7:ワテクシを上手く使ってくださいね
「またお会いましたね、お兄さん」
ここは何処だ?
いつの間にか真っ黒な空間に俺と露店の怪しい男が向かい合うように立っていた。
流石の俺でも、この場が異常であることは直ぐに理解できる。
「現在、現実のお兄さんは炎の魔法を一身に受け、轟々と燃え盛っておりますね。このままですと、こんがり上手に焼き上がってしまいますな」
これは困った——男は「やれやれ」と首を振りながら言う。
俺としては困ったで済まされない。焼肉になって死んでしまうなんてお断りだ。
それに死んでしまったら、アステリアはどうなる。
「彼女を救いたいのですか? ですが、本来の流れ通りになっていなかったとはいえ、お兄さんが助ける義理はなかったのでは?」
それは……そうだ。
だけど、あのまま見捨てるのはちょっと違うと思っただけ。
あの場を立ち去ってしまったら、俺はきっと後悔したはずだ。
「それで死んでしまっては元も子もありませんよ?」
男の言う通りだ。
自ら首を突っ込んでボコボコにされ、燃やされそうになっているのだから笑い話にもならない。
ただ、それでも、俺は彼女を見捨てることができなかった。
「お兄さんはサイファなる人物の代わりになれるとでも思ったのですか?」
そんなワケない。
俺はサイファのような奇麗な剣術なんて使えないし、強力な魔法なんて発動すらできない。頭脳明晰でもないし、身体能力と体力も至って平凡だ。
「では、なぜお兄さんは動いたのでしょう? ちょっと違うと思った——それは本当でしょうか?」
違うとでも言いたいのか?
「いえいえ、そうではありませんよ。ワテクシはお兄さんの本心をお伺いしたいのです」
俺の本心だって?
「ええ、本心です。サイファなる人物が現れなかったことも理由のひとつでしょう。ですが、それだけではないはずよ?」
サイファが現れるのなら、俺は首を突っ込まなかった。
…………いや、そんなことはない。
俺はきっとサイファがいても、首を突っ込んだかもしれない。
あの時、アステリアは助けを求めていたのだから——。
「そうですね。お兄さんは超の付くほどのお人好しです。遅かれ早かれ、首を突っ込んでいたでしょう」
男はそう言って、声を殺しながら笑う。
ところで俺はいつまでここにいれば良いのだろうか?
「お兄さんが願えば戻れますよ。ですが、このまま戻ってしまうと焼肉ですけどね」
そいつはマズい。
だったら、どうすれば良い。
もしかして詰みだったりするのか?
「残念ながら普通であれば詰みですね」
男は無慈悲に告げる。
しかし——と、男は言葉を続けた。
「普通でなければ詰みではありませんよ?」
すると、俺の目の前に抜けない剣が現れる。
「既にお兄さんとワテクシは繋がっておりますので、あとはスイッチを入れるだけです」
俺は剣を手に取る。
「あの時、お兄さんには魔力無しと言いましたが、その本質は少々異なります」
一度目を閉じ、ゆっくりと瞼を持ち上げる。
「魔力が無いのではありません。お兄さんの魔力はすべて燃えていたのですよ」
手に取った剣に金色の炎が上がる。
徐々に剣を収めていた鞘が灰となって散っていく。
「さて、共に参りましょう」
男の声が頭の中に響く。
「ワテクシを上手く使ってくださいね」
真っ暗だった空間が砕けて割れる。
俺の視界に映るのは金色の炎と驚きの表情を浮かべている暴漢。
「——何をした、テメェ?」
暴漢が問う。
俺は「さあ?」と答える。
正直、よくわかっていない。
だけど、この現状を打破できる確信があった。
「悪いけど、アンタに負けられないんだ」
俺は剣を構える。
その剣にあったはずの鞘は見当たらない。
月明かりに照らされた刀身は——雪のように白かった。
ブックマーク等々お待ちしております。




