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104/141

104. 浮気疑惑だと思ったら、〇〇〇サプライズでした

いつも応援ありがとうございます!

当作品は、【毎日 朝06:00 / 夕方18:00】の1日2回、定時更新でお届けしております。


最新話までじっくりお楽しみください!

【サクラ視点】

 会社が終わって家に着くと、クロが尻尾を振っていた。しかも、かなりご機嫌だった。ぱたぱた、ではない。ふさふさと、明らかに浮かれている揺れ方だ。

「何がそんなに嬉しいの?」

 私が聞くと、クロは少しだけ胸を張った。

『色々とあってな♪』

 その声も、なんだか弾んでいる。魂糸共鳴のせいか、クロの感情がなんとなく伝わってくる。ピンク色。そんな感じだった。真里(まり)さんと会った時の、あの感じに少し似ている。

「真里さんにでも会ったの?」

 クロの尻尾が、ぴたりと止まった。

『マリーがどうした? 来るのか?』

「違うわよぉ」

 どうやら真里さん関連ではないらしい。じゃあ何?今日はダンジョンへ行くって言っていたはずだ。

「ダンジョンでレベルがたくさん上がった?」

『いや、全然』

「全然?」

『そもそもダンジョンに入らなかった』

「どうして?」

『ハンター証がないから』

「そうだったわね!」

 忘れていた。クロは大悪魔だけど、ハンター証は持っていない。

「今日は人型で行ったの?」

『おう。ちょっと遠出したくてな』

「バレたらどうするの?」

『だから、バレなさそうな遠くのダンジョンにしたんだ。結局、入れずに帰ってきたけどな』

「じゃあ、何がそんなに嬉しいのよ?」

『秘密だ♪』

 なんなの。その尻尾。


 なかなか白状しないクロに、私は少しだけ目を細めた。まあいいわ。とりあえず食事にしよう。その日は、なんとなくいつも通りに過ぎた。ご飯を食べて、少し片づけをして、クロと他愛のない話をする。ただ、クロはずっとご機嫌だった。翌日も、その次の日も。私の休みもあった。本当ならダンジョンへ行く日かもしれない。でも、今は少し、そういう気分ではなかった。藤堂さんのことが、まだ胸に残っている。深淵王だった。敵だった。それでも、会社の藤堂さんは優しい先輩だった。だから、土日はゆっくり休むことにした。家で過ごして、買い物に行って、少しだけ掃除をする。その間も、クロは上機嫌だった。尻尾が揺れる。なんとなく嬉しそう。理由は言わない。なぜか腹が立つ。なんて。


「そうだ、クロ。洗濯物は?」

『あ! どこやったっけ?』

 クロは慌てて、自分のベッドのあたりを探し始めた。しばらくして、人型の時に着ていた服を持ってくる。

「ちゃんと出してよぉ」

 私は洗濯機へ入れる前に、ポケットの中を確認した。そして、指先に紙が触れた。

「……これは」

 小さなメモ用紙。そこには、手書きで名前と番号が書かれていた。紗奈(さな)。010-123-456。私はゆっくりとクロを見る。クロの尻尾が止まった。

「これは……何?」

 私はメモをクロに突きつけた。

『うぉ! それは…』

「それは?」

『こないだダンジョンに行った時にもらったんだ…』

「な〜るほど〜」

 自分でも分かるくらい、声が低くなった。

「それでずっとご機嫌だったのね〜。ク〜ロ〜ちゃ〜ん」


『ご、ご、誤解だー』

「五階も六階もないわ!」

『それは誤解の話じゃない!』

「うきー!」

 私はクロに飛び乗った。そして、黒狼の口を左右に引っ張る。

「この浮気者〜!」

『痛い痛い痛い! やめてくれサクラ!』

「やだ!」

『浮気なんてしてない!』

「知らない!」

『泣くなサクラ!』

「やーだー、うわーん!」

 ドンドン!壁の向こうから音がした。

『おい、サクラ静かに! 隣の家からクレームだぞ!』

「絶対に許さない〜」

『分かった、ゴメン。ゴメンてば〜』

 しばらく私は、クロにしがみついたまま泣いた。自分でも、ちょっとやりすぎているのは分かっている。でも止まらなかった。クロが誰かから連絡先をもらっていた。ずっと上機嫌だった。その二つが頭の中で変な形に繋がって、もうどうしようもなかった。


 少し時間が経って、ようやく私は涙を拭いた。でも、許したわけではない。

「その人に電話かけて」

『かけてどうするんだ』

「もう会わない。忘れてくれって言って」

『いや、だから誤解なんだが』

「泣いちゃうよ。私、また泣いちゃうよ…」

『分かった。分かったから』

 クロは観念したように、人型になってメモの番号を押した。ピポパピポ。トゥルル。トゥルル。ガチャ。

『もしもし…』

 電話の向こうから、女性の声がした。クロが少し気まずそうに口を開く。

「あ〜、先日ダンジョンで会った…」

「ほら会ってるじゃない」

 私は小声で言いながら、さらにクロの首に腕を回した。

「ぐ、サクラ、ちょっと…」

「言って」

 クロは息を乱しながら続けた。

「はぁ、はぁ…すまない。俺には…結ばれている人がいる……だから…俺のことは忘れてくれ…」

 そこで電話は切れた。私はふんと鼻を鳴らす。

「今回はこれで許してあげるわ」

『だから浮気じゃないって〜』

「知らない。ふん」


 私はお風呂に入った。湯船に沈むと、少しだけ頭が冷えてくる。そこで、ふと思った。あれ?クロって、スマホ持ってないよね。うちには固定電話もない。じゃあ、どうやって連絡を取り合っていたの?メモに番号が書いてあった。それだけだ。電話をかけたのは、さっきが初めてかもしれない。つまり。もしかして。私、何か勘違いしてない?湯気の中で、急に血の気が引いた。さっき、私はクロの口を引っ張った。浮気者と言った。首も締めた。電話までさせた。かなり、ひどいことをした気がする。

「確かめなくちゃ…」

 私は慌ててお風呂から上がった。


 お風呂から上がると、部屋が変わっていた。ほんの少しだけ、飾りつけがされている。テーブルの上には、小さな箱。そして、クロがそこに座っていた。

『誕生日おめでとう!』

「へ?」

 一瞬、何を言われたのか分からなかった。それから、思い出す。

「そうだ…今日は私の誕生日だ」

 藤堂さんのこと。会社のこと。深淵王のこと。いろいろありすぎて、すっかり忘れていた。クロは少し照れたように、小さな箱を押し出した。

『これ、プレゼントだ』

 箱を開ける。中に入っていたのは、ヘアピンだった。黒地に、小さな桜の飾りがついている。

「クロ…これ……」

『こないだ、ダンジョンに入れなくて時間が余ってな』

 クロは少しだけ得意そうに言った。

『ぶらぶらしていたら、サクラにぴったりだと思って買ったんだ』

「どうして私の誕生日を?」

『ダンジョンから帰った日に掃除していたら、サクラの古い社員証があってな。誕生日が載っていた』

「社員証…」

『それが四日後だったから、サプライズで渡そうと思っていたんだ』

 クロの尻尾が、少しだけ揺れる。

『そんなことばかり考えていたから、なぜか上機嫌になっていたらしい』

 その瞬間、胸がぎゅっと痛くなった。嬉しい。でも、それ以上に申し訳なかった。


「……ごめん」

 ぽろっと涙がこぼれた。

「うわーん」

『泣くなサクラ。また怒られる!』

「うん…ごめんね。いっぱいひどいことしちゃったよ……」

『気にしてないよ』

 クロは、少しだけ尻尾を揺らした。

『逆に、そんなに俺のことを思ってくれて嬉しかった……かった?』

「うん?」

 私は涙を拭きながら、クロを見た。

「疑問系? なにそれ」

『いや、今の流れで正解が分からなくなった』

「ちょっとこっちに来て」

『待て。落ち着けサクラ』

 クロが後ずさる。私は立ち上がる。

「ちょっと待ちなさーい!」

 クロが逃げる。私が追う。部屋の中を、黒狼と私がぐるぐる回る。さっきまで泣いていたのに、今は少し笑っていた。ひどい勘違いをした。ひどいこともした。でも、クロはここにいる。私の誕生日を、私より先に覚えていてくれた。それが、どうしようもなく嬉しかった。

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