10. その黒狼、レベル95の大悪魔でした
本日より2話(朝と夜)投稿になります。
のつもりだったのですが、あまり話が進んでないので、やはり3話投稿します。
次は本日12時頃です。
「クロ? 聞こえる?」
頭の中に響いたのは、サクラの声だ。俺は一瞬、身構えた力を抜いた。どうやら、クロとサクラの間にあった従魔契約が、俺にも引き継がれたらしい。念通話。そんなものを使うのは初めてだが、仕組み自体は何となく理解できた。
「あー、聞こえる」
試しに返してみると、思ったより自然に伝わった。口で話している感覚ではない。日本語でも、ヴァルメリア語でも、悪魔の言葉でもない。頭の中にある意味だけを、そのまま相手へ渡しているような感覚だ。なるほど。これなら、錆びついた日本語を無理やり引っ張り出さなくても済む。
それと同時に、クロの残したものも感じた。記憶と呼ぶには曖昧だ。感情と呼ぶには、少し温かすぎる。サクラの匂い。サクラの声。サクラに撫でられた時の安心感。そして、彼女を守りたいという強い衝動。どうやら俺は、ただクロの体に入っただけではないらしい。クロという存在の残滓と、ある程度同一化している。
「ねぇ、クロ。あなたのステータスを見てもいい?」
「私の名前はクロではないのだが、まあいいだろう」
そう返しながら、俺は少しだけ気を抜いていた。ステータスを見たところで、今さら隠すこともない。さっき自分で国を滅ぼしたとまで言ったのだ。だが、サクラが絶句するまで、そう時間はかからなかった。
サクラの顔から、血の気が引いていくのが分かった。いや、念通話越しでも分かるくらい、感情が揺れていた。
「え……? レベル、95?」「種族、大悪魔?」「悪魔王の契約? 支配者の威圧? 王座なき魔王?」
ひとつ読むたびに、サクラの声が小さくなっていく。
「私……間違ったことしちゃった?クロ、あなた何者なの?今さらなんだけど大丈夫?」
「はは、本当に今さらだな」
俺は思わず笑った。いや、狼の喉で笑ったらどうなるのかは知らないが、少なくとも気分は笑っていた。
「だから言っただろう。私は国を滅ぼし、数え切れない人間を殺めた存在だ」
サクラの感情が、びくりと跳ねた。
「ただし、今はお前との契約が結ばれている。さらにクロの体に受肉したことで、従魔契約まで重なっている。おそらく、私はお前の嫌がることはできない」
「サ・ク・ラ」
急に、サクラの声が少し強くなった。
「私の名前はサクラよ。お前じゃなくて、サクラって呼んで」
なるほど。さっきまで大悪魔だの魔王だので怯えていたくせに、そこは譲らないらしい。名前。俺にはもうないものを、彼女は当たり前のように大切にしていた。
『そうだ。クロも私のステータス見てもいいわよ』
『ああ、それなら初めて見た時に確認済みだ』
『……は?』
念通話越しに、空気が凍った。
『もー! エッチ! 勝手に見ないでよ! 私にもプライバシーがあるのよ!』
いや、待て。そういう意味で見たわけではない。どうやら俺の契約者は、思ったより肝が据わっていて、思ったよりうるさいらしい。サクラはおもむろに鞄からあるものを取り出した…
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