17. ヴァルメリアと地球のダンジョンは繋がっていた
1日3話投稿、本日2話目です。
次は本日18時投稿予定
俺が次の質問を投げようとした時、サクラが横から割り込んできた。
「ねぇねぇ、大賢者って何?」
その声は、警戒というより純粋な疑問だった。無理もない。地球かヴァルメリアか、深層適性者だの迷宮核だの、情報が一気に増えすぎている。まず相手が何者なのか。そこから知りたいのは当然だった。
「そうだね。大賢者とは、ヴァルメリアにいて、勇者と共にダンジョン攻略を頑張っていた者だよ。さきほど君からヴァルメリアの名称が出てきたけど知っていたのかな?」
俺は「うん」と頷いた。
ヴァルメリア。勇者。大賢者。その単語で、俺は旅の途中に聞いた噂を思い出した。大賢者が率いる勇者組。そして、“なんでも願いを叶えるダンジョン”を攻略したという、胡散臭い話。どうやら、あれはただの酒場の与太話ではなかったらしい。
「もしかして、ヴァルメリアと地球のダンジョンは関係があるのか?」
俺は核心に近い問いを投げた。ここは地球。だが、声の主はヴァルメリアの大賢者。その時点で、無関係なはずがない。大賢者は、あっさりと答えた。
「そうだよ。大いに関係があるよ」
サクラが息を呑む気配がした。俺も、内心では同じだった。
「なら、なぜ地球にダンジョンが現れた? ヴァルメリアの神が関わっているのか? 迷宮核が星の生命を吸う理由は何だ?」
聞きたいことは山ほどあった。だが、大賢者の返答は短かった。
「それ以上は、今はもう言えない」
今は。その言い方が引っかかった。言えないのではなく、今は言えない。つまり、いずれ話すつもりがあるのか。それとも、何か条件が足りないのか。
「そして、私の時間ももう終わりだよ」
大賢者の声が、少しだけ遠くなった。迷宮核の光が揺れる。まるで、そこに映っていた誰かの影が薄れていくようだった。
「待て。まだ聞きたいことがある」
「うん。またどこかのダンジョンで会おう」
その言葉を最後に、声は途切れた。そこには確かに、誰かがいた感覚があった。だが、もういない。
大賢者の気配が消えた後、俺たちはしばらく黙っていた。分かったことは多い。だが、分からないことはもっと増えた。深層適性者。ヴァルメリアと地球のダンジョンの関係。星の生命を吸う迷宮核。どれも、この場で考えて答えが出る話ではない。サクラと目が合った。
「……地上に出よう」
俺がそう言うと、サクラは小さく頷いた。
幸い、最下層から地上へ出る方法はある。迷宮核に触れ、外へ出たいと願えばいい。迷宮核の力が、攻略者を地上へ転移させる。人間だった頃、知識としては知っていた。だが実際に使ったことはない。そもそも、俺は人間時代に迷宮核まで辿り着いたことなどなかったのだから。
「これで100階層歩かなくて済むなら、ありがたいわね」
サクラが少しだけ笑った。
サクラは深く息を吸い、迷宮核に手を伸ばした。触れた瞬間、迷宮核が強く光る。
「うわっ……!」
眩しさにサクラが目を細める。俺も反射的に身構えた。だが、攻撃ではない。迷宮核はゆっくりと台座から離れ、サクラのマジックポーチへ吸い込まれていく。その直後だった。ゴゴゴゴゴッ、と低い音が響いた。
「ダンジョンが……揺れてる?」
サクラが不安そうに周囲を見回した。
「迷宮核を取ったからだ」
迷宮核は、ダンジョンの心臓のようなものだ。それを失ったダンジョンは、ゆっくりと閉じていく。ただし、一瞬で消えるわけではない。数日から数週間かけて、通路が崩れ、魔力が薄れ、最後には完全に消滅する。問題は、その間に何が起きるか分からないことだ。
「サクラ、外へ出たいと強く願え」
「うん」
サクラはマジックポーチを両手で押さえ、目を閉じた。ダンジョンはまだ震えている。大賢者の声はもう聞こえない。ベヒーモスが上の階層でどうなっているのかも分からない。ただ、これ以上ここにいる理由はなかった。地上へ。俺たちは、迷宮核にそう願った。
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