11. 千年の地獄は、地球では十年だった
次の配信は本日18時頃です
サクラは腰のポーチから薄い板のようなものを取り出した。画面に光が灯る。スマホだ。その単語が、思ったより自然に頭に浮かんだ。千年以上使っていないはずなのに、人間だった頃の記憶は妙なところでしぶとい。俺は思わず、その小さな端末をじっと見てしまった。
スマホがある。日本語を話す人間がいる。となれば、ここが地球である可能性はかなり高い。もし本当に地球なら、千年ぶりの帰還だ。俺が死んだであろう2025年くらいから千年以上。三千年代に入った地球は、いったいどんな姿になっているのか。空飛ぶ車くらいはあるのだろうか。いや、さすがにダンジョン時代なら魔石式の都市くらいできていてもおかしくない。
ただ、気になることもあった。そのスマホは、俺が人間だった頃に見ていたものと大して変わらない。多少は薄いのかもしれない。画面も綺麗なのかもしれない。だが、千年後の端末としては、あまりにも見覚えがありすぎた。
「三千年代に入っても、スマホはあまり変わらないのだな」
俺がそう言うと、サクラはきょとんとした顔でこちらを見た。
「なに? 三千年代って?」
今度は俺が固まった。
「いや、信じられないだろうが……私は2025年くらいまで日本でハンターをしていた。そこで死んで、悪魔に転生した。それから千年以上生きて、別の世界で召喚されて……今に至る」
念通話だから意味は伝わる。だが、意味が伝わることと、理解できることは別らしい。サクラは、完全に「何を言ってるの?」という顔をしていた。
「ちょっと待って!」
サクラの声が念通話越しに鋭く響いた。
「今は2035年だよ!それに前は地球人?どういうこと??」
一瞬、意味が分からなかった。2035年。3035年ではない。2035年。俺が死んだのが2025年くらいだったか…うん2025年だ、たぶん合ってる、だから、たった10年後。
「……10年?」
俺は思わずそう返していた。
俺は2025年に死んだ。ハンター5年目……だったはずだ。そこから悪魔に転生し、千年以上を生きた。悪魔の世界で戦い、奪い、殺し、生き延びた。マリーに召喚され、ルクセリア王国を滅ぼし、ヴァルメリアを旅した。それらは全部、俺にとっては現実だ。夢でも幻でもない。なのに、地球では10年しか経っていない?
だが、同時に分かったこともある。スマホが大して変わっていない理由。サクラが日本語を話す理由。ダンジョンという言葉が通じる理由。ここが地球である可能性は、かなり高い。しかも、俺が死んでからたった10年後の地球だ。つまり、地上に出れば、俺が知っていた世界の続きを見ることができるかもしれない。
「それに、前は地球人だったの? ハンターだったの? どういうこと?」
サクラの疑問はもっともだった。俺だって、他人からそんな話をされたら頭がおかしいと思う。だが、残念ながら事実だ。そして、俺自身にも分かっていないことが多すぎる。千年以上の時間を生きた俺と、十年しか進んでいない地球。そのズレの意味を考えるには、まず地上に出るしかなかった。
「待って。悪魔で、元ハンターで、千年以上生きてて、でも十年前まで日本にいたってこと? 情報が渋滞してるんだけど……」
「そうだ、俺は元地球人だ」
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