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アニメの主人公じゃない俺が婚約破棄された令嬢を助けることになった  作者: 霜月風炉


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23/26

23:確かめさせてもらおう

 今世紀最強の守護騎士(シュヴァリエ)と謳われるサイファ・クルルシファー。

 アニメにおいて、あらゆる強者を一振りで斬り捨てていく姿は、男である俺でも胸が熱くなるものがあった。なお、妹最押しのキャラクターでもあった。

 剣術もさることながら、魔法の腕前も一級品。得意としているものは剣に魔法を乗せる魔法剣。そして、勇者の末裔を示す光魔法の使い手。

 ……何だコイツ、スペックが高すぎるだろ。


「先手は譲ろう。どこからでもかかって来ると良い」


 その佇まいには絶対の自信が見受けられる。

 俺程度の相手なら先手を譲っても楽勝とでも言うのだろう。

 確かにそうかもしれないが、いざ舐めた態度をやられると癪に障る。

 まあ、良い。譲ってくれるのなら、ありがたく頂戴しよう。

 俺は地を蹴って飛び出す。

 鞘に収まったままの白刀を、サイファの首を狙って振り抜く。

 ガキィン——という甲高い音が響くと同時に、俺の態勢が大きく崩れる。


「なっ——⁉」

「狙いが丸わかりだ、素人め!」


 サイファの剣によって、俺の一振りは押し合いもなく難なく弾かれた。

 これもすべて実力差が大きいせいだろう。

 だが、隙を見せるワケにもいかない。

 俺はすぐに態勢を整える。視線はサイファから逸らさない。余所見は即座に死へ直結する——と、ハレンから嫌というほどに叩き込まれた。


「……もう一度聞こう。なぜ、それを抜かない?」

「答える必要があるとでも?」


 白刀を抜く時は必然的に『魔力殺しの魔眼(ネガシオン)』を使うことになる。これは俺にとって切り札だ。切るタイミングを見極める必要がある。


「それが聖剣のような特殊なものなのかは知らないが、抜く気がないのなら——無理矢理抜かせてやろう」


 目の前からサイファの姿が文字通り消えた。

 この展開のお約束は————後ろだ!

 振り返りざまに白刀を振り抜く。強い衝撃と共に、サイファの剣を受け止めることに成功する。


「勘が良いな」

「最近まで嫌というほどやられたんでね!」


 似たようなことをハレンに何度もやられた。

 殺気を感じろなんて言われてもいたが、まだそれを感じ取れるほど俺の感覚は研ぎ澄まされていない。だから、これは直感と経験則による偶然だ。


「直感は及第点と言ったところか。だが、才能は欠片も感じられないがな」


 腹部に衝撃が奔る。

 即座に気づく。俺の腹部にサイファの右足が突き刺さっていた。

 足が宙に浮き、そのまま数メートル飛ばされる。


「くっ……」

「……痛みで剣を手放すほどの素人ではないか。しかし、その程度の実力で守護騎士(シュヴァリエ)にお前を任命するとは、アステリア・コランダムの目は節穴か?」

「アステアリアの目は節穴じゃないよ。ま、俺の実力が低いのは認めるけどな」

「魔力が無いから剣術が優れている、或いは才能があるかと思ったがそうでもない。一体、お前は何者だ?」


 サイファは何かを訝しんでいる。

 流石は主要キャラクターだ。その勘も一級品だ。

 沈黙を貫く俺に、サイファは「まあ良い」と告げる。


「この程度であれば、俺の負けはない。サレンディア様より『揉んでやれ』と指示を受けている。心配するな、殺しはしない」


 揉んでやれ——どうせ碌でもない指示なのだろう。


「小手調べだ。エウクレイデス」


 魔法名を唱えた。ただ、それだけ。

 脇腹に激痛が奔る。視線を向けると血が滲んでいた。


「反応できないか?」

「閃光の魔法。しかもノーモーション!」


 閃光をただ直線に放つだけの魔法——エウクレイデス。

 勇者の末裔だけが発動できる光の魔法であり、その脅威はそのスピードだ。放出から着弾まで視認が難しい。少なくとも俺の目では捉えることすらできない。

 そんな魔法をサイファという才能の権化はノーモーションで放ってくるのだから質が悪い。

 

「エウクレイデス・リフレクト」


 再び放たれる閃光。

 俺の太ももを掠ったと思えば、背中に激痛が襲う。


「ぐぅ……」

「魔力によって反射板を作成し、俺の閃光を反射した。これで死角からの攻撃も可能だ」

「……説明どうも」


 完全に舐められている。

 魔法の種明かしを自ら行うあたり、知られても問題ないという判断なのだろう。


「実力差は歴然だ。大人しく白旗を振ってはどうだ?」

「お断りだね。こんなんでもアステリアの守護騎士(シュヴァリエ)なんだ。どうせ負けるなら恥じない姿で負けたいね」


 可能であれば勝ちを取りたい。

 だが、正攻法では難しい。

 やはり『魔力殺しの魔眼(ネガシオン)』を切るタイミングが重要だ。

 長期戦は不利。身体能力の向上を用いて一撃で沈めることこそが僅かな勝ち筋。しかし、正面からは確実に防がれる。


「覚悟だけは一人前か。なら、恥じない姿で負けを晒せ」


 サイファの頭上に強烈な力が集まるのを感じる。

 俺が視線を向けると、そこには渦を巻く光の球体が輝いていた。

 俺はその魔法を知っている。

 現段階でサイファが持つ最大の魔法——アラマズド。


「運が良ければ、死なんだろう」


 アラマズドが放たれる。

 光の球体とは言え、そのスピードは瞬きの間だ。

 俺の身体は閃光に飲み込まれる。


「……終わりだな」


 サイファが呟いた——その時だった。

 世界が黄金に染まった。


「何だ⁉」


 大気の魔力は金色の炎となって立ち上り、その不可思議な様相にサイファは眉を顰めていた。

 そして——、


「ッ————何処に消えた⁉」


 アラマズドの魔力がすべて燃え尽きた其処に、俺の姿は当然ない。

 なぜならば、既にサイファの背後を取っていたからだ。

 鞘は焼滅し、その白い刀身は金色の炎を纏う。その白刀を手に俺は横一線に振り抜く。

 これが並の相手であれば、決まっていた。


「今のは肝を冷やしたぞ」


 俺の一刀はサイファの剣で受け止められた。

 唯一のチャンスを逃してしまった俺は顔を顰める。

 ここからは時間との戦い。失明するまでに仕留めきる必要がある。


「それがお前の切り札か?」

「だとしたら何だってんだ?」

「————面白い」


 俺を押し飛ばし、サイファが剣を構える。


「お前が俺に届くのか——確かめさせてもらおう」

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