2:抜けない剣
「おやおや、これは随分と面妖不可思議なお兄さんではありませんか」
街を散策中にそんな声が聞こえ、俺は立ち止まりそちらへと顔を向ける。
大通りに立ち並ぶ露店のひとつ。黒いローブを身に纏い、深くフードを被った男がそこにいた。
周囲の露店が賑わっているのに対し、この怪しい男の露店には客の姿がまったくない。テーブルの上には水晶玉がひとつあるだけだ。
「お兄さん、どうぞこちらへ」
男は俺へ向かって手招きする。
さて、どうしたものか——周囲に人通りがあることを考えれば、危険性は少ないと思われる。
「……残念だけど、お金がないから何も買えないっすよ?」
男の露店へ近づき、俺は両手を広げながら言う。
「お代は結構ですとも。ワテクシが少々気になったもので、お顔を拝見させていただきたかったのです。なるほどなるほど、質の良さそうな変わった服装。黒髪に黒の双眸。そして、魔力無しとは実に面白い」
男の言葉の通り、俺の様相は非常に珍しいようだ。道中でもそれなりの注目を集めていたのでよくわかる。
しかし、最後の言葉だけは無視できなかった。
「魔力が無い?」
「おや、ご存じではありませんでしたか? ここまで魔力が無いお方はお兄さんが初めてです。きっと魔法が使えずにこれまで苦労されたのではありませんか?」
苦労はしていないけども今、夢が砕け散りました。
「ですが、嘆く必要はありませんよ。どうやらお兄さんには運命的な出会いがあるようです」
水晶玉を覗きながら男は「ひっひひ……」と不気味な笑い声を漏らす。
あまりの不気味さに若干引きつつも、俺は問う。
「運命的な出会いって?」
「言葉通りの意味ですとも。同時にお兄さんの成すべきことも、じきにおわかりとなるでしょう」
意味深なことを告げる割には、すべてを語る気が微塵も無さそうだ。下手に深堀りしてお金を請求されても困るので、これ以上の詮索は諦めよう。
「ワテクシの世間話にお付き合いいただいたお礼です。こちらをお送りいたしましょう」
男はそう言って、黒い鞘に納められた細く反りのある剣を差し出す。
パッと見だと日本刀のように思える。
「……あのお金ないんですけど?」
「不要ですとも。お話しした通り、こちらの品はお礼でございます。まあ、誰もこの鞘から剣を引き抜いた者がいない曰く付きの品ですけどね?」
思いっきり呪いの装備じゃないか。
いくらお礼の品とは言え、正直受け取ること自体が憚られる。
だが——と、俺は思案する。
現状、お金が無い。そして、この世界には冒険者が職業として成り立っていることを考えれば、鞘から抜けないことを差し引いても繋ぎとして有用かもしれない。
「——なら、折角だからいただきます」
男の差し出す剣を手に取る。
その時だった。
「ッ————⁉」
何かが繋がったような感覚がした。
ハッとして、男へと視線を向けようとしたのだが……。
「……は?」
男の姿はおろか、先ほどまで目の前にあったはずの露店が影も形も無くなっている。周囲の人々も何事もなかったかのようにしている。
幻でも見ていたのか——と、思うのだが、俺の手には男から貰った剣が確かにある。
「一体何だったんだ?」
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