難易度も、必ず相談するわ。危険な状況になったら即撤退。あなたを前線には出さない」
若葉が端末に条件を入力していく。
「では、正式加入ではなく、協力者としての同行。日程はサクラさんの都合優先。対象は低難度ダンジョンから、という形で記録します」
話が、どんどんまとまっていく。サクラは明らかに「しまった」という顔をしていた。
サクラは困った顔をしている。美桜は希望を見つけた顔をしている。若葉は淡々と手続きを進めている。三者三様だ。
そして俺は、影の中で小さく息を吐いた。面倒なことになった。だが、悪い話ではない。黒い階段。大賢者。深層適性者。ヴァルメリア。そして、俺自身の死。それらに近づくには、ダンジョンを攻略するしかない。その鍵を握るのがサクラなら、俺はこいつを守りながら進むだけだ。週末ハンターだったサクラの日常は、また少しだけ非日常に傾いた。
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