22:踏ん張っていけ
なぜ一教育機関に決闘場があるのか疑問ではあるが、これはファンタジー世界観におけるお約束的なこともあるので。きっと気にするだけ無駄なのかもしれない。
さて、今俺は決闘場へ続く通路にアステリアと共にいた。
「無理はしなくて大丈夫ですからね。危なくなったら棄権してください」
「わかってるよ。俺もこんなことで重傷は負いたくないんで……」
鞘に納められたままの白刀を腰に差し、決闘場へ向かってと足を踏み出す。
「頑張ってくださいね」
「……善処するよ」
アステリアはサレンディアたちがいるであろう貴賓席へと向かう。
その背中を見届けて、俺は決闘場へ足を踏み出した。
中央には既にサイファの姿が在った。
「……なるほど、体のいい見世物か」
決闘場と物々しい名称ではあるが、学院イベントでも頻繁に使用される場所。そのため観客席も設けられいる。
どこで聞きつけたのか、観客はそれなりにおり、アニメで見覚えのある教員の姿も在った。
「待たせて申し訳ないっすね」
中央で待つサイファの前に立ち、俺は言う。
薄く青みのある髪の毛と澄み渡る蒼穹の瞳。身体の肉付きを言ってしまえば細マッチョであり、俺よりも明らかに整っている。
容姿良し、技術良し、知力も良し——この男は一体何なら持ち得ていないんだ?
「待ってはいない。しかし、素人に毛が生えた程度の実力と見える。実力差もわからない間抜けなのか?」
なんて辛辣なヤツだ。
いや、アニメでも口の悪さは目立っていたが、いざそれを向けられると心底イラっとするものだ。
だが、言っていることは正しい。
訂正するのなら、実力差があることを理解していることくらいだろう。
「それにお前……魔力が無いな?」
「わかるのか?」
「一定の実力があれば、その程度誰にでもわかる。しかし、なおさら解せないな」
サイファが腰の鞘から剣を抜く。
「アステリア・コランダムはなぜお前を守護騎士に添えた?」
「それは俺も疑問だよ。ああ、俺もひとつ聞きたい。アンタはどうしてサレンディアの守護騎士になったんだ?」
「愚問だな。俺の仕える主はサレンディア・ルナン様だからだ」
その忠誠心は主が変わろうと、アニメから一切変わらない。
そんな彼の様子に俺は口元を緩めてしまう。
「……何がおかしい?」
「いや、アンタは……変わらないな」
「お前と俺は初対面のはずだが?」
「気にしなくていいよ。俺がアンタのことを一方的に知っているだけだからな」
俺が鞘に納められたままの白刀を構えると、サイファが怪訝な表情を浮かべた。
「なぜ抜かない?」
「さあ? どうしてだと思う?」
「…………」
サイファの視線が鋭くなる。
内心で俺は震えながらも、身体は一切の震えなく普通だった。これもハレンのスパルタ教育のお陰かもしれない。
と————、
『お互いに準備が整ったようですので、間もなく決闘を開始します! 今回の決闘につきましてはアベル皇子の承認、及び魔法学院学生会の承認の下実施されます。審判は魔法歴史学担当のフィラー・アナベル先生が担います』
俺とサイファの傍に眼鏡をかけた男性が一礼しながら立つ。
『実況は魔法学院三年、放送部所属のネルネ・セイレンスが務めさせていただきます!』
ネルネ・セイレンスの名前は俺も知っている。
アニメにおいて、魔法学院魔法戦術競技大会において実況を務めていたキャラクターだ。
しかし、アニメにおける初回の決闘では実況はされなかったし、観客もこんなに多くなかったはず。
審判を含めて、あまりにも準備が良い。
「……初めからこのつもりだったのか」
俺は呟く。
サレンディアの狙いは明確だ。
大衆の前で俺がボロ負けする姿を見せるつもりだったのだろう。
しかし——アステリアが俺を守護騎士に任命しなければ、この催しは不発だったはずだが……。
まあ、良い。細かいことは後にしよう。
俺はサイファへ視線を向ける。
「お手柔らかにお願いしたい限りだよ」
「悪いが全力で行かせてもらおう」
「ま、アンタはそういうヤツだよな」
手加減できるようなヤツではないことは重々承知している。
良くも悪くもサイファという男は手抜きが下手なのだ。
『これよりカウントを始めます! 3カウントで0になりましたら始めてください!』
審判であるフィラーが場を離れる。
そして——、
『カウントダウン! 3、2、1————』
さあ、踏ん張っていけ俺。
勝ち目は薄いかもしれないが、悪役令嬢の思惑を叩き潰せ。
『0!』
ダンッ——大地を踏み砕いた音共に、俺の眼前にサイファが迫る。
咄嗟に俺は後ろへ跳び、その初撃を辛うじて回避してみせる。
「……少しはできるみたいだな?」
剣を片手にサイファは俺へ向かってそう言い放った。




