25:あの時の言葉
最初の一撃を防がれたことは非常に痛い。ここからは消耗戦に突入しざるを得ず、剣の技術が如実に表れてくる。
だが、動体視力と身体能力の強化による恩恵は大きい。技術の差を無理やり縮めることができたからだ。
「魔法が発動せずに燃えるのか。それにお前のその眼は——なるほど、魔眼か⁉」
魔法を放とうとする度に燃えて不発となる状況に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべつつも、サイファは俺の眼を見て、魔眼の存在に辿り着く。
まだ、身体強化の魔法が使えることには気づいていない様子。気づかれる前に押し込まなければ……。
「差し詰め、魔法を燃やす魔眼と言ったところか」
「ああ……『魔力殺しの魔眼』と呼ばれるものらしい」
「『魔力殺しの魔眼』?」
伝承に語られているからこそ、有名な話題かと思ったがそうでもないらしい。
そう言えば、どこかで「伝承を知るのはモノ好きだけだ」とハレンも言っていたような気がする。
とにかく、詳細を知られていないことは大きなアドバンテージでもある。
だが、『魔力殺しの魔眼』を使用した状態も長くは保てない。長時間の使用は、一定時間の失明というペナルティを負うことになるからだ。
俺は鞘の消滅した白刀を握り、構える。
「いつの間に抜いた?」
「さあ? 余所見でもしていたのか?」
「戯言を!」
サイファが踏み込んで来る。
恐らく身体強化は使用していないはず。だが、そのスピードと膂力は俺と同等だった。
「なんて馬鹿力だ……」
サイファの剣を受け止めながら、俺は苦悶の声を漏らす。
「英雄の末裔として生まれたことによる恵まれた肉体だ。逆に俺についてこれるだけ、お前も馬鹿力だ」
「俺とお前を一緒にするんじゃない!」
刀と剣の打ち合い。
その剣戟は力と速度のぶつかり合い。互いの限界を以て、振るい続ける地獄。
しかし、地力の差が徐々に出てくる。
ゴリ押しでは才能を凌駕できない。少しづつ俺が再び押され始める。
「動きが鈍り出したか」
「まだだッ!」
サイファの魔法は封じた。
それだけで普通の相手なら圧倒的に有利を取れる状況。だが、サイファはそんな不利な状況であっても、拮抗、或いは自身が僅かに有利な状況まで持ち直してしまう。
まるで世界がサイファの負けを許さないとも言うような事態だ。
今世紀最強なんて生易しいものじゃない。世界そのものがサイファの勝利へ運命を誘導している感覚だ。
あまりにも理不尽が過ぎる。
アニメでは確かに負けなしだったが、これはズルいなんてものを超越している。
——と、一瞬だけ、視界がぼやけた。
マズい。残り時間がもうない。
こちらは息絶え絶えだというのに、サイファは多少の汗が額に滲んでいるが涼しい顔をしている。何よりも呼吸が乱れていない。
完全に地力の差が出ている。
「……限界が近そうだな?」
サイファが問う。
「うるさいな。そんなアンタは余裕綽々みたいじゃないか」
「この程度、値を上げるほどじゃないな」
「嫌味が過ぎる。だが————」
俺は白刀を構える。
「——負けてはいない」
「もう負けるだろう?」
「舐めんな。こちとらアステリアの願いを背負ってんだ。そう簡単に勝ちは譲らない」
「……弱い犬程よく吠える」
「あ?」
「終わりにしよう」
腹部に痛みが生じた。
視線を移せば、そこに鮮血が散っていた。
正しく神速。馬鹿げた速度による踏み込みと斬撃で、俺に腹が横一閃に斬られたのだ。
歯を食いしばる。
俺は倒れない。
両足を地に着け、踏ん張り、白刀を振るう。
ギャリン——サイファの剣と激突し、甲高い音が響き渡った。
「降参しろ」
「……断る。俺はまだ立ってるぞ」
「ならば腱を斬るか?」
直感的に俺は地を蹴飛ばして跳ねる。
「避けたか」
俺の足を狙った斬り払い。
このサイファは一切の迷いがなさ過ぎる。ふざけんな、このサイコパスが!
「少しは躊躇しやがれ!」
「敵に情けを駆ける必要があるのか? 退くなら斬らないが、退かないのならば斬る。シンプルな話だろうさ」
ああ、本当にシンプル過ぎて反吐が出そうだ。
考えろ。勝ちを拾うための方法を考えるんだ。
俺の手札はあるか?
『魔力殺しの魔眼』は使った。それ以外の手は、鬼札は————。
「終わりだ」
俺の目の前に剣を大きく振り被ったサイファの姿が在った。
マズい。
受け止める? いや、受け止めたとて防ぎ切れない。
『斬れ味の調整はワテクシが行いますので、お兄さんは気にせずブンブン白刀を振り回してください』
あの夢の中でアイツは確かにそう言った。
ああ——受け止められないのなら、いっそのこと斬ってしまえば良い。
「あの時の言葉、信じてるからな! サピロス・アイオライト!」
俺は振り下ろされる剣へ向かって、白刀を振り抜いた。




