8:魔力を燃やして
世界が黄金に燃える。
暴漢の放った魔法ではない。
見た目としては燃えてはいるが、そこに炎のような熱は感じられない。ただ、揺らめきながら黄金が立ち上っているだけ。
「何だ? こいつは一体何なんだ⁉」
暴漢が怒鳴る。
放った魔法で俺が燃え尽きなかったことの苛立ちか、或いは目の前に広がっている光景に対しての困惑か——少なくとも暴漢の目論見を大きく外すことはできているようだ。
俺は鞘から解き放たれた剣を構える。
細身にして反りのある片刃の剣。刀身は雪のように白く、その刃にそって黄金の炎が揺らぐ。
「はっ……武器を持った程度で勝った気になるなよ!」
暴漢は獰猛な表情で叫ぶ。そして、再び掌を前に突き出す。
「奇跡は二度も起きねぇぞ! 燃え尽きな、フレイムウェイブ!」
本来であれば暴漢の魔法が発動され、俺を容赦なく焼き尽くしたのだろう。
だが、暴漢の魔法は発動しなかった。代わりに男の掌に黄金の炎が揺らいだ。
「不発だと⁉」
意味がわからない——と、暴漢は唖然とする。
「フレイムウェイブ! フレイムウェイブ! フレイムウェイブ!」
魔法を放とうとするが、そのすべてが黄金となって揺らぐ。
「魔力は尽きてねぇ! 魔法はつかえるはずだ! クソガキィ、一体何をしたァ!」
「……ぶっちゃけ、よくわかんねぇよ」
「は、はぁ⁉」
「だけど、ひとつだけわかることはある」
黄金の炎が何かはこの際どうだって良い。
手に持つ剣の鞘が無くなったことも知ったことではない。
ただ、ひとつだけわかること——今がチャンスという事実、それだけだ。
俺は足に力を込めて、飛び出す。
全身は相変わらず痛い。
だが、不思議と身体が動いてしまう。
剣の振り方なんて知らない。ただ、どうすれば良いかだけは理解できる。
両手で柄を握り、上段に構え、その刃を振り下ろす。
「舐めるなよ、クソガキがァ!」
暴漢も前へと踏み込んで、俺へカウンターを叩き込もうと握り拳の腕を伸ばす。
普通なら直撃だったかもしれない。
だけど、今はその拳がスローモーションのように見える。
身体を僅かに横へ。
暴漢の拳が宙を突く。
「クソがァ⁉」
「悪く思うなよ」
斬————。
肩から斜めに一刀が奔った。
「こんな……餓鬼にィ……」
そう呟くと暴漢は仰向けに倒れる。
暴漢が動かないことを確かめながら、俺は剣を突き刺して身体を支え、荒い呼吸を整えるために膝を着いた。
「はっ、はぁ……クソ、柄でもないことをするもんじゃない」
そんなことを呟いている間に、周囲で燃え盛っていた黄金は鳴りを潜める。同時に突き刺していた剣の刀身が黒い鞘で覆われていた。
「大丈夫ですか⁉」
両目にいっぱいの涙を溜めたアステリアが近づいて来る。
なんとか彼女を護ることができたな——そう思いつつ、立ち上がろうとしたのだが……。
「ッ————」
ふらついて、そのまま地に倒れ伏す。
どうやら体力の限界というヤツだ。
「——————⁉」
焦った声だけが耳の奥で反響する。
その意味を理解しようとする間もなく、俺の意識はプツンと途切れてしまった。
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