20:俺が思っている以上にヤバいのか?
アステリアの学院復帰前日の夜。
俺はいつもより早くベッドに入り、眠りについた——はずだったのだが、気がつくと見覚えのある露店の前に立っており、その傍にフードを深く被った黒ローブの男が立っていた。
辺りを見回すが、一寸先は闇。
俺たちの周囲だけがスポットライトが当たっているように明るい。
「また会いましたね、お兄さん」
「ああ——アンタ、あの露店の……」
フランクに話しかけてきた男は、俺にあの抜けない刀を押し付けた奴だ。
いや、結果として助かってはいるのだが……。
「ふむふむ、どうやらワテクシがお渡しした『白刀』はお役に立てたようですね」
「白刀?」
あの抜けない刀に銘が存在していたらしい。
しかし、白刀か——確かに名前の通りではある。
「アンタ、一体何者なんだ?」
俺は問う。
目の前の男は、間違いなく俺のことを知っている。
そうでなければ都合よく白刀を手渡したりしないはずだ。
そもそもの話、ここまでが上手くでき過ぎている。
「ワテクシですか? そうですね……端的に言ってしまえば、お兄さんの先輩と言うべきでしょうか?」
「先輩?」
「はい。もっとわかりやすく言いますと、魔法殺しの悪魔の先輩ってことですね」
男はそう言ってフードを外す。
そこには黒髪、金瞳の青年の姿が在った。
「では、名を名乗らせていただきましょう。ワテクシの名はサピロス・アイオライト。今はお兄さんにお渡しした白刀の意志ではありますが、嘗ては魔法殺しの悪魔として、この世界の未来を切り開いた者です」
さて、厄介なことになったぞ。
思わず、俺は口をへの字にする。
俺の知っているアニメの知識がまったく役に立たない設定が出てきてしまった。
もしかして裏設定だったりするのか?
俺は妹みたいにファンブックなんて読み込んでないから、こんなものをお出しされてもわからんが?
「は、はぁ……そんな大先輩が俺に何用で?」
「いえいえ、明日から世界の歪みへと足を踏み入れるお兄さんに激励をと思いまして、夢に現れただけですよ」
「世界の歪み?」
「はい。お兄さんもお気づきなのではないですか? 本来の未来と異なっていることにはね?」
俺は身構える。
元々普通ではないとは思っていたが、予想以上に普通じゃない。
「警戒はよしてください。別に取って食おうってワケじゃないんですから。元々、役目を終えたワテクシはあの世で優雅に死者ライフを送っているはずだったんですけどね? どうしてか女神様に叩き起こされて、一方的に『お兄さんの手助けをしなさい』と送り出されてしまったワケですよ。そうしたら何者かによって、世界に手が加えられていてビックリ仰天ですよ。ちなみにお兄さんは世界修正のために、女神様の独断によって無理矢理連れてこられた被害者ですけどね」
お互い女神様に振り回されて大変ですね——と、サピロスは同情するように言う。
どうやら俺はこの世界の女神様の独断によって連れてこられたらしい。
でも、どうして俺だったのか?
「どうして俺なの——みたいな顔をしていますね。女神様曰く『目についた中で一番人畜無害そうだった』とのことです」
「人畜無害……」
「ええ、ちなみにお兄さんの記憶にあるアニメなるもので描かれていたものが進むべき未来ではありますね」
「……あの、勝手に記憶を除くの止めてもらっていいですか?」
知らぬ間に俺はとんでもないことに巻き込まれていたらしい。
世界の命運を握らされたと言っても過言ではなさそうだ。
「ま、いまさら軌道修正は難しい。ならば、重要人物の死だけは回避しなければなりません」
「重要人物の死?」
「はい。彼女——アステリア・コランダム嬢の生死が世界の命運を分けます。現在、彼女の道筋は大きく外れております。彼女の死は世界の破滅と言っても差し支えございません」
流石は主人公。世界の命運すら握っていたのか————って、え?
「アステリアの死が世界の破滅?」
「はい。彼女はこの世界の主軸ですので、死んでしまえば取り返しのつかない事態になります。そこでお兄さんには死んでも彼女を護る必要があるのです」
すぅぅぅう、と息を吸う。
そして、ゆっくりと吸ったものを口から吐き出した。
「そのための力が『魔力殺しの魔眼』と『白刀』です。魔眼についてはお兄さんの意志で切り替えてください。身体能力は上がりますが、使いすぎると一時的に失明するのでお気をつけを。白刀の鞘は魔力で形成されています。普通では抜けず、魔眼で燃やすことで抜けるものです。その分、性能は折り紙つきですよ」
「ちょっと待って! 情報量が多過ぎる!」
「斬れ味の調整はワテクシが行いますので、お兄さんは気にせずブンブン白刀を振り回してください。お兄さんの意志を感じ取って、うまい具合にいたしますので」
俺はぽかーんと口を開けたまま、ただ「はぁ?」と声を漏らす。
「とりあえず明日から大変になるので、頑張ってくださいね。それとお兄さんが睨んでいる通り、サレンディア・ルナン嬢の中身が異なっておりますのでご注意ください」
「それって……」
「おやおや、もうすぐ夜が明けますね。では、ご武運を——六条蒼殿」
瞬間、俺の視界が揺らぐ。
「次に会う際のご報告をお待ちしておりますよ?」
その声が耳に届いたと同時に、俺の意識はベッドの上にあった。
ゆっくりと上半身を起こし、額に手を当てながら溜め息を吐いた。
「…………もしかして俺が思っている以上にヤバいのか?」
これから何が起こるのか?
ただ、厄介事だけは確実に発生することだけが確定している事態に、俺は眉間を摘まみながら頭を痛めるのだった。




