15:その意志を私は確かめたい
仮説を話す前に、どこまで話すべきかを考える。
馬鹿正直に「この世界は創作物の世界なんですよ」と言ってしまっても良いものか——いや、ダメだろ。
目の前にいるアステリアたちを「創作上の人物と思えるか?」と問われれば、答えは「否」だ。俺がここで呼吸をしている以上、この世界は紛れもない現実だ。決して創作物ではない。
だが、サレンディアに対する仮説をどう話すべきか……。
「仮説でも問題ないさ。話してほしい」
コランダム侯爵の言葉に、俺は頷く。
「……お二人に話した通り、俺は異世界からやって来た異邦人です。これは俺の世界にある物語では良く語られる異世界転移と呼ばれるジャンルに当たります」
ハレンの表情が明らかに怪訝そうではあるが、仕えている二人が真剣な表情であり、口を挟まずに耳を傾けている。
「その中で異世界転生というジャンルがあるのですが、仮説としてサレンディアの中身の主人格が転生者の可能性があります」
確定ではないが、わざわざサイファを自身の守護騎士に添えているのだ。アニメの流れを知っているとしか思えない。
だが、転生者だとすれば疑問に思うこともある。
普通に考えると転生先に選ぶなら、主人公であるアステリアのはずだ。悪役令嬢であるサレンディアをわざわざ選択する必要があるとは思えない。
「その……アオさんは、どうしてサレンディアさんが転生者だと思うのですか?」
「ああ、詳細は聞かないでほしいんだけど、本来、サイファはとある出来事をきっかけに、君の守護騎士になるはずだった。だけど、どうしてかサレンディアの守護騎士となっている。これは明らかにおかしい」
この言葉には突っ込まざるを得なかったのだろう。ハレンが口を開く。
「待て。なぜサイファ・クルルシファーがお嬢様の守護騎士になるはずだったと断言できるのだ? 彼は一年も前からサレンディア嬢の守護騎士だぞ」
一年前から……と、なれば早い段階からサイファに手を出していたのだろうか?
「ちょっとした未来予知みたいなものです。精度は個々によって異なりますけど……。とにかくサレンディアに転生した主人格はサイファのことを知っていた。知っていたのならサイファという今世紀最強と謳われる騎士を手元に置くのも通りでしょう?」
「そんな与太話を信じろと? あまりにも荒唐無稽だ」
ハレンが声を荒げる。
常識的に考えれば当然の反応だと思う。俺としても反論のしようがない。
「…………私は、アオさんを信じます」
「お嬢様⁉」
「ハレン、貴女の言い分も一理あります。ですが、アオさんの言葉は間違いないと思います」
そう言ったアステリアが俺の顔をジッと見つめる。
「とある出来事——そこがアオさんの知る何かと異なっているんですよね?」
察しが良すぎるのも困りものだぞ、アステリアさん。
どうやら「とある出来事=暴漢に襲われた」が紐づいたのだろう。
「ですが、私は異なっていて良かったと思います」
「……いやいや、俺のような雑魚じゃなくてサイファだったんですよ? 俺で良かったなんて————」
「私はアオさんが良いんです」
アステリアの力強い言葉に、俺は口噤む。
「ふむ、とにかくサレンディア嬢が転生者の可能性があることは理解した。しかし、それが今後どのような問題になるんだい?」
コランダム侯爵は問う。
俺は「そうですね」と口元に指を当て、少し考えてから口を開く。
「絶対にこうなるとは言えませんが、おそらくサレンディアはアステリアに敵対心を抱いていると思われます。その筆頭は……婚約破棄の件でしょうか」
アレは本来の道筋だ。何もおかしいことではない。
だが、敵対心を持っていなければ、アステリアを嵌めるようなことはしないはずだ。
「敵対心を抱いている以上、今後も彼女に対しての嫌がらせは増えるでしょう。件の婚約破棄についても利用されるでしょうね」
コランダム侯爵の表情が歪む。
アステリアが潔白であったとしても、あの場において潔白の証明ができなかった以上、事実として広まる。
そして、それをサレンディアは利用する。これはアニメの筋書き通りでもある。
「なら、アオさんには私を護っていただかないといけませんね?」
「……そ、そうですね」
満面の笑みを浮かべて告げられた言葉に、俺は乾いた声で返事をする。
「正直、貴様が信用できるとは私は思っていない」
ハレンが言う。
それはその通りだ。貴女が正しい。
「明らかに貧弱な身体つきだ。剣が振れるかも怪しい。しかし、お嬢様を暴漢から救ったことは事実なのだろう?」
「あ、ああ……」
嫌な予感がする。
「ならば、その意志を私は確かめたい」
「意志ですか?」
「そうだ。貴様の剣を持って修練場へ来い。その意志を見せてもらう」
…………修練場?
「えーっと、それはどういう意味なんです?」
「戯け! 模擬戦だ」
ハレンは「察しが悪いな」と言わんばかりの様子で言う。
「アオさん、頑張ってください!」
「私も君の活躍を見せてもらおうかな」
アステリアとコランダム侯爵の言葉に、俺は乾いた笑いを漏らした。
「は、ははは……頑張ります、はい」




