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20. 【番外編】サクラは、仲間に半分だけ嘘をついた

番外編3本、1話目です。

次は18時に更新します!

【サクラ視点】

 ギルドでの話し合いが終わったあと、私はようやくスマホを確認した。画面には、通知が山ほど溜まっていた。メッセージ。不在着信。パーティーチャットの未読。その数を見ただけで、少しだけ胸が痛くなった。みんな、探してくれていたのだ。心配してくれていたのだ。私は深く息を吸い、パーティーメンバーに連絡を入れた。


「サクラ!? 無事なのか!?」

 通話が繋がった瞬間、リーダーの声が飛び込んできた。その後ろで、他のメンバーの声も重なる。

「どこにいたの?」「怪我は?」「今どこ?」

 一気に浴びせられる声に、私は思わず目を伏せた。心配してくれる声は、ダンジョンの暗闇のあとでは、少し眩しかった。


 けれど、私は全部を話せなかった。クロのこと。クロの体に、名もない大悪魔が受肉したこと。S級ダンジョンの迷宮核を持ち帰ったこと。自分が深層適性者と呼ばれる体質かもしれないこと。どれも、通話で簡単に話していい内容ではなかった。だから私は、半分だけ本当のことを言った。

「飛ばされた先で、別のパーティーに助けてもらって……なんとか地上に出られたの」


「それで……クロは?」

 その一言で、私の喉が詰まった。足元の影が、ほんの少し揺れる。そこには今も、クロの姿をした大悪魔がいる。念通話をすれば、いつでも声は届く。けれど、あの子はもう、以前のクロではない。私は唇を噛んだ。

「クロは……私を守って、亡くなった」

 通話の向こうが、静かになった。


「だから、しばらくパーティーを離れたい…」

 サクラは静かに言った。

「クロを召喚できないなら、今の私は戦力にならない。みんなに迷惑をかけるから」

「そんなことないだろ」

 すぐに誰かが言った。

「少し休めばいい。落ち着いたら戻ってくればいい」

 その言葉は優しかった。優しいからこそ、私には辛かった。本当の理由は言えない。戻れる保証もない。それでも、今の自分は前と同じサクラではなかった。


 パーティーを離れる。それは、学校を少し休むのとは違う。ダンジョン攻略は命がけだ。1人抜ければ、役割に穴が開く。穴が開いたまま潜れば、誰かが死ぬ。だから、パーティーは新しいメンバーを入れる。入れざるを得ない。そして新しい形でうまく回り始めれば、そこにサクラの戻る場所はなくなるかもしれない。私は、それを理解している分。


 それでも、私は決めた。今のまま戻れば、きっと仲間を巻き込む。クロのことも、大悪魔のことも、迷宮核のことも、深層適性者のことも、何ひとつ整理できていない。そんな状態でパーティーに戻るのは、仲間を危険に巻き込むことになる。だから離れる。逃げるためではない。守るために。


 通話が終わったあと、私はしばらくスマホを握ったまま動かなかった。

「良かったのか?」

 影の中から、クロが声をかけてきた。

「分からない…」

 私は正直に答えた。

「でも、今はこれでいいと思う…。みんなを巻き込みたくないし、私もまだ、自分がどうなったのか分かってないから」

 そう言って、私は自分の影を見下ろした。

「とりあえずは、クロと二人でやっていく」

「私の名前はクロではないのだが」

「今はクロでしょ」

私は少しだけ笑った。でも、たぶんその笑顔は、ちゃんと笑えていなかったと思う。無事に帰ってこられた。ダンジョンから生きて帰ってこられた。それだけなら、本当は喜んでいいはずだった。でも私は、もう元の場所には戻れなかった。クロはいなくなった。元のパーティーにも、すぐには戻れない。そして私の影には、クロの姿をした悪魔がいる。失ったものは多い。抱えきれないものも増えた。それでも、立ち止まるわけにはいかなかった。私は失ったものを抱えたまま、それでも新しい相棒の影と一緒に歩き出すことにした。

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