火を消す方法
男の子視点です。
「貴方には俺を“飼って”ほしい。俺がこれまで見たものを、情報を、貴方に問われたことすべてを、隠さずに話すと約束する」
今の俺に、手段は一つしかない。もし、今目の前で俺の言葉を静かに受け止める紳士が、俺のこの話を断れば、もう二度とこの手は使えない。
紳士から目を逸らさぬように意識を集中する。いつの間にか握りしめた拳の内側が汗ばむ。
紳士は考え込んでいるのか、俺を射抜くような視線が一点に固まって動かない。
「小僧、忠告だ。小僧が持つ情報の価値は、自身で定めるものではない。また、情報の売り買いというのは双者の関係が対等であり、いかに信用できるかが肝となる。私が小僧を信用する理由がない」
紳士の眼差しがより細く、鋭くなる。
俺は、紳士の言葉に何も答えられなかった。
初対面のガキに、信用しろというのは無理な話だ。分かっていたことでも、はっきりそう返されればどう応えたらいいのか俺にはわからない。
沈黙は肯定。どこかの街で言われた言葉が脳裏を過る。ここで、黙ったままではダメだ。
俺は、ずっと旅をしてきた。
幼馴染の彼女とともに、多くの土地に足を運んだ。山も海も越え、雨国も雪国も知っている。それでもまだ、行き着けない場所が多くあった。各土地の食べ物や流行り物、下町や港町を転々としてきた俺は、同じ年代のガキに比べたら多くのものを見てきた自信がある。
一つの町に生まれ、育ち、親の跡を継いで、字も読めないまま巷の噂話に耳を傾けて生きる者は多いのだ。
平民ならば、そう生きるのが当然だ。
けれど、土地や身分によっては、そうとは言い切れないことも確かにある。
同じ平民でも、土地が違えば生き方も違う。
山にある町は口笛で意思疎通を図っていた。港のある街は高台を築き、声を広げる技術を持っていた。城下町では胸を張って大声を出すものが多く、離れた土地からやってきた旅人を引き止めるのが上手かった。
情報伝達の速さや規模も、平民にとって大したことのない情報を欲しがる輩はたくさんいて、そういう奴らはその場に溶け込んだふりをして情報を探っていた。
俺たちは、そういう奴らから逃げてきたんだ。
「俺の持つ情報が貴方にとって取るに足らない情報だとしても、誰かにとっては必要なことだってある!俺を利用しろ!俺も貴方を利用するんだ」
何故か、腹の奥から怒りが込み上げてくる。憎悪か、憤怒かなどどうでもいい。湧いた怒りを利用して俺は声を張り上げる。
紳士の鋭利な視線を見返すように俺が顔を上げれば、紳士の眼差しが微かに揺らいだような錯覚を感じた。
「……小僧は港の人間ではないな。何処から来た?」
若干、先程よりも紳士の言葉の威が欠けたように思う。
俺は言葉を選ばずして、簡潔に答えた。
"西の果ての国"と。
嘘か本当か。判断するのは俺を“飼う”と決めた紳士自身だ。
いつもお付き合いくださりありがとうございます。
少しでも面白い、続きに期待を感じて下されば、ご気軽に評価コメントしていただけると嬉しいです。




