23:確かめさせてもらおう
今世紀最強の守護騎士と謳われるサイファ・クルルシファー。
アニメにおいて、あらゆる強者を一振りで斬り捨てていく姿は、男である俺でも胸が熱くなるものがあった。なお、妹最押しのキャラクターでもあった。
剣術もさることながら、魔法の腕前も一級品。得意としているものは剣に魔法を乗せる魔法剣。そして、勇者の末裔を示す光魔法の使い手。
……何だコイツ、スペックが高すぎるだろ。
「先手は譲ろう。どこからでもかかって来ると良い」
その佇まいには絶対の自信が見受けられる。
俺程度の相手なら先手を譲っても楽勝とでも言うのだろう。
確かにそうかもしれないが、いざ舐めた態度をやられると癪に障る。
まあ、良い。譲ってくれるのなら、ありがたく頂戴しよう。
俺は地を蹴って飛び出す。
鞘に収まったままの白刀を、サイファの首を狙って振り抜く。
ガキィン——という甲高い音が響くと同時に、俺の態勢が大きく崩れる。
「なっ——⁉」
「狙いが丸わかりだ、素人め!」
サイファの剣によって、俺の一振りは押し合いもなく難なく弾かれた。
これもすべて実力差が大きいせいだろう。
だが、隙を見せるワケにもいかない。
俺はすぐに態勢を整える。視線はサイファから逸らさない。余所見は即座に死へ直結する——と、ハレンから嫌というほどに叩き込まれた。
「……もう一度聞こう。なぜ、それを抜かない?」
「答える必要があるとでも?」
白刀を抜く時は必然的に『魔力殺しの魔眼』を使うことになる。これは俺にとって切り札だ。切るタイミングを見極める必要がある。
「それが聖剣のような特殊なものなのかは知らないが、抜く気がないのなら——無理矢理抜かせてやろう」
目の前からサイファの姿が文字通り消えた。
この展開のお約束は————後ろだ!
振り返りざまに白刀を振り抜く。強い衝撃と共に、サイファの剣を受け止めることに成功する。
「勘が良いな」
「最近まで嫌というほどやられたんでね!」
似たようなことをハレンに何度もやられた。
殺気を感じろなんて言われてもいたが、まだそれを感じ取れるほど俺の感覚は研ぎ澄まされていない。だから、これは直感と経験則による偶然だ。
「直感は及第点と言ったところか。だが、才能は欠片も感じられないがな」
腹部に衝撃が奔る。
即座に気づく。俺の腹部にサイファの右足が突き刺さっていた。
足が宙に浮き、そのまま数メートル飛ばされる。
「くっ……」
「……痛みで剣を手放すほどの素人ではないか。しかし、その程度の実力で守護騎士にお前を任命するとは、アステリア・コランダムの目は節穴か?」
「アステアリアの目は節穴じゃないよ。ま、俺の実力が低いのは認めるけどな」
「魔力が無いから剣術が優れている、或いは才能があるかと思ったがそうでもない。一体、お前は何者だ?」
サイファは何かを訝しんでいる。
流石は主要キャラクターだ。その勘も一級品だ。
沈黙を貫く俺に、サイファは「まあ良い」と告げる。
「この程度であれば、俺の負けはない。サレンディア様より『揉んでやれ』と指示を受けている。心配するな、殺しはしない」
揉んでやれ——どうせ碌でもない指示なのだろう。
「小手調べだ。エウクレイデス」
魔法名を唱えた。ただ、それだけ。
脇腹に激痛が奔る。視線を向けると血が滲んでいた。
「反応できないか?」
「閃光の魔法。しかもノーモーション!」
閃光をただ直線に放つだけの魔法——エウクレイデス。
勇者の末裔だけが発動できる光の魔法であり、その脅威はそのスピードだ。放出から着弾まで視認が難しい。少なくとも俺の目では捉えることすらできない。
そんな魔法をサイファという才能の権化はノーモーションで放ってくるのだから質が悪い。
「エウクレイデス・リフレクト」
再び放たれる閃光。
俺の太ももを掠ったと思えば、背中に激痛が襲う。
「ぐぅ……」
「魔力によって反射板を作成し、俺の閃光を反射した。これで死角からの攻撃も可能だ」
「……説明どうも」
完全に舐められている。
魔法の種明かしを自ら行うあたり、知られても問題ないという判断なのだろう。
「実力差は歴然だ。大人しく白旗を振ってはどうだ?」
「お断りだね。こんなんでもアステリアの守護騎士なんだ。どうせ負けるなら恥じない姿で負けたいね」
可能であれば勝ちを取りたい。
だが、正攻法では難しい。
やはり『魔力殺しの魔眼』を切るタイミングが重要だ。
長期戦は不利。身体能力の向上を用いて一撃で沈めることこそが僅かな勝ち筋。しかし、正面からは確実に防がれる。
「覚悟だけは一人前か。なら、恥じない姿で負けを晒せ」
サイファの頭上に強烈な力が集まるのを感じる。
俺が視線を向けると、そこには渦を巻く光の球体が輝いていた。
俺はその魔法を知っている。
現段階でサイファが持つ最大の魔法——アラマズド。
「運が良ければ、死なんだろう」
アラマズドが放たれる。
光の球体とは言え、そのスピードは瞬きの間だ。
俺の身体は閃光に飲み込まれる。
「……終わりだな」
サイファが呟いた——その時だった。
世界が黄金に染まった。
「何だ⁉」
大気の魔力は金色の炎となって立ち上り、その不可思議な様相にサイファは眉を顰めていた。
そして——、
「ッ————何処に消えた⁉」
アラマズドの魔力がすべて燃え尽きた其処に、俺の姿は当然ない。
なぜならば、既にサイファの背後を取っていたからだ。
鞘は焼滅し、その白い刀身は金色の炎を纏う。その白刀を手に俺は横一線に振り抜く。
これが並の相手であれば、決まっていた。
「今のは肝を冷やしたぞ」
俺の一刀はサイファの剣で受け止められた。
唯一のチャンスを逃してしまった俺は顔を顰める。
ここからは時間との戦い。失明するまでに仕留めきる必要がある。
「それがお前の切り札か?」
「だとしたら何だってんだ?」
「————面白い」
俺を押し飛ばし、サイファが剣を構える。
「お前が俺に届くのか——確かめさせてもらおう」




