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26. 俺を知らない彼女たちは、なぜか懐かしかった

1日2話投稿、本日2話目です。

次回は明日6時投稿です。

【サクラ視点】

 ハンターギルドに着いた時には、約束の20時が近づいていた。仕事終わりにそのまま来た私は、スーツ寄りの服装に通勤バッグ。周りにいる装備姿のハンターたちと比べると、少しだけ場違いに見える。

「今日20時に面談の予約をしているサクラです。取次をお願いします」

 受付の女性にそう伝えると、彼女はすぐに端末を確認し、奥へ連絡を入れてくれた。影の中では、クロが静かに周囲を探っている。

「緊張しているのか?」

「しますよ。月華楼(げっかろう)の幹部さんですよ?」

「私からすれば人間の組織の幹部など、さほど変わらん」

「そういうところ、ちょっと羨ましいです」


 しばらくすると、奥から1人の女性が現れた。年齢は私より少し上くらいだろうか。落ち着いた雰囲気で、笑顔が柔らかい。受付職員というより、秘書とか、きちんとした会社の広報担当みたいな空気がある。

「今回、担当をさせていただきます若葉(わかば)と申します。そして……」

「キレイ……」

 気づいた時には、声に出ていた。若葉さんは一瞬だけ目を丸くしたあと、にこりと笑った。

「ありがとうございます」

「あっ、す、すみません! 心の声が!」

 影の中から、クロが小さくため息をつく。

「お前は緊張すると、わりと口が軽くなるな」


「若葉、よかったじゃない。初対面で褒めてもらえて」

 そう言って、若葉さんの後ろからもう1人の女性が現れた。若葉さんより少し年上に見える。服装は、いかにも魔法使いという雰囲気だった。けれど、ただ派手なだけではない。立っているだけで、場の空気が少し変わる。綺麗…。でも、それ以上にかっこいい。

「お姉ちゃんったら。あ、すみません、内輪ネタを」

 若葉さんが少し慌てたように笑う。

「ご紹介が遅れました。今回、サクラさんに会いたいと申し出た、月華楼(げっかろう)所属、胡蝶蘭(こちょうらん)のリーダーである美桜(みお)さんです」

「キレイかっこいい…」

 また口から出た。若葉さんと美桜さんは、同時に小さく笑った。


【クロ視点】

 サクラは2人を見て、完全に目を奪われていた。だが、俺は別の意味で目を離せなかった。懐かしい…そう思った。だが、理由が分からない。若葉という名前。美桜という名前。2人の声。表情。仕草。どれかが、俺の中の古い記憶に触れている気がする。だが、それが何なのかは掴めない。まるで、見たことのある夢を思い出そうとしているような、不思議な気持ち悪さだけが残った。


「は、初めまして! 私、サクラと申します。ハンター2年目で、まだまだヒヨッ子です!」

 サクラは慌てて頭を下げた。美桜は楽しそうに目を細める。

「こちらこそ。まずは席に座って」

 促されて、サクラは椅子に腰を下ろした。美桜も向かいに座り、若葉も隣に座る。そこで俺は少し疑問に思った。若葉はこの場に残るのか。今回の話は、美桜がサクラに個人的に確認したいことだと聞いている。なら、ギルド職員である若葉は席を外すのではないか。だが、最初に口を開いたのは、その若葉だった。


「今回、どんな形であれ、ダンジョンを攻略されたサクラさんには専属の担当が付きます」

 若葉は丁寧に説明を始めた。

「それが私です」

「せ、専属……」

 サクラは思わず背筋を伸ばした。専属。なんだか急に、自分がすごい人になってしまったようで落ち着かない様子だ。

「魔石の販売や通常の手続きは、どの受付でも問題ありません。ただし、今回のような内部秘密に関わる内容、攻略情報、迷宮核、その他の特別案件については、基本的に私が窓口になります」

 若葉は柔らかく微笑んだ。

「ご了承ください」

 これはただの担当者紹介ではない。サクラを守るためでもあり、ギルドが情報を管理するためでもあるのだろう。


 若葉の説明が終わると、美桜がゆっくりとこちらを見た。さっきまでの軽い笑みは消えている。月華楼の幹部。胡蝶蘭のリーダー。その肩書きが、急に現実味を帯びた。

「それで、サクラさん」

 美桜は静かに尋ねた。

「あなたは跳ばし鬼に飛ばされた後、どうやって最下層にまで行ったのですか?」

 その質問で、部屋の空気が少し重くなった。


【サクラ視点】

「ギルドにも報告しましたが、私は()ばし(おに)によって30階層付近に飛ばされました」

 私はゆっくり話し始めた。

「なぜそこが30階層だと分かったかというと、ちょうど他のハンターパーティーがいたからです」

 そこまで言って、私は少し息を止めた。あの男たちの顔を思い出したからだ。

「その人たちと揉めたというか…襲われかけて、逃げました。あ、ちゃんとギルドには報告しています!」

「はい。伺っています。現在、調査中です」

 若葉さんが静かに頷く。その声に少しだけ安心して、私は続けた。


「私は全力で走りました。でも、モンスターの方が速くて…攻撃されました」

 言葉にすると、あの瞬間が戻ってくる。大きな影。迫る衝撃。体が動かなかった私。そして、私を庇ってくれたクロ。

「その時、召喚獣だった黒狼が、私を助けてくれました。私は階段を転がるように落ちて、なんとか助かったんです」

 美桜さんは、少しだけ目を細めた。

「そうか。それはひどい目にあったな。その黒狼は無事だったのか?」

 その問いに、胸が痛んだ。

「いえ……クロは、亡くなりました」

 涙が浮かぶ。


【クロ視点】

 だが、影の中で俺は思った。その答えは、少しまずいな。美桜の視線が、ゆっくりと下がった。サクラの顔ではない。手元でもない。足元。サクラの影を見ていた。若葉の表情も、ほんの少しだけ硬くなる。部屋の空気が変わった。サクラが息を飲む。影の中で俺は、小さく笑ってしまった。

「やはり、気づいていたか」

 美桜さんは静かな声で言った。

「では、そこにいる黒狼は?」

 サクラは、何も答えられなかった…

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