25. 三大クランの幹部が、私に会いたいらしい
本日から1日2話投稿、本日1話目です。
次回は本日18時投稿です。
仕事中、机の端に置いていたスマホが震えた。画面に表示されたのは、ハンターギルドの番号。心臓が少し跳ねる。また迷宮核の件だろうか。それとも、男5人組の調査に進展があったのだろうか。でも、今は仕事中だ。目の前には修正依頼の資料があり、上司からの確認待ちも残っている。さすがに電話には出られない。スマホの振動が止まり、しばらくして留守電の通知が表示された。
休憩に入ってすぐ、私は留守電を再生した。
「サクラ様にお会いしたいという方がいらっしゃいます。一度、ご連絡ください」
それだけだった。余計に気になる。迷宮核のことなのか、ダンジョン攻略のことなのか、それとも別の何かなのか。私は昼休みの短い時間を使って、ハンターギルドへ折り返した。
「サクラです。先ほどお電話をいただいたみたいで……」
影の中のクロも、黙って耳を澄ませている気がした。
ギルド職員の声は、いつもより少し慎重だった。
「実は、サクラ様に面会を希望されている方がいます」
「私に、ですか?」
「はい。月華楼所属の幹部で、胡蝶蘭のリーダーを務めている美桜様です」
「月華楼……」
その名前を聞いた瞬間、私は思わず姿勢を正した。月華楼は、日本三大クランの一つだ。その幹部が、私みたいな駆け出しハンターに会いたがっている。普通に考えて、ただ事ではない。
ちなみにクランとは、ハンターたちが所属する攻略組織のことだ。個人でダンジョンに潜る人もいる。私みたいに、土日だけ浅層へ潜る週末ハンターもいる。けれど、高ランクダンジョンとなると話は別だ。仲間、情報、装備、資金、後方支援。それらが揃っていなければ、深い階層では生き残れない。だから多くのハンターはクランに所属し、組織としてダンジョン攻略を行う。その中でも、日本を支えていると言われるのが三大クランだ。
正統派で国家との繋がりも強い、日本最大級のクラン、天照院。荒くれ者が集まる武闘派で、実力主義の羅刹組。そして、女性ハンターが多く所属する華やかで実力派の月華楼。
その月華楼の幹部が、私に会いたいと言っている。
その後、折り返しの連絡はすぐに来た。ギルド職員いわく、美桜さんは今すぐにでも会いたいらしい。
「今すぐ…」
私は思わず時計を見た。昼休みはあと15分。午後からは打ち合わせがある。さらに、今日中に終わらせなければいけない仕事も残っている。いくら三大クランの幹部と言われても、会社を抜けるわけにはいかない。
「無理なものは無理だろう」影の中からクロの声がした。
「そうなんだけど、相手が相手だから…」
結局、私は今日会うことは断った。さすがに、当日の仕事中に急に呼び出されても動けない。
「土日か、仕事終わりなら大丈夫です」
そう伝えると、少しの相談の後、明日の20時に会うことになった。場所はハンターギルド。ギルド職員も同席し、話の内容は外部に漏らさない。そこまで確認して、ようやく電話を切った。
翌日。私は朝から全力で仕事を片付けた。今日の20時には、ハンターギルドで美桜さんと会う約束がある。だから、できれば定時で帰りたかった。けれど、そういう日に限って仕事は増える。急ぎの確認。追加の修正。お客さんからの返信待ち。結局、会社を出られたのは定時より1時間遅れだった。
「また削られているな」影の中からクロが言う。
「今日はまだマシです。1時間で済みました」
「その感覚がすでに危険だと思うが」
たしかに否定はできなかった。
私は急いでバス停へ向かった。ハンターギルドまでは、職場からバスで20分ほど。ただし、家とは真逆の方向だ。つまり、ギルドで話が終わった後、家に帰るにはさらに40分ほどかかる。
「地味に疲れるなぁ…」
思わずぼやくと、クロが影の中から言った。
「大悪魔とS級ダンジョンを攻略した者の発言とは思えないな」
「大悪魔とS級ダンジョンより、平日の移動の方が地味にしんどい時もあるんです」
「人間は不思議だ」
バスの窓に、夜の街が流れていく。私はスマホで時間を確認しながら、胸の奥のざわつきを抑えた。
ギルドに着く頃には、約束の時間まであと少しだった。受付で名前を伝えると、すぐに個室へ案内される。
「美桜様はすでにお待ちです」
その言葉に、私は思わず背筋を伸ばした。影の中のクロも、なぜか静かだった。扉の前で、私は一度だけ深呼吸をした…
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