21. 【番外編】助けの声は、罠だった
番外編3本、2話目です。
次は明日の6時に投稿します。
【番外編】
迷宮核の件が一段落したあと、サクラはギルドで別件の報告をする。報告する内容は主に三つ。
1つ目は、跳ばし鬼により30階層付近へ転移させられたこと。
2つ目は、そこで男5人組のパーティーと遭遇したこと。
3つ目は、その男たちが「助ける」と言いながら、実際にはサクラを襲い、物品を奪おうとしていたこと。
旭は真剣な表情で聞く。
「ゆっくりで大丈夫です。順番に話してください」
サクラは言葉を選びながら話す。
「最初は、本当に助けてくれると思いました。でも、途中で……様子がおかしいと気づいて。視線が、私じゃなくて、装備やポーチばかり見ていて……」
サクラの指が震える。あの時の声。あの時の視線。助かったはずなのに、思い出すだけで体が固くなる。それでも、サクラは報告をやめない。
サクラは旭に言う。
「全部じゃないんですけど…途中から、録音しています」
旭の目が少し変わる。
「録音ですか?」
「はい。怖くなって…スマホの録音ボタンを押して、岩に隠して少し離れたんです」
サクラはスマホを取り出す。指先はまだ震えている。サクラは戦えなかった。だが、何もできなかったわけではない。あの時のサクラにできた唯一の反撃が、録音ボタンを押すことだった。録音には、男たちの会話が一部残っている。
「あのポーチ、結構いいやつじゃねえか」
「助けたってことにすれば問題ないだろ」
「抵抗したら、モンスターにやられたことにすればいい」
「女はどうする?」
「先に荷物だ。面倒になる前に黙らせろ」
完全な証拠ではない。だが、十分に不穏だった。旭は録音を最後まで聞き、表情を硬くする。
「これは、正式に調査する必要があります」
サクラは少しだけ息を吐く。自分の話は、ただの思い込みではなかった。少なくとも、そう示せるものがある。
ギルドが調査を始めると、男5人組の情報が出てくる。彼らはそこそこ実力のある中堅パーティー。表向きは、「初心者や遭難者を助ける親切なパーティー」として知られていた。しかし裏では、以前から黒い噂があった。
・助けたはずのハンターが装備を失って帰ってきた
・女性ハンターが彼らと組んだ後、突然引退した
・ただし決定的な証拠がなく、処分できなかった
旭は苦い顔をする。
「やはり、あの連中ですか…」
サクラはそこで気づく。自分がたまたま狙われたのではない。彼らは以前から同じようなことをしていた可能性がある。サクラの報告と録音は、これまで表に出なかった被害を動かすきっかけになる。
「私が話したことで、他の人も助かるかもしれない」
サクラはそう思う。
しかし、話は簡単には進まない。男5人組はギルドに呼び出されるが、彼らはあっさり否定する。
「あの女が嘘をついている」
「俺たちは助けようとしただけだ」
「礼も言わずに逃げ出した」
「むしろ、こっちが迷惑をかけられた」
サクラは再び震える。助かったはずなのに。生きて帰ってきたはずなのに。またあの時の恐怖を思い出してしまう。サクラは心の中で思う。「結局、言っても無駄だったのかな…」
「嘘をついている者ほど、よく喋る」
俺は影の中から静かに言う。サクラは顔を上げる。俺は続ける。
「だが、お前が黙れば、あいつらの言葉だけが残るぞ」
サクラは息を吸う。怖い。でも、黙りたくない。
「私は、あの人たちの会話を聞きました」
サクラは震える声で続ける。
「私の装備をどう分けるか、話していました」
「私を助ける気なんて、最初からなかったんです。だから、怖くなって録音しました。全部じゃないですが…。でも、嘘じゃありません」
男たちは笑う。
「だから、それが本物って証拠は?」
その瞬間、ギルド職員が追加報告を持ってくる。実は、サクラの報告を受けたギルドは、すでに録音の簡易解析と、過去の被害届の再調査を進めていた。すると、複数の証言が一致した。
・男たちは毎回「救助」を名目に近づいている
・盗まれた装備の一部が、彼らの取引記録に残っている
・録音に残っていた声紋が、男たちの登録音声と高い一致を示した
ここで一気に空気が変わる。男たちの顔色が変わる。さらに、決定打として、跳ばし鬼の出現記録と男たちの活動階層が重なる。ギルドは判断する。
男5人組は拘束された。ギルド職員はサクラに頭を下げる。
「報告してくれてありがとう。録音を残してくれていたことで、調査を大きく進められました。あなたの証言がなければ、まだ彼らを止められなかったかもしれません」
「私が声を上げたことには、意味があったんだ」
男5人組はギルド資格の剥奪、拘束、調査へ進む。ただし、サクラは完全に晴れやかな気持ちにはならない。当然、怖かった記憶は消えない。夜になると、あの時の声や視線を思い出す。「助ける」と言われたのに、裏切られた恐怖も残っている。スマホの録音ボタンを押す指が震えていたことも、まだ体が覚えている。でも、以前とは違う。サクラはもう、黙って怯えるだけではない。
「人間とは面倒だな。弱者を食い物にする者がいる一方で、弱者を守ろうとする者もいる」
サクラは答える。
「だから、全部が嫌いになれないんだと思う」
俺は少し笑う。
「甘いな」
サクラも少しだけ笑う。
「うん。でも、私はそれでいい」
そしてサクラは続ける。
「あの日、30階層で私は逃げた。それは情けないことじゃない。逃げたから、生きている。生きているから、声を上げられた。声を上げたから、誰かを救えた。」
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