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アニメの主人公じゃない俺が婚約破棄された令嬢を助けることになった  作者: 霜月風炉


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19/26

19:成すべきことを成す

 それからの一週間は怒涛のように過ぎ去った。

 日中はハレンによる剣術指南。時折、他の騎士たちに揉みに揉まれ、最後はボロ雑巾のように突っ伏すことになっていた。

 陽が落ちてからはアステリアが教鞭を取り、この世界の文字を教わる。

 剣術指南はとにかく身体を動かして、食らいついて、体力の続く限り動き続ければなんとかなった。まあ、実際はもっと考えることはあるのだが……。

 意外にも文字の勉強がとにかく大変だった。

 発音は日本語なのに、文字はひらがな、カタカナ、漢字とは完全に別物。更にはアルファベットでもないのだから馴染まない。

 単語にしても見えている文字と日本語の発音が合致しない。

 例えるなら——「apple」と文字は記されているが、発音は「りんご」と言った具合だろうか。とにかく脳が……震えるくらいに疲れるのだ。

 人生で最も勉強をした期間だったと思う。

 高校受験? あれは中学の授業をしっかり受けておけば、偏差値が異様に高い学校以外ならなんとかなるものだ。

 さて、明日からアステリアが魔法学院に復帰すると共に、俺も彼女の守護騎士(シュヴァリエ)として、同行という名の下に編入することになる。

 魔力がからっきしの俺が魔法学院に? 冗談だろ?

 内心ではビビり散らかしているのだが、決まってしまった以上は腹を括るしかない。

 一応、ハレンからは「一部を除く学生以外では遅れは取らないだろう」という少しも安心できない言葉をいただいている。ああ、その一部が怖いんだよ。


「楽しみですね、アオ」


 目の前でルンルン気分で荷物を纏めているアステリアに、俺は「そうだな」と赤べこの如く頷いていた。

 いつの間にかアステリアが俺を呼ぶ際に「アオさん」から「アオ」と呼び捨てに変わっていた。突っ込むだけ野暮だと思ったので、スルーしていた。


「俺は面倒事が起こらないことを祈っているよ、アステリア」

 

 俺は守護騎士(シュヴァリエ)として、アステリアのことを「お嬢様」と呼ぼうとしたのだが、ハイライトの消えた瞳で「アステリア、とお呼びください」と脅迫(お願い)されたので呼び捨てしている。決して怖かったワケではない。


「学院に着いたら、職員室で先生と挨拶ですね」

「もう何回も聞いたよ。わかってるさ」

「この一週間でアオのことは大体理解できましたけど、結構な面倒臭がりですよね?」

「面倒臭がりじゃないな。省エネだ」

「省エネ?」

「おっと伝わらなかったか」


 省エネの説明をしつつ、俺は明日からの学院生活に思いを馳せる。

 サレンディアとサイファの関係。

 サレンディアの転生者疑惑。

 魔法学院内で起こる派閥抗争。

 …………既に胃がやられそうだ。

 更に懸念されることとして、件の婚約破棄だ。

 どこまで広がったのかはわからない。ただ、サレンディアとアベル皇子が在学している以上、少なくとも学院内では広まっていると思った方が無難だろう。


「大丈夫ですよ、アオ」


 俺の心配を悟ったのか、アステリアが言う。


「多少の嫌がらせはあるかもしれませんが、その時は護ってくれますよね?」

「……できる限りは頑張りますよ」

「できる限りじゃなく、断言してほしかったですね」

「善処します」


 くすくすと笑うアステリアに、俺は困り顔を浮かべる。

 まあ、なるようにしかならないか。

 手を抜くつもりはない。

 成すべきことを成す——それだけだ。

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