15. ベヒーモスから逃げた先に、ダンジョンの心臓があった
1日3話投稿、本日3話目です。
次回は明日6時投稿予定
「上の階層はベヒーモスだった。レベルから言って、最下層近くで間違いないだろう」
俺はそう判断した。レベル72の巨獣が、ただの通路番として配置されているとは考えにくい。あれはおそらくフロアボスだ。となると、俺たちはかなり深い場所にいる。いや、かなりどころではない。ほぼ最下層と見ていい。
「とりあえず、下の階層も見てみよう。今がどの階層かのヒントがあるかもしれない」
「うん……でも、下の階層はもっと強いモンスターがいるんじゃない?」
「そうだと思う」
俺があっさり認めると、サクラの顔が引きつった。
「認めるんだ……」
「嘘をついても仕方ない。ただ、自分たちの位置を知っておきたい」
俺には転移魔法がある。ただし、便利なようで使いどころが難しい魔法だ。
「ここがどこなのか」「どこへ飛ぶのか」その2つが分かっていなければ、転移はできない。
俺たちは階段を下りた。一段下りるごとに、空気が重くなる。石壁に染み込んだ魔力が、俺にさえ圧として感じられた。サクラは何も言わない。ただ、クロの背に触れる手に力が入っている。俺も魔力は使わない。使えない。だから、影狼の耳と鼻だけを頼りに進む。だが、不思議なことに、下からはモンスターの気配がしなかった。
階段を下りきった先には、広い空間があった。だが、そこにモンスターはいなかった。罠の気配もない。ただ、異様なほど静かだった。そして、空間の中央。巨大な魔石が、台座の上、宙に浮いていた。いや、魔石と呼ぶにはあまりにも大きい。周囲の魔力が、呼吸するようにその石へ吸い込まれ、また吐き出されているように見える。
「迷宮核だな」
俺がそう言うと、サクラが目を丸くした。
「え? ってことは、ここがダンジョン最下層ってこと?」
「そうだ。最下層だな」
「私、迷宮核なんて初めて見たわ……!」
「俺も直接見るのは初めてだ」
人間だった頃、テレビで見たこと気がする。ダンジョン攻略特番だの、迷宮核の回収映像だの、そういう番組でな。
迷宮核の大きさは、ざっと見ても1m以上。普通のダンジョンではまず見ないサイズだ。迷宮核が大きいほど、ダンジョンの規模も大きい。そして、上の階層にいたのがベヒーモス。
「そっか。あいつがフロアボスだったんだな」
「フロアボス?」
「迷宮核を守るための最後の番人みたいなものだ。となると、このダンジョンはかなり深い。100階層ぐらいある可能性がある」
サクラはしばらく迷宮核を見上げていたが、急にスマホを取り出した。
「撮るのか?」
「撮るでしょ! 迷宮核だよ? しかもこんな大きいの!」
カシャ、という軽い音が静かな空間に響く。おいおい、この状況で記念撮影か。そう思ったが、少しだけ安心もした。さっきまで死にかけていたサクラに、驚いたり喜んだりする余裕が戻ってきたのだ。どうやら俺の契約者は、死にかけた直後でも好奇心だけは死なないらしい。
しかし、改めて見るととんでもない代物だ。1mを超える迷宮核。おそらくS級ダンジョン級。売ればどうなる?個人で扱える金額では済まないだろう。国が動く。ギルドが動く。企業も研究機関も、喉から手が出るほど欲しがる。サクラは写真を撮ってテンションを上げているが、おそらく本当の価値までは分かっていない。持ち帰ったら、驚くぞ。たぶんな。
ただし、問題は山ほどある。まず、持てるのか。1mを超える迷宮核を、レベル6のサクラが抱えて歩けるわけがない。俺の影に入れるにしても、核が放つ魔力がどう作用するか分からない。さらに、迷宮核を外せばダンジョンが崩壊を始める可能性もある。宝を見つけた。だが、持ち帰れるとは限らない。実にダンジョンらしい話だ。
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