第29話 規律は好奇心を縛り、現実を守る
第12紀 1252年
「コール! どこに行った!?」
北東部ホライド、夕暮れのその小さな町の広場で一人の男が呼びかける、だがその言葉は辺りの人の雑音で消され、まるで空でしかなかった、男はそこら中を歩き回りながら探し続けると木の上から齢12歳、少年コールが木の葉と共に目の前に落下する。
「あいたたたた...」
コールは落下した尻を摩りながらゆっくりと立ち上がると男に襟元を掴まれる。
「ようやく見つけたぞ、またそこら辺をほっつき歩いて...さ、家に帰るぞ」
「父さん! まだ遊び足りないね!!」
コールは走り出そうと手足をジタバタさせるが父は離さない。
「夕暮れには家に帰るって約束だっただろ? 帰るぞ」
「くっそおおおおお!!」
辺りは暗くなり、窓には月のみが映る食卓の中でコールは黒い煙を見つけると指を差し、父に問う。
「父さん、あれはなんなの?」
父が窓の煙を目視すると答える。
「あれは工場から出てる煙だ、汽車の部品を作ってるんだよ」
「なんか地味だね〜」
「まあそうだな、だがそれがないだけで汽車は動かない、どんな所にも役割があるんだ、地味でも派手でもだ、役割を果たすにはルールがあるんだ、まあ大きくなればわかるさ」
コールはしばらく沈黙するとばっと立ち上がり声を上げる。
「よっしゃ行くわ!!!」
「工場に行くな、あと飯食ってる時に椅子の上に立つな」
翌日
コールはそそくさと走りながら工場の煙の元へ向かう。
「へへ、ぜひ確認しようじゃあないか!」
コールは工場の近く、フェンスの前まで向かうとフェンスの隙間に指を入れ込み、ゆっくりとその場を上る。
しばらく時間をかけてフェンスを上り切ると地面へ着地し、工場へと向かったその時、父の怒号が背中を襲う。
「コール!!」
「やっべバレた.....」
コールがゆっくりと声の方向へ振り向くと父はフェンスを叩きながら叫ぶ。
「コール! 戻ってこい!!」
「ふはははは! 俺は捕まったりしないのだ!!」
コールが工場へ走ろうとしたその時、鉄の軋む音が聞こえ、父が登ろうとしているのを確認すると全速力で走り出す。
「うわああああ!!」
コールは叫びながら走るがすぐさま父に捕まる。
「ひええ、どうかご勘弁を!」
コールは父に言うが父は急いでフェンスの元へ向かうがその時、爆発音と共に土煙に二人は巻き込まれる。
目を覚ますと頬に激痛を感じ悶絶する、痛い、煙のせいかとても辺りが暗くなっている、コールは痛みで涙を流しながらも歩いているとその時、父の声が届く。
「コール...!」
「父さん...!」
コールは声の下方向へ向かうとそこには横たわった父の姿があった。違うのは、下半身が赤く染まり、瓦礫に潰されていることであった。
「なんで...父さん!」
コールは瓦礫をどかそうと手をかけるが父は止める。
「コール...よく聞け、工場で事故が発生したんだ...今すぐ逃げないともっと大変なことになる...だから逃げるんだ!!」
「でも...そしたら父さんは...」
「早く逃げろ!! いつもお前は人の話を聞かないんだ....今だけでいい...言うことを聞いてくれ....!」
コールは涙を流しながらもその場を離れようとしない、それを見た父は苦い表情をしながら石をコールに投げつける。
「早くいけ! 言うことを聞け!」
石の痛みも、離れる痛みも、別れの痛みも、頬の痛みも、つらくてたまらない、コールはそこ全ての痛みを体感しながらその場を離れるのであった。
爆発事故は工場の不備、安全性の配慮の欠如にあった、メンテナンスを怠り、あの事件は発生し、俺が逃げたその後、さらに爆発が起こり、放射性物質が待ちにばら撒かれ、俺の町は消えた、工場がルールを破ったせいで町は消えた、俺がルールを破ったせいで父は死んだ、守ることは人を護ることにつながる、そんなことも俺は理解できていなかったんだ。




