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29. 大賢者、ヴァルメリア、そして深層適性者

1日2話投稿、本日1話目です。

次回は本日18時投稿予定。

「大賢者とはなんだ?」

 美桜(みお)がサクラに尋ねた。その声には、先ほどまでの落胆はない。むしろ、ようやく見つけた細い糸を逃すまいとしているようだった。若葉(わかば)もすぐに端末を開き、記録する体勢に入る。大賢者。迷宮核の前で現れた、あの声。ヴァルメリアの大賢者と名乗った存在。俺にとっても、正体不明のまま放置するには気持ちの悪い相手だった。


「えっと、迷宮核を取ろうとした時に、大賢者という方が脳内に話しかけてきたんです!」

 サクラは一生懸命説明しようとしている。

「たしか、ヴァルなんとかっていう…」

「ヴァルメリアだ」

 俺は念通話で短く補足した。

「そう! ヴァルメリア!」

 サクラはぱっと顔を上げる。

「その星の大賢者と呼ばれる方です。ご存知ですか?」

 美桜は眉を寄せた。

「ヴァルメリア? 大賢者? なんだそれは?」

 彼女は若葉へ視線を向ける。だが、若葉も首を横に振った。どうやら、月華楼(げっかろう)の幹部もギルドの専属担当も、その名を知らないらしい。


「大賢者という方が言うには、深層適性者という資格持ちが関係するみたいです」

「深層適性者?」

 美桜の声がわずかに鋭くなる。

「はい。えっと…ダンジョンに、なんだっけ…適応する体質で…」

 サクラが言葉を探す。

「ダンジョンの魔素に適応する体質だ」

 俺は念通話で補足した。

「そう、それです!」

 サクラは少し恥ずかしそうに頷いた。

「深層適性者は、ダンジョンから認識されやすいらしいです。罠とか、モンスターとか、転移異常とかに好かれるというか…最下層に引き寄せられたりするって」

 その説明を聞きながら、俺は美桜の顔を見ていた。美桜の仲間。サクラ。そして、俺が人間だった頃の死。条件が、少しずつ重なっていく。


「その資格がある人を、ダンジョンが最下層に呼んでいるみたいです」

 サクラはそう言った後、少し困ったように眉を下げた。

「でも、理由はまだ言えないって言われました」

「理由は、言えない…」

 美桜が小さく繰り返す。

「あと、ヴァルメリアと地球のダンジョンは関係しているとも言っていました。だから、もしかしたら、ダンジョンがどこかで繋がっているのかも…」

 部屋が静かになった。情報は増えた。だが、肝心な部分はまだ見えない。大賢者。深層適性者。ヴァルメリア。地球のダンジョン。どれも重要そうなのに、どれも答えには届かない。


 若葉が端末に入力しながら、ゆっくりと確認する。

「つまり、サクラさんが言うには、迷宮核を取ろうとした時、ヴァルメリアという星の大賢者を名乗る存在が声をかけてきた」

「はい」

「その大賢者が言うには、深層適性者という体質、あるいは資格を持つ者を、ダンジョンが下層へ引き寄せている」

「はい」

「理由は不明。ただし、ヴァルメリアと地球のダンジョンには関係がある」

「そんな感じです」

 若葉はそこで顔を上げた。

「サクラさん自身も、深層適性者だったのですね?」

 サクラは少し迷ってから頷いた。

「はい。気がついたら、読めない文字がステータスにあって…大賢者に聞いたら、それが深層適性者だって教えてくれました」


「じゃあ、黒い階段で最下層に行く。その先で、もしかしたらヴァルメリアに行った可能性もあるのね」

 美桜の声に、はっきりと希望が混ざった。

「やったね、若葉! まだ希望があるわ!」

 だが、若葉はすぐには頷かなかった。

「そうね、姉さん。でも、あのダンジョンは閉じ始めているわ」

 その一言で、美桜の表情が止まる。

「迷宮核を取り出した以上、同じ場所にもう一度行ける保証はない。黒い階段も、任意で出せるものではないでしょう」

 現実的な指摘だった。希望はある。だが、道は閉じかけている。


 美桜はしばらく黙った。だが、落胆して終わるつもりはないらしい。

「なら、他のダンジョンを攻略するしかないわね」

「姉さん」

「迷宮核に近づけば、大賢者ともう一度接触できるかもしれない。黒い階段の条件も分かるかもしれない」

 美桜の目に、再び力が戻る。

「そして、その鍵を握るのは…」

 若葉も同じ結論にたどり着いたようだった。2人の視線が、同時にサクラへ向く。

「「サクラさんね」」

 声が重なった。

「私?」

 サクラは、自分を指さして目を丸くした。


 サクラは本気で驚いている。無理もない。こいつは少し前まで、土日だけ浅層に潜る週末ハンターだった。それが今では、月華楼の幹部とギルド職員から、黒い階段と大賢者に繋がる鍵として見られている。本人の許容量を明らかに超えている。だが、俺にとっても他人事ではなかった。黒い階段。火龍。最下層。そして、俺自身の死。美桜の探している者がどこへ消えたのか。俺が何に殺されたのか。その答えは、同じ場所にあるのかもしれない。面倒なことになった。だが、調べる価値はある。


本編をお読みいただきありがとうございました!


一気読みしてくださった方も、毎日追ってくださっている方も、本当にありがとうございます!

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