EP 6
賢者の兵站(PRO型)と究極のロジック
「……痛つつ。あのバーテンダー、マジで化け物じゃ……」
「……ああ。全身の骨がキシキシ鳴る。だが……」
月曜日の早朝。
昨夜、龍魔呂(DEATH4)という理不尽な災害に轢き逃げされた日米の両指揮官は、野営地のテントで身を起こした。キャルルの回復魔法で骨は繋がったが、精神的な疲労と極限の空腹は限界を超えていた。
「隊長。……昨夜、ニャングルのスト破りで半額で買ってきたアレ、ついに開ける時っすよ」
赤城が、うやうやしく「黒い箱」をテーブルに置いた。
同じ頃、東側の陣地でも、エリアスと義正が全く同じ箱を前に生唾を飲み込んでいた。
ポポロ村特製戦闘糧食・『PRO型(Popolo Restaurant Operation)』。
ルナミス帝国の魔導戦車の廃棄装甲板を、ダイヤがスキル【ウェポンズマスター】で打ち直した「絶対に壊れない漆黒の重箱」。その蓋には、リバロンの達筆な字で『御食事』と書かれた熨斗が巻かれている。
「ダイヤ特製・魔改造L-Standardヒーター、起動します!」
赤城が側面のスイッチを押す。
その瞬間、箱の底面に組み込まれた『火魔石』と『風魔石』のコンベクション(熱風循環)ヒーターが作動。わずか30秒で、魔法のように箱の内部が完璧な温度へと調整された。
パカッ。蓋を開けた瞬間、極上の出汁の香りが野営地に爆発した。
「おおおおっ……! これが、ポポロの恵み……!」
信長が震える手で箸を伸ばす。
メインディッシュは『ポポロ特製おでん』。月のように丸い『月見大根』が、庶民の味『太陽芋酒』の出汁を極限まで吸い込み、口に入れた瞬間にトロトロと溶けて消えた。さらに闘気で数日煮込まれた『ロックバイソンの牛すじ』の旨味が、全身の細胞を叩き起こす。
「美味えっ……美味すぎる!!」
「隊長、こっちの副菜もヤバいっす! この『サンライス(米麦草)』の塩むすび、冷めてるのに異常な甘みがあります!」
東側では、義正が副菜のサラダを口に運んでいた。
「……信じられん。あの引っこ抜くと『ギャー!』と騒ぐ『人参マンドラ』が、無音でシャキシャキのサラダになっている」
「宰相・リバロンが、一切の苦痛を与えない神速のナイフ捌きで処理したと書いてあるな」
エリアスが、付属の『ニャングルのお取り寄せカタログ』の裏面を読み上げる。
そして、義正がサラダに入っていたもう一つの野菜——『玉んねぎ』を口に入れた瞬間だった。
「……ッ!!」
義正の脳内に、宇宙の真理が広がるような凄まじい衝撃が走った。
普段は「たまんねーなオイ! ゲヘヘ!」とエロ本を読んでいる下品な野菜。だが、エロ本を抜いて収穫されると『虚無(賢者モード)』を迎え、食べた者の頭脳を異常なまでに冴え渡らせるのだ。
「……見える。市場の動きが、ロジックの最適解が……! 俺のIQが、今だけ一時的に300を突破している……!」
玉んねぎの賢者モード成分により、義正の瞳に超絶な理性の光が宿った。
デザートの『ネタキャベツチップス(最近の帝国軍の流行りの小ネタ囁き付き)』を楽しみ、付属の『月光薬の希釈エナジードリンク』を一気に飲み干す日米の精鋭たち。
致死量の疲労はポンッと消え去り、闘気が120%まで跳ね上がる。
さらに食後。リバロン謹製の『最高級紅茶アロマおしぼり』で戦場の汚れを拭き取った彼らは、完全無欠のコンディションを取り戻していた。
「……全軍、出撃(Roll out)。目標は第4セクター。……『ネギオ』の完全論破だ」
賢者モードの義正を先頭に、彼らは1日1回のGPS通知が示す「黄金の旗」のポイント——ネギ畑へと向かった。
◆ ◆ ◆
「ッラー! ワシに『ハニー』って呼んでんじゃねえ! ワシはおばちゃんじゃねえわい!」
「うわぁぁぁ! エロ本返してぇぇっ! ゲヘヘヘっ!!」
「ギャァァァァァァッ!!」
道中、女を口説こうとする『ハニーかぼちゃ』を信長が蹴り飛ばし、エロ本を求める『玉んねぎ』をエリアスがいなし、逃げ惑う『人参マンドラ』を無視して、一行はネギ畑の最深部へと到達した。
そこには、世界樹端末の突然変異体『ネギオ』が、鋼鉄をも切り裂く『ネギカリバー』を肩に担いで待ち構えていた。
『フッ……無知なる無毛の猿どもめ。何度来ようと、私を論理と知性で打ち負かさない限り、この光合成サンクチュアリは通さんぞ』
超毒舌キャラのネギオに対し、一歩前に出たのは、玉んねぎ効果で極限の『賢者モード』に入っている力武義正だった。
「ネギオ氏。本日はディベートではなく、『相互利益に基づく生態系保護の提案』に参りました」
義正は、魔導タブレットで完璧なスライドを展開する。
「現在、貴殿の管理する地下D-4地点に、質量50kgの金属塊(旗)が不法投棄されています。これは土壌の圧密化を引き起こし、根の成長を阻害する重大なバグです。我々はこれを無償で撤去し、土壌のエアレーションを実施します」
『……ふむ。金属汚染の排除か。ロジックとしては悪くないが、それだけでは通行の対価としては弱いな』
ネギオが鋭い視線を向ける。
「もちろん、対価は用意してあります」
義正の合図で、エリアスが静かに進み出た。
彼の手にあるのは、先ほどの『PRO型弁当』のアクセサリー・パックに入っていた『ポポロシガー(ハーフサイズ)』。ネギオ自身が栽培した最高級葉巻だ。
「貴殿の愛するポポロシガー。我々の吐き出す二酸化炭素(呼吸)は、貴殿ら植物の光合成を促進する『最高のギフト』です。……共に、極上の紫煙を共有しませんか?」
エリアスはZippoライターを鳴らし、信長が金色のオイルライターを鳴らす。
二つの炎が、ネギオの前に差し出された。
『…………!』
ネギオの目が、驚愕に見開かれた。
土壌改善という物理的メリットに加え、自身の嗜好品を用いた『二酸化炭素の提供』という、植物視点の究極の歩み寄り。
『……クックックッ、ハハハハハッ!』
ネギオは笑い出し、自らのネギカリバーをスッと引いた。
『見事だ、猿ども。人間中心主義を捨て、植物の摂理に寄り添うそのロジック……完全なる論破だ。よかろう、通行を許可する!』
「「「おっしゃァァァァッ!!」」」
日米の精鋭たちが、歓喜のガッツポーズを決める。
『素晴らしい知性を見せてくれた礼だ。貴様らと「友」になれた記念に、私の取っておきをプレゼントしよう』
ネギオはニヤリと笑うと、背中から怪しげな緑色の液体が入った注射器を取り出した。
『世界樹産・皇帝カンチョウ液だ。これを今から貴様らの尻から注入してやる。屈辱的だが、10年は風邪を引かんぞ! さぁ、尻を出せ!!』
「「「……は?」」」
感動的なロジックの勝利から一転、突きつけられた『絶対的屈辱』の危機。
「……隊長! 旗の回収終わりました!! ズラかりましょう!!」
泥だらけの黄金の旗を担いだ赤城が絶叫する。
「全軍、撤退ィィィッ!! 尻を守れェェッ!!」
「散開しろ! 陣地まで走れ!!」
ネギカリバーを振り回して追いかけてくるネギオから、猛ダッシュで逃げ惑う信長とエリアスたち。
世界の覇権を握るオーパーツ『世界樹の霊水』を手に入れるための戦いは、なぜか「異世界の突然変異ネギから尻を守るための大運動会」へと変貌していた。
——そして。
ネギ畑の領域を抜け出し、ポポロ村の緩衝地帯から外れた『純粋な戦場』へと足を踏み入れた瞬間。
ガキンッ!!
エリアスの放ったストライダーナイフが、信長の心臓を狙い。
それを信長が、夕日丸の鞘で紙一重で弾き返した。
玉んねぎの賢者モードが切れ、エナジードリンクの熱が冷める。
黄金の旗は、目の前にある。
「……道中の協力には感謝する、キャプテン・サカガミ。だが、霊水は我が国が持ち帰る」
「……譲るわけにはいかんのじゃ、大尉。我が祖国(日本)の未来のためにな」
PRO型の恩恵で全快した日米の最高戦力が、互いの譲れぬ『国家の密命』を胸に、最後の殺し合い(ラスト・バトル)の火蓋を切った。




