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113. 三人の知る名前が、一人の男につながった

いつも応援ありがとうございます!

当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


最新話までじっくりお楽しみください!

美桜(みお)視点】

真里(まり)ちゃん、一旦どこかで休憩がてら、話をまとめよう。時間は大丈夫か?」

 私がそう言うと、真里ちゃんは小さく頷いた。

「はい、大丈夫ですわ」

 道端で話すには、情報が多すぎた。クロバ。皐月。サクラちゃん。引っ越し。音信不通。どれも軽く流せる話ではない。私たちは近くのファミレスに入った。席に案内され、飲み物を注文する。目の前には真里ちゃん。隣には若葉(わかば)。二人とも、落ち着いているように見えて、目だけは真剣だった。もちろん、私も同じだ。皐月(さつき)に、近づいている。その感覚がある。だからこそ、焦ってはいけない。まずは情報を整理する。

「どこから話せばいいのか……」

 私は水を一口飲んでから、若葉を見た。

「まず、この子は若葉と言って、その写真に写っている人の妹だ」


「はぁ……」

 真里ちゃんは少し戸惑ったように若葉を見る。若葉は背筋を伸ばして、丁寧に頭を下げた。

「初めまして、若葉といいます。元ハンターで、今は引退してハンターギルドの受付をやっています」

「はじめまして、天羽(あもう)真里(まり)と申します」

 真里ちゃんも優雅に会釈する。

「存じております。天照院(あまてらすいん)の総長さんの妹さんよね。あなたも有名よ」

「ありがとうございますわ」

 真里ちゃんは微笑んだ。こういうところは、やはり天羽家の人間だと思う。所作が綺麗だ。ただ、その目には疑問が浮かんでいる。なぜ自分がここで、若葉という女性と向き合っているのか。当然だ。だから、私は続けた。

「でだ。この人は、十年前に行方不明になった若葉のお兄さんの皐月だ」


「皐月様……ですか?」

 真里ちゃんの眉が、わずかに寄る。

「真里ちゃんは、この人に会ったことがあるのか?」

「はい。何度も……」

「どこでだ?」

 私は少し前のめりになった。

「サクラさんのご自宅だったり、ダンジョンだったりで……」

 サクラちゃんの家。やはり、そこに繋がる。

「話したのか?」

「はい」

「どんなことを話した?」

「サクラさんの兄だとか、世間話を……」

「クロバと名乗ったのか?」

「そうですわ」

 真里ちゃんは少し考えるように視線を落とした。

「ただ、今思えば、咄嗟に名乗った感はありましたし……何か隠している感じは受けましたわね」

「そうか」

 私は息を吐いた。やはり、キーマンはサクラちゃんだ。クロバとして真里ちゃんの前に現れた。サクラちゃんの兄として説明された。そして今、そのサクラちゃんは引っ越して、連絡が取れない。


「そう言えば」

 若葉が真里ちゃんを見る。

「先ほど、サクラさんに連絡が取れなくなって見に来たって言ってましたね?」

「はい、そうなんですの」

 真里ちゃんは少し困ったようにスマホを見た。

「メッセージを送っても既読になりませんし、通話にも出られません。もう何日も続くので心配になって……」

「それで、どうだったんだ?」

 私が聞くと、真里ちゃんは首を横に振った。

「どうやら引っ越したようです。引っ越し先は分かりません」

「そうか……」

 サクラちゃんが引っ越した。しかも、真里ちゃんに知らせずに。

「私もサクラちゃんに連絡してみよう。若葉もお願い」

「私は、直接の連絡先を知らないの……」

「そうか。じゃあ私も電話を……」

 そこで、私は動きを止めた。電話番号を知らない。私も、サクラちゃんとはLIME(ライム)しか交換していなかった。

「あ……LIMEしか交換してないから、電話番号が分からない」

「私もそうでしたの……」

 真里ちゃんが小さく頷く。私はとりあえず、サクラちゃんへメッセージを送った。既読は、つかない。

「連絡が来ればいいが……」

 そう言ったものの、胸の中の不安は消えなかった。


「ところで」

 若葉が少し遠慮がちに聞いた。

「そのクロバを名乗った人は、どんな感じでしたか?」

 真里ちゃんは、ぱっと顔を明るくした。

「かっこよくて、告白してしまいましたの!」

「え!!」

 私と若葉の声が揃った。告白?誰に?皐月に?

「そ、そ、それで結果は……?」

 若葉が恐る恐る聞く。真里ちゃんは、すっと視線を逸らした。

「聞かないでくださいませ……」

「あ、はい」

「でも、まだ諦めてはいませんの!」

 その言葉に、私の中の何かが反応した。

「私は皐月のフィアンセだ!」

 真里ちゃんが、きらりと目を光らせる。

「え? そうですの? これはライバルですわね!」

「ライバル……?」

 若葉が小声で呟いた。

「フィアンセってライバルいるの? 圧倒的勝者じゃないの? お嬢様こえ〜……」

 私も少しだけ思った。だが、口には出さなかった。今は、それどころではない。いや、少しそれどころでもある。皐月のことだからだ。


「にしても」

 真里ちゃんは少し頬を膨らませた。

「クロバ様は、サクラさんの許可なく連絡もダメですし、会ってもくれませんの……」

「そうか」

 私はテーブルの上で指を組んだ。

「やはり、サクラちゃんか」

 クロバはサクラちゃんの近くにいる。サクラちゃんの許可がなければ会えない。そして、そのサクラちゃんは音信不通で引っ越している。

「二人を探さないと」

 私が言うと、若葉がすぐに頷いた。

「私はダンジョン履歴を探ってみます。どこのダンジョンに潜ったか、その近辺に引っ越した可能性もありますし」

「そうだな。私はマンションの管理人や隣人に聞いてみる」

「私は……何かありますか?」

 真里ちゃんが手を挙げる。

「真里ちゃんは、普段通り過ごしてくれて構わない。何か連絡が来たら教えてくれ。情報は皆で共有しよう」

「はい、承知しましたわ」


「LIMEでグループを作ろう」

 私が言うと、二人はすぐにスマホを出した。真里ちゃんが少し嬉しそうに画面を操作する。

「グループ名はどうしますの?」

「皐月捜索でいいんじゃない?」

 若葉が現実的な名前を出す。

「もう少し優雅な名前でもよろしいのでは?」

「優雅な捜索って何?」

 若葉が首を傾げる。私は少し笑いそうになったが、結局シンプルにした。グループ名は、皐月捜索。そのままだ。だが、それでいい。私たちが何のために集まったのか、忘れようがない。若葉が写真を共有する。真里ちゃんがクロバとして知っている情報を、話せる範囲で送る。私は、今日の聞き込み結果をまとめる。点だった情報が、少しずつ線になっていく。皐月に近づいている。その実感があった。


 ファミレスを出る頃には、外は少し暗くなっていた。でも、私の胸の中は妙に熱かった。

 皐月が、ぐっと近づいた。写真の中の男。監視カメラの映像。バス停の目撃情報。そして、真里ちゃんの証言。クロバ。サクラちゃんの兄として現れた男。その全部が、同じ人間を指している。もう少しだ。もう少しで会える。本当に、嬉しい。ただ、サクラちゃんの音信不通だけが引っかかっていた。彼女は何を知っているのか。なぜ引っ越したのか。なぜ連絡が取れないのか。分からない。でも、探す。皐月も、サクラちゃんも。きっと、二人は同じ場所にいる。私はそう確信していた。

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