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玉滴石  作者: みつき


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第14話 解かれた封印

 ――その場にいた全員がナギを見つめていた。


 海都もスマホを出して、ライトで照らすと、天がうずくまっているのが見えた。

 

「天!」


「天くん、大丈夫か?」

 

 明玄住職が声をかけると、弱々しい声だが返事した。

 

「……だ、大丈夫です」

 

 和歌子は、蝋燭を付け直し、明玄住職は、予備の像を奥から持ってきた。今度は石でできている、石像だ。


「よし、続けよう」

 

 三人の住職は、念仏を唱え始めた。


「南無阿弥陀……南無阿弥陀……南無阿弥陀」 


 天は、肩をナギに掴まれながらも目をつぶり、念仏を唱えた。


 すると、大雨の夜の光景が広がる。目の前には大きな屋敷が現れた。


「ハァハァ……」


 天の中で意味もなく激しい憎しみが湧き上がっていた。

 (なんで怒ってるんだ?)


 天は屋敷の間取り、住んでいる人について熟知していた。 

 護衛なんていない。


 静かに屋敷に入ると、客間から飾ってある日本刀を鞘から出した。

 

「イッヒッヒ、二刀流だ」


 左手にナタ、右手に日本刀を下げて寝室に向かう。

 

「まずは男共の寝首を掻かないと……」


 天は静かに寝室に入った。いびきをかきながら寝ている主人がいた。息を整えると、力を込めた。

 

 ザシュッ!


 声を発する前に死んだ。隣の女が目を覚ます。

 

「あ……やめて……」


 天はにじり寄った。

 息を整える。

 そのまま、腹に突き立てた。

 

 グサッ。


「うぐっ……」


 倒れる身体を眺めながら、言った。

 

「……かかあを殺したくせに」 


 下男が目の前に現れた。


「何してる!!」

 

「チッ」


 下女は後ろで女の赤子を抱いていた。


 天はありったけの力を込め、下男とぶつかった。あっちは丸腰。空いた右手で相手の腹を指す。崩れたところを振り下ろした。


 奥の部屋に入ると、部屋の隅っこで失禁している長男がいた。

「いつもの威勢はどうした?」


「……」

 

 何も言わず、ただ震えていた。


 天はそのまま振り下ろして、すぐに下女を探に行く。


「……どこ行った?」


 土間を探しても厠を探してもいない。


 あちこち探したが見つからなかった。雨も止み、空が明るくなってきた。


 踵を返すと、違う家を目指す。


 (ダメだ! そんな簡単に人を殺してはいけない)

 

 同様に二軒、男共から殺していく。

 抵抗する間もなく。

  

 体は血まみれで血が滴る。体にこびりついた血が体温で上がってきて匂ってくる。いつのまにか上から見下ろしていた。頭が重い。手で触ると、角が生えていた。 


 朝日が昇る。陽の光が体を包む。


 焼けるように熱い。耐えきれず、森の中に隠れた。 


 その晩も、日頃からいじめた奴を殺して回った。


 (なんでそんなに人を殺すんだ? 復讐は遂げているだろう?)


『俺は……人が罪もない人を苦しめているのが許せなくなったんだ……!』


 (だからって、人殺しをしたら、お前も同じなんじゃないのか?)


 天は、目を開けた。


 まだ、怒りとやるせなさの残滓(ざんし)が胸の奥で燻り、吐き気のように込み上げてくる。


 血の匂い、断末魔の叫び声、懇願する人間の弱さ、本当に体験したように天の脳裏で甦った。


「南無阿弥陀……」

  

 その瞬間、天は正座したまま倒れた。


「天くん!」

 

 天は意識が遠くなる。周りのざわめきも遠くなっていった。


 明玄住職が、天の体を調べる。息も脈もある。呼吸は浅かった。そっとシーツに包むと、みんなでベッドまで運んだ。


 熱もないし、外傷もない。


「先生に診てもらおう。いいですかね?」

 

 明玄住職が達也に聞いた。


「お願いします。……でも、救急車呼ばなくていいんですか?」

 

 達也と秋穂は心配そうにしている。

  

「いや、そこまで悪くない」


 明玄住職は、言い切った。


 

 ――しばらくすると、夜間往診の先生が来た。


 先生が天の隣に座り、胸を開いて心音を聞く。


「……身体的な異常は見当たりません。ただ……かなり消耗していますね。睡眠とって、栄養をつけさせてあげてください」


「わかりました。ありがとうございました」


 達也と秋穂は頭を下げて見送った。


 他のみんなは寝床に向かった。もう深夜三時だった。


「明日も仕事だから先に寝とくな」

「私がいるから大丈夫」

 

 秋穂が達也を見つめた。達也が秋穂の頭を撫でた。

 

「悪い……おやすみ」


 天の寝顔を見つめる。


 今は、鬼のことは考えない。怖くなるから。寝顔を見ているだけでホッとする。


 寝顔を見ていたが、だんだん頭が下がっていき、ベッドに頭を乗せた格好でいつしか寝ていた。


 ◇


 翌朝、秋穂は部屋の外のバダバタという足音で起きた。


 天を見ると目をぱっちりと開いていた。


「ああ、良かった……おはよう。気分はどう?」


「おはよう、お母さん。気分は……すごくいいよ」

 

「ほんと? 顔色もいいね。ご飯ご馳走になりましょ」

 秋穂はにっこり笑う。


「……ナギの気配がしないよ」


「ナギって鬼よね。遠くなったってこと?」


「ううん、今までと違うんだ。……まさか……?」


 コンコン。


 和歌子が部屋に入ってきた。


「おはよう。子供達と達也さんはもう出かけたわよ」

 天が起き上がっているのに気づく。


「あら! 天くん、おはよう! 具合はどう?」


「いいです」


「そっかあ、良かった!」

 和歌子は優しく微笑む。


「朝ごはん、食べてね」


 天と秋穂がダイニングに行くと、朝の勤めを終わらせた明玄住職が帰ってきた。


「おはようございます。すっかり良くなったようだな。住職二人は帰ったよ。心配してたよ」


 天の脳裏には、昨夜のことが映し出された。


「ん? 鬼の気配消えてるな? どうしたんだろう」 

 

「そうなんです」


「ないならいいけど……かえって不気味ね」

 配膳中の和歌子が口を出す。


「お世話になりっぱなしだし、今日は家に戻る? 天」

 

「うん」


「気を使わなくていいのよ。今日もゆっくりしていたら?」

 

「まだ鬼がどこかにいるかもしれないし、ここがいいんじゃないかな」


「……僕、なんか悪い予感がする」

 天は俯き、遠くを見つめるような目だった。



 朝ごはんの後、秋穂と天は家に帰ることにした。


「また、いつでもいらっしゃい」


 天はキョロキョロ見回したが、ナギの姿は見えなかった。


「天くん、鬼はいないようだな」


「変……いつもはここで待っていたのに」


「お母さん、何かあったらすぐ電話してください」


「ありがとうございます。……なんといったらいいのか」


「同じ子供を持つ親として、できることをしただけです」


 秋穂は目頭が熱くなった。 

 

 別れの挨拶を終え、秋穂が運転する車で家に帰る。


「ナギの気配が全くないんだ。封印が解けたのかな……」


 

 家に帰ると、ほんの少しだけしか離れていなかったのに、しばらく来ていなかったかのような懐かしい感じがした。


「ナギ……?」

 

 何度呼んでも、ナギの姿は見えず、何も起こらなかった。

  

 昼休み、ライン通話で、七海、愛羅、矢萩、天とで繋いだ。


「ナギどこ行ったんだろうね」


「天くん、具合はどう?」


「大丈夫だよ」


「……封印解けたんじゃね?」


「「「ある」」」


「そろそろ見つかりそうだから、切るね」


「ああ、ありがとう」


「「「「バイバイ」」」」


 天はしばらくスマホを両手に持って座っていた。


 ――封印が解けて、自由になったのか。どうなるんだろう。どこ行ったんだろう。日光が嫌いだったから、どっか隠れてるんだろうか……。


 ◇


 夜。今日は、父親の達也が仕事を切り上げて早く帰って来た。

 

 海都も、学校から帰ってから家にずっといた。


 いつぶりだかの家族揃っての夕食。焼き魚と煮物と味噌汁とご飯。

 天はなんでもないことが嬉しかった。


「もう鬼は来ない感じか?」

 達也は漬物を口へ放り込み、ご飯を食べた。

 

「わかんないよ。でも、封印は解けたと思う」

 天は焼き魚を解体した。 

 

「……また来るのかな?」

 海都は恐る恐る聞いた。

 

「わかんない。もしかしたら、来るかもね」

 天がそういうと、海都はつまんでいたじゃがいもを落とした。


「来たら……またその時考えましょう」

 秋穂が勇気づけた。


  

 食べ終わって、自分の部屋に行きベッドに横たわると、ふうっと一息ついた。

 

 今までのナギのことを思い出していた。


 山からついて来て、このベッドに太々しく寝転がった姿。学校について来て、ウロウロしてたこと。


 行き過ぎたこともたくさんあった。

 学校に行って先生を石に変えてしまったこと。いじめてた先輩の骨を折ったこと。


 人間の頃、母親を焼き殺されていた。


 ――すごい体験だった……。


 ナギが今の時代に生まれてたら、どんな子供だったんだろう。と、考えていたら、地響きがした。


 ドシン。……ドシン。


「なんだ?」


 部屋の外に出ると、お風呂に入っていた海都が慌てて出て来た。


「何? 今の……」


 みんなで窓から外を覗く。


 外はすっかり暗くなっていた。

 真っ暗の中に、大きな生き物が立っていた。

 

 ドシン。


 地面が低く唸る。


 ドシン。


 空気が震え、窓ガラスがビリビリと鳴った。 


 ――でかい。


 人間の感覚が、理解を拒むほどに。

 屋根よりも高く、電柱を軽く見下ろすほどの巨体。

 月明かりに照らされ、その輪郭が徐々に浮かび上がる。 


 巨大な翼。

 岩のように硬質な皮膚。


 そして――


 額の中央に、ひとつだけ。

 赤く、濁った眼が光っていた。


「何あれ……!」

 秋穂の声が震える。

 

「でかいぞ!」

 達也が身震いした。

  

「……あれは、ナギだ」

 天は悟ったような声色。

 

「あれが……?!」

 間近で見ても信じられない海都。

 

 その化け物は、ゆっくりと顔をこちらへ向けた。

 

『天。俺は許せない奴らをやりに行く。さらば』


「あれは鬼の声?!」


「ナギの声だよ」


 天は、ナギへ向かって叫んだ。


「僕との約束、忘れたのか?! 人を殺してはダメだ!」


『もう、天には関係ねえ! 俺は自由だ』


 ナギは踵を返して、街の方へ体を向けた。


「待てよ……!」


 天はナギへ走った。


「天!」


 天を呼ぶ秋穂の声が、夜の住宅街をこだました。

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