エピローグ
――封印を解いてしまった僕のせいだ。
僕は走った。
ナギは二階建ての家より大きな体を揺すらせて、道路を歩く。
一人のサラリーマンは、逃げ場を求めるように塀へ背中を押しつけ、その場に張り付いていた。口を開けたまま、声も出せずにいた。
(見えてるのか――)
天はそのまま走ってナギの前に辿り着いた。
「待て!」
天は両手を突き出した。
『なんだよ……。もうすぐ暴走車が来るんだよ。壊してやる……ヒヒッ』
「ナギ!!」
『うるせえ!』
ナギは、黒い大きな尻尾で天を薙ぎ払った。
天は、民家のブロック塀に叩きつけられた。
「う……」
『お前が邪魔するからだ……』
ナギはそのまま大通りへ歩いていく。
「きゃあああ!!」
子連れの女性がナギを見上げながら、ベビーカーを方向転換しようと焦っていた。
天は起き上がり、ナギを追った。
ハァハァ。
――止めなきゃ。
「ナギッ!」
天は両手を広げてナギの前に立った。ナギの巨体に隠れ、目だけがこちらを見下ろしていた。
『邪魔だ!! どけっ! 踏み潰すぞ!』
「いくなら……僕を殺してから行け!!」
天は歯を食いしばった。
『……』
天はナギの足の裏が近づいてくるのを見て、目を瞑った。
(そこまで俺に――?)
ナギは一瞬躊躇した。
――次の瞬間、ナギの姿は小さくなり、尻尾や鱗が消えて、前髪の長い男の子の姿に戻っていた。
『……!』
天は息を荒くしていたが、目を開けた。
「あっ……」
小さいナギ。また封印が戻った……?
『また天の中に入ったみたいだ……』
ナギは小さくなった足で小石を蹴った。
「そうか……」
達也、秋穂、海都の三人が天を見つけた。
「天!」
「鬼は?」
みんなキョロキョロした。
「そこにいるよ……。最初の大きさに戻ってる」
天はナギを指さした。
「見えないよ」
秋穂は、ハッとした。
「また、天に封印されたってこと?」
「うん。そうみたい……」
(また、始まるのか……)
――でも、今度は違う。みんなわかってくれている。
天は、さっきの出来事をみんなに話した。
「小さくなったのか」
海都が驚いていた。
「うん。身長は僕より小さい」
「……なんか変化あれば、すぐ言いなさいね」
秋穂が心配そうにしている。
「うん」
「さあ、帰りましょう」
みんなで家に向かって歩く。後ろからナギがついてくる。
ナギが海都を見ると、こう言った。
『海都、今日は落語習いに行かないのか?』
「今日は行ってないよ」と天。
「ナギがなんか言ってるのか?」
達也が一人で喋っている天に聞いた。
「海都が、今日は落語習いに行かないのかって」
「落語……?」
達也が聞き返すと、海都が慌てて誤魔化した。
「たまに落語見にいくんだよ」
「習いにって聞こえたが……?」
「……天、言うなよもう!」
「ごめん……」
「そういえば、海都のへやに扇子やら手拭いやら、落語の本とかあったわ」
秋穂が追い打ちをかける。
「……ごめんなさい。塾じゃなくて、落語習いに行ってる……。落語家になりたいんだよ」
海都が気まずそうに言った。
「本当なのか……?」
達也が海都を睨んだ。
海都は肩をすくめた。
「……もっと早くいえばいいのに。嘘はよくないけどな」
達也は海都の肩をポンと叩く。
海都が達也を見た。
「……応援するよ」
笑う達也を見て、海都も笑い返した。
天は振り返ると、後ろをついてくるナギを見た。
『何見てんだよ……』
ツノが生えていないナギを見ると、少し気持ちが楽になっているのが自分でもわかった。
空には、満月の月が輝いていた。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
もっとエピソードいろいろ書きたかったのですが、体力が足りませんでした。
続編描きたくなったら描くかもしれないです。




