第34話 褪せる獣は人となる
「危ない!」
リドルはアルドを押し倒した次の瞬間に巨大な炎の球が二人の頭上を通り過ぎる。
「あれは魔法分類です、あなたの力なら消せますよ」
「そうだね...でも一瞬で判断できるほど俺は頭が良くないんですよ」
「そのようだ、こんな罠にも気づかないとはな」
アルドはリドルの胸ぐらを掴むと自身の身体を起こすと同時にリドルを投げ飛ばすと手を叩く。
「うお...!?」
リドルが壁に激突したその時、アルドの周りを囲むように地面から無数の槍が檻を作る。
「アルドさん!」
リドルは槍を掴み、引き抜こうとするがアルドは言う。
「走りなさい、追っ手が来ている、私はすぐに逃げ出しますよ...」
リドルはたった一瞬だけ黙るとすぐに走り出す。
「やれやれ、ここから逃げられますかね?」
アルドはそう呟くと手を叩き、霧があたりに充満し、それと同時に地面が崩れ、棘をもつ巨大なムカデが這い出る。周りの群衆は逃げ惑いながらもアルドは冷静にそれを見る。
「槍の正体はこれですか、いいでしょう」
「どうすれば....いいんだ....?」
リドルは走り続ける、どこに行けばいいのかも、なぜ走り続けているのかも、この先に何があるかもわからない、その意味に気付けない、リドルは必死に走り続けると、その時、ウッドエルフの女性に出会う。
「あなたは...あの時の...!」
リドルが声に出した時、女性はリドルに駆け寄る。
「どうしたの!? そんな怪我して...」
「いや...大丈夫ですよ.....気にしないでください...」
リドルは冷静になり走ろうとしたその時、女性がリドルの手を引く。
「怪我人を放置なんて....」
「本当に...大丈——」
リドルが言おうとしたその瞬間に岩石がリドルの真横を横切り、壁に着弾し土煙が舞う。
「早く逃げて!」
リドルが叫ぶと女性はなくなく走り去り、群衆の中へと紛れるその背中を見送ると後ろに振り向く。
「来たようだね」
そこには王とその部下であろう銃を持った兵士がいた、兵士たちはリドルに銃を構えると王は腕を上げる。
「最後に何か言いたいことはあるか?」
「お前らの方がよっぽど獣だよ」
リドルの啖呵に王は笑う。
「そうかもしれないな、だがお前を獣にするのは容易いのだよ」
王は先ほどの女性を指差すと言う。
「10秒やる、やつを撃ち殺す間は狙わん」
「........ッ!!」
一斉に銃声が鳴り響く、女性の方向へ銃弾が飛び出す、薫る血の匂いが死を彩る、だがしかしそれ以上にあったのは全身への痛みであった。
「なん...で...?」
女性は力無く言う、目の前にあったのは死ではなく、大量の銃弾を浴びたリドルであった。
全身の痛みは熱となり、わずかに心地よさを感じるそのあり得ない感情と共にリドルはその場に倒れる。
「ほお? この状況で逃げずに守ろうとするとは、獣にすることはできなかったと言うことか?」
リドルは僅かに残った力を振り絞り、口を開く。
「僕は....やっぱり....人...だ.......」
音が聞こえない、既に死に絶えていた、その最後の時まで、そこには一人の獣人がいた、上がる悲鳴と絶望の空気、その全てが哀しみの連鎖であり、地獄とも呼べる空間であったのだ。




