5:アニメの通りには進まない
何とか一日分の宿代を稼ぐことに成功した。
食堂のおばちゃんには感謝しかない。そして、「困ったらまた来な」という男前な言葉まで貰え、思わず泣いてしまいそうだった。
さて、そんな俺はただいま城唯一の出入り口である門の傍に来ている。
理由はアステリアとサイファの出会いを拝むためだ。
既に陽は落ち、城内でもパーティーは始まった頃合いだろう。
俺は門の傍で、彼女が現れるのを待っていた。
「しっかし、日本と違って夜になると一気に静かになるな。飲食店が近いところは賑やかだけど、少し離れるとこれとは……」
宿代稼いでおいて良かった——と、俺はしみじみ思う。
同時にアステリアが暴漢に襲われることも納得できてしまう。
「ん?」
タタタタ……と石畳の道を駆ける音がする。
門の方へと顔を向けると、女性が駆け抜ける姿が見えた。
腰まで伸びた金色の髪に、青いドレス姿。間違いない彼女がアステリアだ。
「よーし、後を追って出会いの場面を拝みますか」
俺はアステリアの後を追って走り出した。
彼女の走りは特別速いワケでもない。俺としてはジョギング程度の速度で一定の距離を取りつつ、その背中を追い掛ける。
「っと、立ち止まったな」
路地裏、水路の近く。
アステリアが立ち止まったことを確認すると、俺は直ぐ側の物陰に身を隠す。
「どうして……」
アステリアの悲痛な声が耳に届く。
プレゼントされたものが原因で盗人の濡れ衣を着せられたのだから無理もない。
「私は……嵌められた?」
サレンディアの企てに気づいたアステリアの声。
俺は「そうなんだよ」と頷きながら、その光景を陰から見つめる。
「おいおい、こんなところにお嬢ちゃん独りでどうしたんだ?」
——来た。
俺はジッとその光景を眺める。
正直な話、非常に心が痛いところではある。しかし、彼女を助けるのは俺ではなくサイファの役目だ。
下手に本来の流れを壊すわけにもいかない。
目の前で乱暴されようとしているアステリアを眺めつつ、俺は呟く。
「そろそろサイファが来るな」
ジッとサイファの登場を待つ。
しかし、どうにも雲行きが怪しい。
途中まではアニメ通りの台詞が飛び交っていたが、徐々に聞き覚えのない台詞が出てくる。
「嫌ッ! 止めて! 誰か!」
「誰も来やしねぇよ。ここは特別人通りが少ねぇんだ」
待て。いや本当に待って。
サイファさん、出番ですよ? 今こそ、アステリアの危機を救う時ですよ?
しかし、サイファは現れない。
そうこうしている内にアステリアの胸部の服が破かれる。
「おいおい、洒落になってないぞ……」
アニメの流れだと「へっへへ……こんな人気の無い路地裏に独りで来ちゃダメだぜ? それに嬢ちゃんは貴族だろ? ま、運が悪かったってことで諦めな」という暴漢の台詞の後にサイファがやって来たはず。
少なくともアステリアの服が破られることはなかった。
「どうする?」
アステリアは必死に抵抗している。
このままではアステリアが犯されてしまう。
もう少し待てばサイファが現れるのでは?
いや、そうしている間にもアステリアがマズい。
脳内で自問自答を繰り返していたが————、
「ああ、もう! 後のことなんて知ったことか!」
俺は昼間に怪しい男から貰った抜けない剣を手に物陰から飛び出す。
そして、告げる。
「そこまでだ」
サイファが現れるのなら、助けに入るつもりはなかった。
見過ごす選択もあったかもしれない。
だけど、それはちょっと違うと思った。
「何だ、テメェ? 今良いところなんだ」
「はいはい、そいつは悪かったな。だけど、無理矢理ってのは倫理的にダメだと思うんだ」
喧嘩とは縁遠い日常だった。
だから、どこまでやれるかはわからない。
それでも——見捨てるよりは良いだろう?
ブックマーク等々お待ちしております。




