4:濡れ衣と婚約破棄 side.アステリア
「今ここにアステリア・コランダムとの婚約破棄を宣言する!」
多くの貴族が集まる大広間にて、アベル・フォン・サラザールは高らかに宣言する。その隣には洋扇で口元を隠し、勝ち誇った表情を浮かべるサレンディアが立っていた。
私——アステリアは突然の宣言に、唖然とするしかなかった。
それはお父様も同じだった。
「アベル皇子、一体何があったと言うのですか⁉」
「コランダム伯爵、私は見てしまったのです」
お父様の言葉に応えるように、サレンディアが口を開く。
「彼女、アステリア様がシーア王妃のブローチを懐に入れるところを。その証拠は彼女の身に着けているブローチです!」
何を言っているのかわからなかった。
だって、このブローチはサレンディアが婚約祝いにとプレゼントされたもの。
「待ってください! これはサレンディアが————」
私は声を上げる。
しかし、それはアベル皇子によって遮られる。
「口を開くな、この盗人め! 母上、この話が真実であるかはアステリアのブローチを確かめればわかるでしょう」
アベル皇子の言葉にシーア王妃は頷くと、側近の騎士が私の身に着けていたブローチを取り上げる。そして、ブローチを確認したシーア王妃は、それが自身のモノであることを認めた。
「この色合い、そして傷の箇所。間違いなく私のブローチで間違いないでしょう」
周囲がざわつく。
お父様の方へと顔を向けると、血の気が引いており真っ青になっている。
「さて、これで明らかになったな」
「待ってください! 私は————」
「盗んでいないとでも宣うか? 随分と見上げたものだ。本来であれば、この場で斬って捨てるところ。だが、俺は優しいからな。この場から即去れば罪には問わない。さあ、どうする?」
私の唇が震え、声が出せない。
込み上がってくる涙を堪えながら、私は踵を返すと出口へと向かって小走りに駆け出す。
背中から誰かの声が聞こえていた。
廊下を抜け、門を抜け、大通りを抜けて、私は涙を溢しながら走った。
気が付けば、人気の無い場所に立っていた。
「どうして……」
私はつぶやく。
あのブローチはサレンディアがプレゼントしてくれたもの。私は盗んでいないのに……。
その時、サレンディアの表情が脳裏に過った。
あの勝ち誇った表情は——そういうことだったのだ。
「私は……嵌められた?」
なんで——と私は涙を流す。
一緒に喜んでくれた姿は嘘だったの?
「おいおい、こんなところにお嬢ちゃん独りでどうしたんだ?」
背後から声がした。
同時に強引に引っ張られ地に叩きつけられた。
「い、痛い!」
「へっへへ……こんな人気の無い路地裏に独りで来ちゃダメだぜ? それに嬢ちゃんは貴族だろ? ま、運が悪かったってことで諦めな」
仰向けに転がされ、男が覆いかぶさる。
ドレスの中に手を突っ込まれ、下半身の秘部に触れようとする。
「嫌ッ! 止めて! 誰か!」
「誰も来やしねぇよ。ここは特別人通りが少ねぇんだ」
どうして、どうしてこんなことに……。
私は必死に抵抗しながら思う。
だけど、私の力では暴漢を振り払うことができない。
こんな男に私の純潔を奪われるなんて————。
口を塞がれ、胸を破かれる。
終わりだ——そう思った時だった。
「そこまでだ」
男性の声がした。
「何だ、テメェ? 今良いところなんだ」
「はいはい、そいつは悪かったな。だけど、無理矢理ってのは倫理的にダメだと思うんだ」
男性の声の方へと、私が顔を向ける。
そこには黒髪の青年が月明かりに照らされながら立っていた。
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